第百十九話 サバイバルのお話④
「しっかし……邪魔だなぁ」
『三叉神樹の森』での狩りを続け、とりあえず森の中央に行くほどモンスターが強くなるというのが分かった所で、俺は一人ごちる。
何が邪魔なのか。それは、この鬱蒼と茂る独特の形状をした木々である。中央に行くほどに大きく太くなる幹が邪魔くさい。空から差し込む光の量も減って来てるし。
戦闘ごとに周りの木をぶった切っているのだが、それも面倒になりつつあるのだ。開けた場所でいつも戦える訳ではないというのは分かっているのだが、やはり森の真っただ中で戦闘とか馬鹿みたいだよなぁ、と。これもゲーム故なのだろうが、せめて森の中に道的なものがあれば良かったのに。
マップがあるから、同じところを行ったり来たりしなくて済むが、だからといってフィールドの形状が不親切過ぎやしないだろうか? 最初にいた広場から出てからこっち、開けた場所は未だに見つかっていないし。
……あれか。こういうところも含めて『ヘル』だということかね。それならそれで、受け入れるしかないんだろうけど。
ちなみにだが。俺が切り倒した木は、よくよく見てみるとアイテムになっていた。
『三叉神樹材(地獄級)』という木材アイテムのようで、生産系でもなんでもない俺には関係ないアイテムなのだが、エリザのためにと一応回収はしている。放置していると粒子化して消えてしまうので、戦闘が長引くと回収できないんだがな。
森に出てくるモンスターは今のところ『ヘルベアロット』『ヘルディアホーン』『ヘルボアレッド』『ヘルヴァイパー』『ヘルビートル』『ヘルセンチピード』などなど、多くの種類を確認している。レベルは70からで、今確認している最高が77だ。
そして各々が例にもれず高い知能と能力を有しており、俺を存分に楽しませてくれた。基本的には同じ種族で固まって出てくるようなのだが、ときどき他種族と連携をとって、大群で攻めてくることもあるから注意しなくてはいけない。
特に厄介なのは『ヘルヴァイパー』という蛇と『ヘルセンチピード』というムカデで、前者は牙から紫の液を滴らせ、後者は口から紫の霧をはいてきた。おそらくどちらも毒の状態異常になる攻撃だろう。
今の俺の最大の弱点は、毒やら火傷やらの状態異常攻撃だからな。また、直接的なダメージはなくとも麻痺や睡眠を喰らったら同じく致命的だし。
麻痺の方は状態異常にかかっても『偽腕』を動かせる可能性があるが、睡眠は恐らく完全アウトだろう。状態異常対策も何かしておかないとヤバいのは分かっちゃいるが、どうにもならないんだよなぁ。
今のところ、攻撃を【バーストエッジ】で吹き散らすなりして対処してはいるが……やはりMin値が0だからか、ちょっとかすっただけでもホイホイ状態異常化してしまうものな。気を付けないと。
と、そんな感じで自分の弱点を再確認しながらもずんずんと森を進んでいくと、遂に辺りが完全に真っ暗になった。これは周りの木々がいよいよもって頭上で葉を茂らせ、太陽光を完全に遮っている……というのもあるのだが、単純に夜になったのだ。
メニューで時間を確認すると、現在時刻はゲーム内の時間で22時。現実世界の12時からスタートして、仮想世界の中でも普段と同じように(加速した世界での)時刻が表示される。それとは別に、現実世界での本当の時刻も表示されるがな。
さて……どうしたものか。
俺は【暗視】などのスキルをとっていないため、この暗さの中森を進むのは骨が折れるだろう。ちなみにモンスターに襲われて危険、という意味では無い。そちらは最悪【危機察知】さえあれば、目をつむっていてもなんとかなるのだから。
俺が懸念しているのは、周りの木に何回もぶち当たる方だ。現に今だって、三回ほど木に正面衝突している。なんでここの樹には気配とか無いんだよ。地味に不気味だな……。流石に少しは痛いし、嫌にもなってくる。
とはいえ、休むにしても広場もなにも無いんだよなぁ。モンスターの襲撃は警戒しなくちゃだし。
……周りの木を切り倒して場所を確保して、そこでモンスターが襲ってくるのを返り打ちにすればいっか。
幸い眠気はやって来るものの、現実よりは弱く三日くらいなら徹夜でも大丈夫そうだ。
疲労は支給品の『水』で回復できるし、擬似的な空腹状態も『携帯食料』でなんとかなる。このアイテム、中々優秀なHP回復効果が付いているんだが、どうせ俺は戦闘中にHP回復なんかしないからここで食べて良し。
食料が尽きたら、インベントリからモンスターのドロップ肉でも取り出して食べようかと思ったのだが……ゲテモノを食わなくて済みそうで一安心だ。一応生肉だしなぁ。【バーストエッジ】で調理……や、無理か。
