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第百十四話 闘技場のお話

 俺が第四のボスを倒してから十日後。1月20日、木曜日。

 今日はついに、フレイ達が挑戦する日らしい。学校で「準備万端です!」などと張り切っていたフレイだが、はたして大丈夫だろうか。

 少し心配なのは、昨日オルトスさん達のパーティーも攻略に挑み、そしてあと一歩のところで失敗した・・・・という点である。敗因はやはり物理攻撃の効きづらさと、相手の攻撃手段の多彩さ……というか、トリッキーさだったらしい。


 俺なんかは相手の実力を全部見る前に倒しちゃったからなー。という訳で、昨日は開幕ジ・エンドは無しの方向で、もう一度マドリーデムに挑んでみたりもした。


 フィールドのどこからでも生えてくる泥の触手と、定期的に降って来る泥の雨。そして沼の水が押し寄せてきたり龍みたいになって襲いかかってきたりと、時間をかければ割とやりたい放題のマドリーデムさんだったが、しかしそれでも特に危なげも無く勝利。今度は【不屈の執念】すら発動しなかった。


 基本触手は『偽腕』で対処できるし、泥の雨も【バーストエッジ】で吹き飛ばせばいいし、津波は同じく【バーストエッジ】で回避。龍に至っては素の攻撃で砕け散ったのだ。


 オルトスさん達には悪いけど、苦戦する理由がわからない。そしてだからこそ、フレイ達が不安なのだ。俺じゃ大したアドバイスもできないからな。


 そしてギルドで皆を送り出して、ちょっとエリザの気持ちを味わった後、俺が向かうのは。




「おい……魔王だ」「魔王がきたぞ……」「まじか、昨日も来てただろ」「ここ最近、ずっと来てるぞ」「うわぁ、当たりたくねぇなぁ……」



 周囲からなにやら失礼なヒソヒソ声が聞こえるが、ここは『ホーサ』の街の闘技場である。ギルドの皆が『グレンデン』に来れるようになるまでの間、俺は毎日ここに来て『バトルランク』上げに勤しんでいた。

『バトルランク』とは、読んで字のごとく闘技場内でのランクの事である。PvPでの戦績によって上がっていくランクはFからSまでだ。上げることによる利点は主に、NPCショップで割引が受けられたり、宿屋が安く使えたりというサービスが行われることである。

 まぁ、どちらもあまり俺にうま味ははないんだが、もう一つ、重要なメリットがある。それは、ランクアップごとや、『バトルポイント』と呼ばれる、戦績に応じて得られるポイントを消費することによって貰える特別なアイテム――――『蘇生石』の存在だ。


『蘇生石』

 自身のHPが0になった瞬間に自動で消費される

 自身のHPを1まで回復し状況を続行する


 もちろん所持制限はあって、インベントリに一つしか入れられないが。

 しかしこれさえあれば、〝復讐者〟の効果を存分に生かすことができるはずなのだ。まさにこれは、神が俺に火力を上げろと言っているに違いない。


 ちなみにこのアイテムには上位版の『上級蘇生石』や『超級蘇生石』があり、それぞれ回復するHP量が50%、100%となる。その分交換に必要なバトルポイントも多く、ランクアップでもBからA、AからSに上がる時に上級、超級と一個ずつ貰えるのみだ。

 更にいうならこの二つは俺にとってはまったく意味のないアイテム。バトルポイントを交換する闘技場の『専用メニュー』では上位の蘇生石を下位の蘇生石と交換してくれるので、それで無印の蘇生石を増やすのみである。



 さて、ここまでの口ぶりで、なんとなく分かった人もいるかもしれないが。

 俺の今のバトルランクはというと、堂々のSランクなのである。



 まさか、一週間戦い続けるだけであっさり到達できるとは思わなかった。ランクは倒したプレイヤーの数によって決定されているらしいが……俺、そこまでの数倒したかなぁ? いつもモンスターの波にもまれているせいで、感覚がおかしくなっているのだろうか。


 という訳で俺が闘技場に来ている目的はというと、ただただバトルポイントを溜めて蘇生石を得るためのみ、なのだ。ランクが上がれば強いプレイヤーと戦えると思ってた時期もありました。実際には、俺以外で現在の最高ランクはB。PvPに力を入れているギルドの、ギルマスさんなんだそうだ。


 一回だけ当たったことがあり、それなりに本気を出してみたところ一瞬で決着してしまった。まずナイフを避けられないとか、ヤタガラスレベルかと。これではプレイヤースキルを磨く事すらできない。

 トーナメントでのオルトスさんが、いままで戦った中では一番強かったよなぁ、としみじみ。もう一回手合わせ願いたいものだ。


 あとはこの一週間でめぼしい戦闘はと言ったら、『ゴボウの勇者』? だったっけか。そんな感じの二つ名を付けられてたミカエル君との再戦くらいである。

 どのくらい強くなったのかなーと様子見をしていたら、動きがデタラメに速くなっていた。あと、エクス○リバー的斬撃の威力も上がっていた。

 が、それだけ。根っこのプレイヤースキル部分はあまり成長していない……むしろ自分のスピードに振りまわされていた感じだった。


 残念な勇者もいたものである。こちとら魔王とあだ名されている以上、ミカエルにはもっと強くなって俺と張り合ってもらいたいものだが。オルトスさんの方がよっぽど勇者だろうに。

