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第百十八話 サバイバルのお話③

「――――……と、つまりこういうことだ。折角二人もいるのに、勿体ない。お互いの力量を全く引き出せないようじゃ、一人で戦った方がマシじゃないか? ってレベルだな。ま、精々精進しろや」


 決闘が終わった後の広場にて。

 俺はミカエルとフィーアに請われて、今の戦いでの改善点を指摘してやっていた。一番何が足りないかっつったらミカエルはプレイヤースキルだし、フィーアは決定打だな。そして二人に共通にして言えることは、もっと敵を見て状況判断をしろってことだ。

 モンスター相手ならどうでもいいかもしれんが、プレイヤーを相手にするのには思考がお粗末過ぎるんだよなぁ。まぁそれは、俺が今まで戦って来たほとんどのプレイヤーに言えることでもあるんだが。

 『IWO』は対人戦がメインじゃないし、仕方ないっちゃ仕方ないのだろうかね?


「今のお前等じゃあ、ヤタガラスにも負けるぞ?」

「……あの、師匠。確かに僕はいずれ『虹の魔道師』も打倒する予定ですけど、だからといってそんな簡単な相手じゃないと思うんですよ。勝って当たり前みたいに言われても、」

「何言ってんだ。勝って当たり前だろ」

「「えっ」」


 だってヤタガラスの奴、『テルミナ』の頃とは違って隙だらけの魔術師タイプなんか選んでるんだぞ。しかもかなり正統派な、後方から魔法ぶっ放すのだけがお仕事ですよーってタイプ。そんなんが対人戦で活躍できる道理もない訳だ。勿論、勝つのもたやすい。

 魔術師系プレイヤー全員に言えるって訳ではないが、近接戦にどうしても弱くなりがちなだけ、与しやすいはずだ。


「……いや、それは……どうでしょう」

「ヤタガラスさんも、前のPvP大会で決勝進出してますし」

「あんなん偶々だろ」


 あいつが本気で構成して戦闘をしたら、少なくともオルトスさんと互角以上にやりあえるとは思うけど。

 まぁでも、魔術師がやりたいって『テルミナ』の頃も言ってたしなぁ。

 俺としては、それで弱くなってんなよ、って感じではあるが……極振りなんて馬鹿なことしてる時点で俺が言うことではないか。


「……ふぅ。まぁ、あの馬鹿の話はどうでもいいんだ。

 とにかくこれでお前等もわかっただろう? お前等は完全に足手まといだ」

「……くっ。そう、ですね」

「返す言葉もないです」


「じゃあ、俺はそっちに行くから。お前等は反対方向にでも行ってなさい。あと、イベント中に見かけてももう声掛けるなよ」

「「……はい……」」


 唇を噛みしめ、しょぼくれて歩きだす二人。

 そんな気概でサバイバルを生き残っていけるか疑問だが、まぁ俺の知ったこっちゃないな。

 遠くなっていく二つの背中にひらひらと手を振って、俺も森へと入っていくことにする。

 ちなみに、木が襲ってくるとかは無かった。




「『ライトニングソード』ォォォォオオオオオオオ!!!」

「『ピアシング・パニッシュメント』ッッ!!!!」




 ドゴーン、バキバキー、と後ろの方で凄い音がした。

 ……若者は元気だなー。

 これなら大丈夫そうで、なにより。




 ―――




 グァァアアアアアア!!


 でかい熊に鎧を着せて、盾と剣を持たせたようなモンスター『ヘルベアロット』。

 ミカエル達と分かれてから早々に出会った最初のモンスターだ。それも、三体同時出現。

 初めはいつものように瞬殺かと思っていたんだが……


「らぁ!」


 キン!


『偽腕』から放つ剣撃を盾でうまく受け止め、じりじりと展開した『偽腕』の内部に迫って来るヘルベアロット。それが前に二体、後ろに一体と俺はなかなか苦戦していた。

 ちなみに周りの木々は既に伐採済みだ。破壊可能で良かった。


 やはり盾持ちのモンスターは総じて防御力が高く、『ヘル』というフィールド難易度も合わさってのことなのか、盾の上からじゃほとんどダメージが入らないな。

 ぶっちゃけ、ミカエルよりも硬い。それでいて、完全にプレイヤーを相手にする用に組まれたであろう思考AIを持ち、技量ではあいつよりも遥かに上だろう。

 というか、マドリーデムより強いんですけど。何この極端なバランス。ヘルモード上等すぎるだろ。


「【バーストエッジ】」


 グルァア!?


 鎧クマが『偽腕』の持った黒剣を受け止めるタイミングを測って、俺は両手の剣から範囲を絞った赤黒い爆発を叩き込む。

 これは流石に効いたようで、三体のヘルベアロットは大きく後ろに後退した。とはいえ盾を離していないし、そもそも吹っ飛ばして大きく体勢を崩そうと思っていたのに、それも達成できていない辺り、このモンスターの強さがうかがい知れるな。


 この森には、このレベルのモンスターがごろごろいると思うと……ホント、



「――――くっははは……くっはははははは!!」



 ……楽しいじゃねぇか!

 最近は骨のある奴が居なかったからな。この二泊三日、充実したものになりそうだ。


 グアルッ!!