ちなみに『水』はペットボトルに入った水が実体化されるのだが、中身を空にしても容器が消えない。それどころか、インベントリ内で『水』とは別に『空のペットボトル』として枠を取る始末だ。
……どこぞに水を補給できる、川か湖でもあるってことだろうか。俺は運悪く今日中に発見できなかったが、それならそういう場所を探しながら探索をするのもいいな。
考えながら、両手に剣を呼び出して振りまわしながら歩く。
「と、こんなもんか」
直径10m程の広場を簡易的に作り出して満足する。
さて、じゃあ後は夜が明けるまでここでモンスターを待ち構えるとするかね。『誘香の腕輪』は最初からつけているが、どうもいつもよりモンスターの集まりが悪いんだよな。まぁ、大量に来すぎても流石に辛いものがあるからいいんだけど。
今の俺のレベルは、今日一日だけで3つも上がって68。最初の方は『EXPポーション』を使っていたとはいえ、〝ベルセルク〟の効果もあるのにこの上がり方は凄いよな。さすがは最高難易度のイベントフィールドってところか。
この調子だと、イベントが終わる頃にはレベル75をこえているだろう。これはこれまでの経験からして、次のボスのレベルだ。帰ったらその足で第五のボスを見に行くのもいいかもしれない。
―――
さて、『IWO』での夜も真っただ中、深夜の2時くらいのこと。
しっかし……やっぱりここの相手の量と質に対して、ソロだときついなぁ。
特に夜は、そう感じる。おびき寄せ作戦を行ってから今まで、散発的に襲撃があったのだが、昼間とは違うモンスターが出現するのだ。
特に『ヘルウルフォン』と『ヘルウルフォンリーダー』が多く襲いかかって来るな。狼さんたちだ。こいつらは『ヘルウルフォンリーダー』を司令塔に、十匹くらいの群れで行動しやがる。
いったんリーダーを倒してしまえばあとは動きが鈍って只の的と化すのだが、リーダーがまた強い上に手下の狼が絶妙に邪魔をしてくる。
リーダーを狙って投擲をしようにも、こっちの腕の数は手下の狼の対処をするのにいっぱいいっぱいで、そんな余裕が無いのだ。なので結局、リーダーを最後に残して端から狼を倒すハメになる。
しかもリーダーは遠吠えで仲間を鼓舞したり、体力を回復させたりするのだ。これがチームワークか……とモンスター相手に、その連携の精度を嫉妬する俺。
まぁ、最終的にはなんとかなるんだけど。ソロ舐めんなし。
しかし、これ以上奥でこの狼たちに出会ったら不味いかもしれない。
こちらの手数が足りなくなってくるだろう。どうしたものかね……
そんなことを思いながらメニューを弄っていると、自分のMPがいつの間にか4000を超えていることに気が付く。夜の間に、レベルは70にまでなっていたのだ。夜のモンスターの方が経験値の入りが美味しいのか、それとも〝ベルセルク〟の経験値減少ゾーンを抜けだしたからか。
ちなみに、どうやらこのイベントの中では日が変わっても〝ベルセルク〟の基礎Str上昇は更新されないようだ。一日の上昇限界は、現実の時間に依存しているらしいな。
『偽腕』一本出すのに必要なMPは400。今なら『偽腕』を同時に十本だせるんだよなぁ……
……あ。
そこまで考えて、気が付く。
俺の持つスキル【武器制限無効化】は、武器を装備状態でなくても扱えるようにするスキルだ。そのため、俺はどんな武器だろうと、インベントリの所持数限界である10本まで同時に扱える。
そして今、俺のインベントリの中には、モンスターからドロップした武器が数多く眠っている。これらは装備をするまで、インベントリの所持数制限に引っ掛からない。
つまり。今の俺は……武器を、10本よりも更に多く扱えるんじゃないかと。
といっても、『偽腕』と俺の両腕を合わせても12本が限界数だが、この2本分を馬鹿にしてはいけない。例えば今までのように戦うとすると、この2本は常に投擲を行っていられる訳だし。
……ふふ、良い事を思いついたな。
早速、自らの周りに展開していた『偽腕』を一旦消す。
効果時間が任意なので、MP節約のために出しっぱなしにしていたのだ。ちなみに今は戦闘外なので自然回復によりMPは全快している。
そして再度、今度は10本に数を増やして『偽腕』を周囲に展開した。
暗闇で良く見えないが、きっちりかっちり円形に展開できたはずだ。うん、これでよし。
さて、そうとなったら俄然いままでよりもやる気が満ちてきたな。早く襲ってこないかなぁ、狼共。
『ポーン』
ん? お知らせ音?
