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第百十五話 イベント前夜のお話

 2月5日、土曜日。

『花鳥風月』の面々が第五の街『グレンデン』に来てから二週間と少しが過ぎた。

 俺がこの二週間で徹底した事はといえば、レベル上げである。

 グレンデンに辿り着いた当初の俺のレベルは46。対してグレンデンの南フィールドのモンスターの最低レベルは60。普通に戦う分には何の問題もない・・・・・・・のだが、それでも流石に見栄えが悪すぎるということで、せめてギルドの皆に追いつこうと思ったのだ。


 ちなみに、『蘇生石』からの〝復讐者〟コンボは今のところ数回しかやっていない。

それは何故か。やはり『蘇生石』の所持数制限がネックになる上に、第五の街のモンスターも俺のStrの前では、〝復讐者〟なしでも一撃で光の粒子になるからである。

 ……うーん、やっぱ使いどころ難しいなぁこのコンボ。火力が足りないと思ったら使えばいいんだろうけど、今のところそんな場面は無いっていうね。びっくりだよ。


 それでももはや妄執のように、上げられるだけ上げ続けるけど。次のボスには初見で使って、一撃必殺でも狙ってみようかな?


 ちなみに〝復讐者〟の効果中は、怨念を押し固めたかのような"黒い鎖"が手足に絡みついた。赤黒ではなく黒であるあたり、この称号の強力さがわかる……のだろうか。

 それとも【惨劇の茜攻】は称号のエフェクトには干渉しない? ともかく、いかにも過ぎて逆にカッコいい! でも使いづらーい! 


 と、話が逸れた。 

 『花鳥風月』の俺以外のメンバーの平均レベルは、現在68だ。

 そして俺はというと……


「レベル65……あら、私の一個下じゃない。この二週間で随分上がったわね」

「おうふ、追いつかなかった……」


 二週間レベル上げに全力を注いでも、19レベルしか上がりませんでしたよっと……

 ちなみに、このレベル帯になると一日1レベル上げるのも割と大変になってくる。16日で19レベルだから、普通よりは早いペースではあるんだけどさ……あるんだけどさぁ。


 こんな結果になったのは、やはり〝ベルセルク〟の存在が大きい。倒すモンスターの全てでは無いとはいえ、一部でも経験値八割減少は大きいのだ。

 しかし、俺はこの称号の効果をOFFにするということは考えていない。


 なぜなら……あれは、レベル上げを始めて三日目のことだったか。

 俺がいつものようにログインをすると、お馴染みのお知らせ音が鳴り響いたのだ。メニューを確認してみるとそこには、


 『一定数以上のモンスター討伐により、称号〝ベルセルク〟による一日の基礎Str追加上限が引き上げられました(+3 → +5)』


 とあったんだ。俺はそりゃあもう、喜んだね。

 どうやら〝ベルセルク〟によるStrの底上げは、倒したモンスターの数によってどんどん幅が大きくなっていくようなのだ。恐らくこれは、称号の効果をONにした状態で倒した数ということなのだろうが。


 そんな訳で、この称号を成長させて底上げの効果を大きなものにするためにも、俺は〝ベルセルク〟を外すわけにはいかない。確かに普通にレベルアップするよりも、今は効率が悪いが。しかし長い目で見れば、絶対にプラスになるはずなのだ。

 この二週間ほどで〝ベルセルク〟の効果によって上がった基礎Strは76。これは俺のレベルアップ二回分とちょっとである。経験値減少効果が無ければ、少なくともあと5レベルは上がっていただろうと思うと少しやるせないが、まぁそこは折り合いを付けるしかない。大器晩成という言葉もある訳だしな。

 

