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第百十六話 サバイバルのお話①

 


 2月6日、日曜日。


 『グレンデン』の街のギルドホーム。

 そこでギルド『花鳥風月』のメンバーは、イベントの開始を待っていた。


 そして、カウンターの奥に掛けられているアナログ時計の針が正午を示した時、突如として耳元に響く、ジャッジさんのアナウンス。


『それではただいまより、IWOサバイバルゲームin三叉神樹の森を開始致します

 皆様、アイテム等の用意はよろしいでしょうか? 準備ができましたら、今より30分以内に専用メニューより開始ボタンを押してください 三叉神樹の森へ転送されます

 ポイント獲得条件等、詳しいルールはフィールド内でも確認できますので、ご活用ください

 では、皆様の健闘を期待しております』


 手短な説明を済ませると、プツッ、という微かな音とともに声は聞こえなくなった。まぁ、ルールとかも事前にお知らせがきてるし、フィールドの中でも確認できるのだからわざわざ口頭で説明する必要も無いと言うことだろう。


 俺はテーブルについたまま、ゆっくりと皆を見回した。

 白い改造着物をきたカリン、スポーティな水色の装備を身に纏うフレイ、神官風の服のノエル、ハロウィーンカラーな魔女っ娘のリッカ、そしていつものゴスロリに部分鎧を追加したエリザ。

 全員、戦闘衣装に身を包んでやる気十分だ。


 俺はというと、豪奢なファー付きコートを基調としたいつもの魔王ルックである。

 装備は変わっていないが、やる気に満ちていることは変わらない。なんたって、二泊三日だしな。三日目の真夜中までがタイムリミットだ。

 『IWO』の再現力ならば、その間はそれこそ異世界に転移したかのような生活ができるんだろう。つまり、モンスターと戦い放題……ああ、早く出発したい。

 が、しかし。今はその気持ちを抑えて、ギルドマスターであるカリンを見据える。アナウンスを聞いて立ち上がった彼女は、イベント前になにやら一言、景気付けに喋るらしい。


「さて。では皆、用意は良いかな? ポーションは詰め込めるだけインベントリに詰め込んだかい?」


 カリンが皆を見回して確認する。

 俺も一応インベントリをのぞくと、そこにはまず『下級MPポーション』、『中級MPポーション』がそれぞれ99個。ポーション系のアイテムは基本的に10個までの所持なのだが、前のクリスマスイベントからも分かる通り、イベント中ではそれが解禁されることが多いのだ。

 そして今回は、挑む難易度ごとに所持数が変わる。『ヘル』に挑むならそれは99になるというわけだ。ちなみにこうやってインベントリに納められるのは街の中だけで、普通のフィールドにでたり、『ヘル』以外難易度に挑むと余剰分は自動的に倉庫に送られるようだ。

 『超級MPポーション』や『蘇生石』の制限は流石に解放されなかった。残念。

 という訳であとは『超級MPポーション』が1個に、『蘇生石』が一個、『聖水』が3個、ボス初回討伐報酬である『紅砕の霊薬』が1個。

 ナイフは99個×3が一枠になったセットがちょっと多めに5枠分。


 更には、お詫びとしてもらった『EXPポーション』が3個。こういうイベントって、経験値の入りがいいことが多いからな。それを見越して、あえてイベント前の追い上げでは使わなかったのだ。

 戦闘支援アイテムはまぁ、こんなところだろう。後は『黒蓮』が10枠分入っている。


 ちなみに、『茨の黒手』は『黒蓮』が十本フルで使えるようになったため、倉庫に預けている。インベントリに装備を10個までしか入れられないというのは、割と面倒な制限だよな。まぁ、『茨の黒手』は対ボス決戦兵器なので、サバイバルに持っていく事もないと思うのだが。