『偽腕』を出した直後に鳴り響く電子音。
何に対してか見当もつかないまま、とりあえずメニューを除いてみると、そこには二つの通知がきていた。
『称号〝偽腕の行使者〟を手に入れました』
『【異形の偽腕】の上位変化条件を満たしました』
おお!
ついに来ましたか。『偽腕』の上位変化。
……一度に10本出現させるのが、鍵だったようだな。
上位変化は、幾つかある中から選べるようになっているらしい。最初はなんだこのネタスキルと思ったが、真剣に分岐があるようで呆れたものだ……
まぁ、とりあえずそれは置いといて、先に称号の効果を確認してみる。
〝偽腕の行使者〟
【異形の偽腕】及びその上位変化スキルの消費MP減少-25%
『腕』の発生起点を自身の半径5m以内で動かせるようになる
消費MPが軽減されたか。
ということは、MP300で『偽腕』が出せるようになるから、今出せる最大数は……13本だな。俺自身の腕と合わせて、計15本。
一気に増えた『偽腕』への対応は……まぁ、できるだろうけど。なんとなくだが、まだ増えても大丈夫な気がする。脳のキャパシティが大分強化されてるよなぁ、と思う今日この頃だ。
まぁ、毎日のように常用してりゃあそうもなるだろうが。
そしてこのイベント中も何回かあったんだが、『偽腕』の位置を変えるのに一々消して出現させて、をするのはMP的に厳しいものがあるからな。『偽腕』の発生起点――――恐らく黒い靄のことだろう――――を動かせるようになるというのも有り難い。『偽腕』はそこからにょっきりと出現する訳だが、靄自体は今まで微動だにせずに空中にただあるだけだったからな。
移動速度の方も、『偽腕』の旋回速度を見るにそこそこ期待していいだろう。
そして、上位変化の方は……
と、上位変化一覧を見て……俺は絶句した。
なぜなら、上位変化の分岐が、異常に多かったからだ。
普通は一つか二つのはずなのに、これはなんと――――六つもあった。
【隠蔽の偽腕】AS
自身以外には不可視の『腕』が増える
『腕』で掴んだ自身の所有物は、同じく自身以外には不可視となる
効果時間:任意
※操作は個人によって適正有り
【操士の偽腕】AS
あらゆるものに触れる事の出来る『腕』が増える
自身のInt値が対象のMin値を大きく上回っている場合、『腕』で掴んだ対象を操ることが可能
効果時間:任意
※操作は個人によって適正有り
【全能の偽腕】AS
『腕』が増える
『腕』に適用される全てのステータスの値が、
自身のステータスの中で、最も値の高いステータスと等しくなる
ステータスの加算合計に応じて、消費MP上昇
効果時間:任意
※操作は個人によって適正有り
【多従の偽腕】AS
『腕』が増える
『腕』の発生起点を自身の半径15m以内で動かせるようになる
発動時に増やした『腕』の数まで、スキル発動中に新しく『腕』を増やせる
効果時間:任意
※操作は個人によって適正有り
【神行の戯腕】AS
あらゆるものに触れる事の出来る『腕』が2本のみ増える
『腕』で触れた対象が敵だった場合、以下の効果を得る
①戦闘終了まで、対象の全ステータス減少-30%(一度のみ)
②対象は『腕』が触れている間、毎秒HP減少2%
③対象は『腕』が触れている間、状態異常〈天罰〉が付与される
『腕』で触れた対象が敵で無い場合、以下の効果を得る
①戦闘終了まで、対象の全ステータス上昇+30%(一度のみ)
②対象は『腕』が触れている間、毎秒HP回復2%
③対象は『腕』が触れている間、全状態異常無効化
効果時間:任意
※操作は個人によって適正有り
【神行の犠腕】AS
『腕』が3本のみ増える
ダメージを受けた際、『腕』が一つ消滅しダメージを肩代わりする
全ての『腕』が消滅後300秒間、再発動不可
効果時間:全ての『腕』が消滅するまで
※操作は個人によって適正有り
これは……どうしたもんかね。
犬耳の方の更新もしたいなぁと思いつつ、時間が取れない……
3/1 【神行の犠腕】の効果時間修正