 でもまぁ、しかし、


「せめて今日までに、エリザには追いつきたかったんだけどなぁ」


 こうやってエリザにちょっと愚痴るくらいはいいんじゃないだろうか。


 他のメンバーがログアウトした、夜遅く。

 グレンデンのギルドホームで、俺はカウンターに突っ伏す。

 ちなみに今は、エリザに装備のメンテナンスをしてもらい終わった所だ。

 定期的にやってもらっているのだが、装備の能力値は最近変わらない。クリスマスのイベントで手に入れた素材は、よっぽど高レベルのものだったらしいな。


「甘いわね。私のレベルは鍛冶でも上昇するのよ?」

「ずるい!」


 反射的に顔を上げて抗議してしまう。

 うん、いや、全然ずるくないんだけどさ。


「50レベルでスキル枠が一つ増えたのだし、貴方も生産系スキルを取ってみるかしら?」


 いたずらっぽく笑うエリザ。


「……いや、それはやめとくわ。てかもう枠埋まってるしな」


 ちなみに。

 エリザの言った通り、レベルが50になるとスキル枠が一つ拡張された。現在の俺のスキル枠は15である。

 そしてスキル原石はマドリーデム討伐で獲得しているので、俺は新しくスキルを取ったのだ。


「ええっと、なんだったかしら。【付加魔法】?」


「そ。火力アップは大事だぜ?」

「筋力強化の魔法しか使っていないことが手に取るように分かるわね……」


 かねてより取得を検討していたスキルである。

 ぽっとスキル枠が増えたので、とりあえず取ってみたのだ。説明文はこんな感じ。


【付加魔法】MSマジックスキル

 一時的にステータスを上昇させる魔法が使えるようになる


 そして使用できた魔法が、これ。


 『筋力付加』

 対象のStr上昇+10%

 対象条件:自身の半径15m以内に存在する敵対していないプレイヤー1人

 効果時間:発動後20秒間


 ……いやまぁ、『筋力付加』だけじゃあ勿論ないんだけどな。

 他にも全ステータス版が一通りあるが、俺は『筋力付加』しか使っていない。更に言うと、自分にしか使っていない。

 ……付加魔法って、こういうのじゃないよな。うん、分かってる。

 でも、仕方ないね。これが俺だもの。


「もうそれ、【付加魔法】だと上昇効率悪いんじゃないかしら……」


 エリザが呆れながら鋭いことを言ってくる。

 確かにね。10%上昇じゃあ今の俺にはもの足りない。他に火力アップスキルが無かったから取っただけだ……今では、取って良かったと思っているが。

 その理由とは……


「まぁな。でも、使い続けてたらなんか良い感じの変化したし」

「変化? 上位変化かしら。早いわね」

「上位変化……何だろうか? とにかく、これ見てくれるか」


 ウインドウを展開して、エリザに見せる。

 そこには変化した【付加魔法】の説明文がつらつらと書かれていた。


【特化型付加魔法:筋力】MS

 一つのステータスの上昇に特化した付加魔法が使えるようになる


「どうよ? ちなみに使用できる魔法がこんなん」


 ウインドウを操作して、画面を切り替える。


「…………」


『筋力付加』

 対象のStr上昇+20%

 対象条件:自身の半径20m以内に存在する、敵対していないプレイヤー1人

 効果時間:発動後40秒間


『筋力重加』

 対象のStr上昇+20%

 対象条件:自身の半径20m以内に存在する、『筋力付加』の効果を受けており、敵対していないプレイヤー1人

 効果時間:『筋力付加』の効果終了まで


『筋力倍加』

 自身の基礎Str上昇+100%

 24時間に1回まで使用可能

 効果時間:発動後10秒間


 どうだ、素晴らしいだろう。この感動を共有するべく、俺は(自分の中では)自慢げにエリザを見る。

 割と適当に取ったスキルが、まさかこんなのに化けるとは思いもしなかった。まさに棚からぼた餅。なんか違うか。


 このスキルのお陰で、ついに『マドリーデム』を七本【斬駆】で一撃必殺できるようになったし。レベルが上がったってのもあるんだろうが、結局、あのボスを強いと感じることは無かったなぁ……


 ちなみに俺の今のMPでは、『偽腕』を九本まで出せるようになっている。まぁ、八本までしか意味無いんだけどね。遂に『黒蓮』を十本フルで扱えるようになったのだ。

 かねてからの目標だっただけに、ちょっと感動。

 ちなみにマドリーデムで十本【斬駆】を試したところ、問題無く発動できた。アレは的がでかいから、技術を磨くのにも便利だったな。


 と、まぁそれは今は置いといて。スキルの方ですよ。

 コンスタントにStrを40%上げられる上、特に『筋力倍加』が凶悪すぎるよな……基礎Str2倍とか、もうね。スーパータイム過ぎるわ。運営はもしかして頭おかしいんだろうか本当に有難うございます。


 +40%という数字だって一般的に考えたらおかしいんだろうが、それへの反応が薄まって来ている辺りに、俺の成長ぶりを感じてほしい。


 ちなみにスキルエフェクトはというと。

『筋力付加』と『筋力重加』が一瞬全身に赤い光が灯る、『筋力倍加』が赤い燐光が周囲を激しく渦巻く、というもの――――これらが、【惨劇の茜攻】を発動していない状態で試した、普通の場合のエフェクトだ。