 距離を取った前方のヘルベアロット二体は、何やら力を溜めるようなモーションを取る。

 そいつらの足元からは、オレンジのオーラが溢れて来ていた。


「させるかボケ!」


 そこに瘴気を纏ったナイフを投擲し、なにやら危ない匂いのするオーラの発現を止めようとする。

 が、いつの間にか前に回って来ていた一体が、盾を構えてナイフを弾いてしまう。

 ガガガガガ! と激しい金属音が鳴り響くが、盾を構えたヘルベアロットは微動だにせずに、投擲を受け止め続けた。

 ……ふむ。ちょっと、実験してみるか。


 そして、数秒ほど投擲を続けた結果――――


 バキィン!


 と派手な音を立てて、その盾が粉々に砕け散って光の粒子と化し……守りを突破したナイフがヘルベアロットに大量に突きささる。


 ガァアアアア!!?


 盾を失い、無防備に身体を貫かれたヘルベアロットは一気にそのHPを減らして、消滅した。

 それと同時に、後方では二体のヘルベアロットが両腕を突き上げ、歓喜の雄たけびをあげていた。どうやら、強化状態っぽいものになってしまったらしい。

 厄介ではあるが……今の攻防で、こいつらへの対策が見えてきたな。まずは一番邪魔な盾をぶっ壊して、本体を叩くっと。


 じゃあそろそろこっちからも、本格的に攻撃を開始しますかね。

 中級MPポーションのお陰で、MPもほぼ全快している。


「〝彼の者に強き力を与えよ〟『筋力付加』〝彼の者に更なる力を与えよ〟『筋力重加』」


 まずは切れかけていた付加魔法の掛け直し。周りの瘴気が紅く輝き、相手を威嚇する。


 それに応えた訳ではないだろうが。

 揺らめく炎のオーラを纏う二体が、強化されたスピードで盾を構えながら突撃をしてきた。

 先ほどよりも数段速く、そして力強さも感じる。ステータスが全体的に向上していると考えるのが妥当だな。


 一瞬で距離を詰められるが、相手は二体。対して、こちらの剣は十本(実際に迎え撃つのは八本だが)。

 止められない道理が、どこにあろうか?


 一旦八本の『偽腕』全てを消し去り、一瞬で前方に再展開。

 そして一体につき四本の剣でもって、複撃統合――――


「【斬駆】ッ!」


 右側のヘルベアロットにのみ、赤黒の刃が襲いかかった。

 ……標的が複数いる場合は、流石に全てに【斬駆】を乗せるのは無理らしい。

 同じタイミングで突っ込んで来てくれる訳でもないし、予想はしてたんだが。

 【斬駆】が無くとも相手の勢いは止めることが出来たようだ。まぁ、使えるMPも少なかったしな。【斬駆】も保険みたいなものだったんだが。

 四本の剣による複撃統合によって、ヘルベアロットの構えていた盾がベコン! と大きくへこむ。


「まだまだぁ!」


 そのへこみに向かって、再度剣を振るう。

 ヘルベアロットもこちらの意図は分かっているのか、サッと飛びのき追撃をかわした。それに追いすがるように、両手で剣を投擲する。


 ガキン! ガキン!


 と盾で防がれるが、それでいい。

 直接攻撃した方が破壊値は溜まりやすいと思うんだが、別に相手が離れるってのなら投擲でも問題はないのだから。


 グルゥゥゥウ……


 俺は投擲を続行する。

 ヘルベアロットは攻めあぐねているようだ。まぁ、このままじゃジリ貧だからな。かといって近づく事も遠ざかることも良い手とは言えない。

 今は投擲を回避する方向で動いているが、流石に全てを避けられる訳でもないようで、盾も使ってしまっているし。


 相手の選択肢を潰していくのは、戦いの基本だ。徹底的に対策を講じ、何をしても無駄と思わせて、そしてそれに相手の精神が少しでも屈した時こそ――――


 二体のヘルベアロットが、迫りくる剣に対して最初から盾を構えた。


 ―――バリィィン! バリィィィン!

 ガァァァァァァァアアアアアアアアアア!!


 勝負が、決する時である。


 盾を破壊されたヘルベアロットに五本ずつ剣が突きささって、二体は消滅した。

 同時に『ポーン』とお知らせ音が鳴って、俺のレベルが上がる。経験値高そうだったし、加えて『EXPポーション』のお陰かな。ドロップアイテムを確認すると、『地獄鎧熊の毛皮』『地獄鎧熊の兜』『地獄鎧熊の装甲』『地獄鎧熊の肝』『ヘルベアブレード』と、どうやらイベント独自の素材を落としてくれるようだ。


 最後の『ヘルベアブレード』は片手剣。このゲーム、一部のモンスターは武器をドロップすることがあるのだ。ドロップ武器は一度街に入るまでは所持数制限とは別にカウントされるし、複数持っていても枠は一つにまとめられる。

……ここのモンスターが武器をドロップすると知っていたら、『黒蓮』を一本置いて『茨の黒手』を持って来たんだがなぁ。まぁ、今言ってもどうしようもないか。


「ふぅ……あー、楽しい」


 出てもいない汗を拭うようにして、俺は歯ごたえのある戦闘の喜びを実感するのだった。



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