「ばっちしですよー。超級ポーションに聖水、そして蘇生石!」

「こんなに豪華な装備で挑めるのも早々無いわよね」

「ですね。いざとなれば携行型朱鳥居で支援幻獣も召喚できますし」

「準備万端、だねっ!」

「全部俺が取ってきたやつじゃねぇか……」


 女性陣がウキウキと確認を行っているが、俺はなんとなく突っ込まずにはいられなかった。


 ちなみに俺は鳥居はパスだ。出てくる支援幻獣はランダムなんだが、HP回復系が多いらしいからな。そんな無駄なもんのために枠を割きたくない。


 そんな俺に、カリンはにっこりと笑って親指を立ててくる。


「クノ君、グッジョブだよ!」

「……うん。いやまぁ、いいんだけどさ。なんかカリン、開き直ってないか?」

「ははは、なんのことかな? 私は使えるものはなんでも使うと言っているだけダヨ」

「カリン、笑みが乾いているわよ」

「……うん。もうね、仕方ないじゃないか。クノ君だもん。クノ君なんだもん」


 急にシュンとしてしまうカリン。


「もん、ってお前……」


 口調が幼くなるほどか。なんだよ、クノ君だもんって。

 俺と言う固有名詞は、一体どんな意味を持っているというんだ。


「ええと、あの。クノさん、感謝はしてます。いつも本当に、有難うございます」

「まぁクノくんだもんねー! その内なんとかの霊薬とかも大量に持って帰ってきそうだよ~」


 ぺこっと頭を下げてくれるのは、いつも礼儀正しいノエルちゃん。

 なんだろう、この娘の眩しさは。ちょっと捻くれてしまったお兄さんには刺激が強いかもしれないな。そんな彼女に「いいよいいよ。仲間なんだし」と手を振る。

 そしてリッカ。その若干期待するような目はやめてください。霊薬ってあれだろ? ボスの初回討伐報酬に含まれてた奴。流石にあんなもん大量入手する方法なんか思いつかないし。て言うかそれは流石に色々とヤバいだろう。


「あー。クノさんならあり得そうですよねぇ。今回のイベントの賞品に入ってましたっけ?」

「さぁな。てか、賞品はまだ発表されて無いんじゃないのか」

「いえ、一部は公開されてますよ? 目玉商品は、片手剣の『エクスカリバー』だそうです」

「ふぅん。どこぞの勇者が欲しがりそうだな」


 ミカエルとか言う、無駄にキラキラしたイケメンを思いだす。


「『エクスカリバー』は全ての難易度で獲得できるらしいんですけど。『ヘル』で得られるやつの能力が桁違いらしいです。クノさん、いっちょ狙ってみます?」

「バカ言え。俺はエリザが作った剣以外に興味はねぇよ」


 『黒蓮』はかなり気にいってるしな。なんだかんだいって、同じデザインで最初から今まで使い続けているのだ。愛着も湧くというもので、できれば最後まで相棒としていきたい。


「あら、嬉しいことを言ってくれるわね」

「そりゃあな。エリザのことは信頼してるし」

「……ふふ。そう」


「おーい、二人とも。いちゃつくのはやめてくれないかい」


「「いちゃついてない!」」


 ……まったく。そうだったらどれだけ良いか。


「あーはいはいそうだねー。

 じゃあ皆、そろそろ行こうか。……クノ君は、本当に『ヘル』に挑むんだね?」

「まぁな」

「私達も、クノ君くらい強かったら良かったのだけれどね……『ベリーハード』止まりだよ」


 肩をすくめるカリン。


「まぁ、クノさんを目指すのはあらゆる意味で間違ってる気がしますけどねぇ」

「そうほいほい辿り着ける領域じゃないもの。私達は身の丈に合った難易度で精いっぱい頑張りましょう」

「そうですね。『ベリーハード』だって十分過酷でしょうし」

「だねー。じゃあクノくん。頑張ってねっ!」


「おう」


 そんな感じで激励し合って、俺と『花鳥風月』のメンバーはそれぞれの場所へと赴く。ギルド内から、カリンを最初に次々と皆が転移していく中、残ったのは二人、俺とエリザだ。


「じゃあ、行ってくるな」

「……ええ。その、頑張ってね」

「ああ、そっち……エリザこそ、頑張れよ」


 パン、と彼女と軽くハイタッチをして、俺はメニューから『三叉神樹の森(ヘル)』へと飛んだ。


 ……ふっ。今ならマドリーデムの瞬殺時間記録を塗り替えられそうだ。身体が軽いや。





 ―――




 視界が暗転し、再び元に戻る。

 急に色のつく視界にも【死返し】で慣れているため、俺はすぐさま状況の把握を開始した。

 イベントの最高難易度フィールドなんだ。最悪、転移した瞬間に襲われるということも考慮して、既に両手には『黒蓮』を携えている。そしていつでも『偽腕』を呼び出せるようにしながら、ゆっくりと辺りを見回す。


 俺はどうやら、森の中にある広場のような場所に転送されたらしい。周りは鬱蒼とした木々で覆われており、頭上からは太陽の日差しが降り注いでいるというのに、奥は見通せない。

 木々の隙間は人やモンスターが通れそうなくらいはあるから、そこでの戦闘も覚悟するべきか。『偽腕』や剣の扱いには要注意っと。


 そして、木の形がまた特徴的だな。太い幹が一本あって、そこからは二本のこれまたしっかりとした枝が伸びている。他にも細かい枝があって葉をつけているんだが、この三本のインパクトが強い。周りの木々は、全てこの種類のようだ。良く見ると、幹や枝からは微かに銀色の光が漏れているな。

 なるほど、これが『三叉神樹』ってことなのか? ……フィールド名にもなるくらいだしなぁ。襲ってこないだろうか。近づくと喰われるとか。まぁ、そこら辺は追々確認していこう。


 そして広場に目を戻す。

 そこには、俺が転移した時から二人の先客がいた。無論、俺が放置したことからわかるだろうがモンスターではなくプレイヤーである。

 それも、俺の知った顔だった。




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