 では、【惨劇の茜攻】を発動し、赤黒い瘴気を纏った状態で使うとどうなったかというと。

 まず『筋力付加』と『筋力重加』は、なぜか"血色の瘴気"の方に光が灯るようになった。一瞬だが、瘴気が赤くぼうっと発光したのだ。

 そして『筋力倍加』の方は……なんか、"血色の瘴気"が爆発的に膨れ上がった。効果時間中、発生する瘴気の量が増えたのだ。今までは半径1mくらいで収まっていたのが、3mくらいになった。俺の身体からとめどなく溢れだし空間を侵食していく様子は、それはもう禍々しくて、思わずテンションが上がってしまった。


 なんとなく察してはいたが、今までで一番の変化っぷりだった……というか、瘴気強すぎだろう。



「…………良い感じ、ね。成程、確かにそうね……」


 エリザはと言うと、頬杖をついてウインドウを凝視していた。

 むにっと持ちあがった柔らかそうな頬。それをつつきたい衝動を抑えるのが難しくなってきている辺り、俺はもう駄目かもしれない。


 というか、あれ? 感動を共有してはくれないご様子。残念だ。


「だろ? 一つのステータスの付加魔法だけ使ってると、こうなるらしい」

「割と重要なようで、その実微妙な情報を有難う。

 ……普通付加魔法って、そういうものではないと思うのよ。どちらかというとパーティー向きのスキルなのよ。そこの所を、分かっているかしら?」

「うん」


 そこは分かっているので、コクっと頷く俺。


「頭が痛いわね……」


 額を抑えて、呆れたように言葉を発する彼女。

 こちらが「そうか」と言って頭を撫でると、目を細めてされるがままになる。

 フレイが犬なら、エリザは猫だな……ちなみに俺は、猫派である。


「……って、何してるの!」


 あ、手を払いのけられてしまった。


「いや、頭痛いって言うから」

「き、気安く乙女の頭を撫でないでくれるかしらっ!? 子供じゃないのよ!」

「……いや、なんていうか、エリザの頭は撫でやすいんだよ。そして撫でると気持ちいいんだ」


 ぐっと拳を握って熱く語る俺。本人に向かって語るなよという突っ込みは受け付けていない。

 位置が低いし、小さいし。その上髪の毛がサラサラで、文句無しの撫で心地である。

 つらつらと、いかにエリザの頭が撫でることに適しているかを述べる俺。もはやただの変態だが、これもエリザとの信頼関係があってこそ……のはず。


「わ、分かった、分かったわよ! だからそんなに力説しないで頂戴!」


 あわあわと両手を振るエリザ。

 ……っと。少し張り切り過ぎて我を忘れていたかもしれない。見ると彼女は、真っ赤になって俯いていた。


 そしてしばらくその姿を眺めていると、突然顔を上げて別の話題を切り出してくる。

 ここは乗ってあげるのが筋と言うものか。


「そ、そういえば。さっき、今日までに私に追いつきたい、みたいなこと言っていたわよね?」

「そうだな」

「それはやっぱり、明日のイベントがあるから?」

「その通りだ。ほら、ギルド単位で参加するようなものでもないけど、なんとなく他のメンバーと比べられたりした時に、俺だけ低いと見栄え悪いだろ」


 少々強引な話題転換としてエリザが持ち出したのは、明日のイベント・・・・についてだった。

『IWO』は定期的に大きなイベントを開催していて、その内の一つが明日行われる。そして俺がこんなに乗り気なことからもわかってもらえるかもしれないが、明日のイベントは”戦闘系”のイベントなのだ。


『二泊三日、IWOサバイバルゲームin三叉神樹の森!』


 と銘打たれたこのイベントは、タイトルそのまま『三叉神樹の森』という特殊なフィールドで、サバイバルをするという内容だ。また例の加速装置とやらを使用し、現実時間の6時間をゲーム時間内では60時間――――つまり10倍にして本当に二泊三日で行うらしい。

 森には沢山のモンスターが生息していて、そのモンスターを倒すとポイントがもらえる。そして集めたポイントが多いと賞品が出るという。この辺りのシステムは定番だな。

 ポイントは別にモンスターを倒さなくても得られるようだが、俺には関係ないこった。


 そして当然サバイバルなので、『死に戻り』=『リタイア』だ。

 死んでしまうと、そこまでのポイントだけで賞品を受け取らなくてはいけなくなるらしい。ポイント0にならないだけ良心的か。


 実際に寝泊まりするということだが、まぁゲーム内だし現実のサバイバルほどの負担は無いだろう。つまり、安心して全力の狩りが行えるということである。ちなみに騎獣の持ち込みだけは不可らしいが、まぁそこは妥協しよう。

 森に住むモンスターは、そのフィールド固有のものということで、まだ見ぬモンスターとの戦いには、心踊らずにはいられないな。

 レアモンスターもいるみたいだし、実に楽しみだ。


 また、今回のイベントは今までのように一つのフィールドに全プレイヤーを集めて行う、というものではない。当たり前なのだが、プレイヤーの中にもレベル格差があるため、それによって『三叉神樹の森』の過酷さも変わって来るらしい。

 この過酷さは、『イージー』『ノーマル』『ハード』『ベリーハード』『ヘル』の五段階に分かれていて、『ヘル』のみは志願制のようだ。

 いわく、『生きて帰ってくるプレイヤーがいたらそいつは魔王』というのが運営のコメントだとか。


 と。

 以上がこのイベントに関する情報、byフレイでした。

 俺がイベント情報を確認するよりも早く、彼女は情報を喋ってくれるのだ。有り難いこったな。


「クノはやっぱり『ヘル』に行くのかしら」

「そのつもりだ。……普通の難易度じゃ、多分物足りないだろうし」


 そして、俺はジャッジさんからとある話を耳にしているし。

 いわく、『ヘルモードは、クノさん仕様です』とのこと。俺仕様というのがイマイチどういうことなのか分からないが、折角ジャッジさんがオススメしてくれたので挑んでみることにする。


「……私達も、『ヘル』を選んでみようかしら」

「まぁ最前線攻略組ってことで、挑むのもいいんじゃないか? 

 ちなみに、『ヘル』は俺仕様だってジャッジさんは言ってたが」

「…………」


 おっと、エリザが沈黙してしまった。

 そして紡がれる、一言。


「やめておくわ」

「……俺仕様って、そんなにヤバいか?」

「ヤバいなんてもんじゃないと思うのよ……モンスター諸々が貴方に合わせて調整してあるとすると、恐らく普通のプレイヤーの攻撃は頑張っても掠り傷程度にもならないわよ?」

「……あ、そういうことか」


 防御力が地獄的だと。なるほど、確かにそれは俺仕様だ。

 ……つまり、久し振りに一撃で倒せないモンスターがいっぱい出てくるってことか。

 いいね、いいじゃないか。燃えてきた。


「よしっ、やるぞ! おー!」

「……クノと一緒にサバイバルというのも、魅力的だったのに……

 運営も、余計なことをしてくれたわね……」


 こんな感じで、俺達の夜は更けていった。

 明日からはいよいよ、サバイバル生活っと。



情報を詰め込み過ぎた感。別名説明回。


スキルとかのエフェクトまとめ。

ちなみに、ON/OFFの切り替えもできます。


【惨劇の茜攻】

赤黒い瘴気が発生する


【不屈の執念】

HP0時に、心臓の辺りでガラスが砕け散るような演出


【攻撃本能】

瞳孔が縦長になる、犬歯が鋭くなる


【覚悟の一撃】

最初の攻撃終了まで、右手に赤黒い六芒星が現れる


【特化型付加魔法:筋力】

『筋力付加』

一瞬"血色の瘴気"に赤い光が灯る

『筋力重加』

一瞬"血色の瘴気"に赤い光が灯る

『筋力倍加』

"血色の瘴気"が膨れ上がる


【異形の偽腕】

黒い靄から、漆黒の腕が出現


【斬駆】

剣身から赤黒い光の刃が伸びる


【死返し】

剣で貫いた相手の体内から、無数の赤黒い槍が生成する


【バーストエッジ】

赤黒い爆発が発生する。範囲・形状・威力指定可能


〝ベルセルク〟

〈憤怒Ⅴ〉

身体中に紅い線が走り、明滅する


〝復讐者〟

手足に黒い鎖が絡みつく


クノ Lv65


HP:1380

MP:3754

Str:2374

Vit:0

Int:0

Min:0

Agi:0

Dex:0


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