 そして対戦が終わった後。「弟子にしてください」とか馬鹿なことを言っていたので、「また闘技場であえたら、稽古してやるよ」とか適当に答えておいた。


 さて。

 今日はどんな人と当たるのかな。

 プレイヤーでいっぱいの闘技場のホールに入ると、人々のざわめきとともに俺の前方に道ができる。モーゼか。

 とりあえずその辺のソファに腰かけ、専用メニューを操作して『自由対戦』を申請。この機能は、同じように『自由対戦』を申請しているプレイヤーと、システムが自動でマッチングしてくれて、対戦相手が決まったらバトルフィールドに転移させられる。


『対戦相手が決定しました。バトルフィールドに転移まで30秒前』


 目の前にウインドウが開いて、数字が徐々に減っていく。

 よーし、じゃあ今日も蘇生石集めを頑張るとしますか。




 ―――




「で、そうやって十日間頑張った結果が、これですか……」


 花鳥風月のギルドホーム。

 それもここはなんと、『グレンデン』のホームである。

 つまりフレイ達は無事、マドリーデムを初見でクリアできたようだ。いや、めでたいめでたい。

「クノ君があっさり攻略しているのに、私達がまだなんて恥だからね。気合いと根性でどうにかしたよ」とはカリンの談。気合いと根性ね……言うだけあって、かなりお疲れの様子だ。


 そんなお疲れの皆にサプライズとして、俺はこの十日間の成果を見せていた。

 ギルドの倉庫から大量の『蘇生石』を直接取り出して、テーブルの上にどさどさと置いたのだ。皆驚くだろうなー、とメンバーを見回すと……


「うん、これ何個あるんだい? テーブルが見えないや。ははは」

「あら、随分集めたわね」

「クノさんはやることなすことえげつないですね……」


 カリン、エリザ、フレイは思いのほか冷静だ。

 ……アレか。マドリーデムの30秒ショックのせいで耐性がついてしまったと言うのか。むぅ、特にカリンは反応が面白いだけに、残念だ。

 そして中学生組はと言うと……


「おお、おおお!! すっごい! クノくんすっごい!! やばい! すごい!」

「はわわわ……え、いや、え? ええええぇぇぇ!?」


 こちらは期待通りに驚いてくれていた。うんうん、やっぱり素直が一番だね。リッカはすごいとやばいしか叫ばなくなってるし、ノエルは口に手を当てたまま「はわわ」と漏らすだけになっているが。おおむね期待通りである。

 腰に手を当てて頷いていると、あまり驚かなかった三人からやんやと言われる。


「うわー、クノさんが年下驚かせて満足げですー」

「酷いなー。クノ君は酷いなー。器が小さいなー」

「……クノ……」


 最後のエリザの悲しげな視線が、一番胸に刺さった。思わず胸を抑えて崩れ落ちてしまうほどに。

 ……うん、なんとなく出来心で驚くかなーと思って見せたんだけど、やっぱりサプライズは程々にしないとね……


 ちなみに、蘇生石は多すぎるのでギルド共有のものとなりました。

 元からそのつもりで多目に取って来たんだしね。




 ―――




 そして、その夜。




「……し、しまったぁぁぁあああああ!?」




 俺は久々にフィールドに出て、そして自らの犯したミスに気付くのだった。




 ……俺がいつも使っている【惨劇の茜攻】という特殊効果・・・・


 これは厳密に言えばスキルではなく、【賭身の猛攻】と【狂蝕の烈攻】という二つのスキルを同時に使用し、その効果を強化するただの付属効果であると言える。


 しかし、最近の俺はその事を半ば忘れかけていた。

 そしてそのことが何を引き起こしたかというと、各スキルの詳細情報が、うろ覚えになっていたのだ。

 ……さてここで、【狂蝕の烈攻】というスキルの効果をよく確認してみよう。


【狂蝕の烈攻】AS


 発動後、毎秒自身のHP減少-2%(この効果によっては1未満にはならない)

 HPの残存量に応じてStr上昇+1%~+100%(HP1をStr上昇+100%とする)

 発動中HP回復不可

 戦闘中のみ発動可能

 効果時間:戦闘終了まで


 ……さて、おわかり頂けただろうか?


 ”発動中HP回復不可”。


 この効果はどうやら、蘇生石によるHP回復をも妨げてしまうようなのだ! 


 ……うん。

 まぁ、つまり使用順の問題だな。

【狂蝕の烈攻】を使う前に、まず一回HPを0にして称号効果を受けなくてはいけないのだ。


 先ほどはついいつものクセで開幕スキルを使ってしまい――――今、こうして『グレンデン』の中央広場で膝をついている訳だ。


 今度からは気を付けないとなぁ……まぁそうでなくてもこのコンボ、色々と問題があるのだが。

 まず【不屈の執念】というお守りを開幕でほぼ無意味に失ってしまうのが一つ。そして最大の問題が、蘇生石の所持数制限である。一個しか持てないからな。

 以上のことから、常用は出来ないのである。ま、強烈な火力アップだが、相手を見て使えってこったな。うん。




バトルポイントは、蘇生石だけでなくいろいろなアイテムとも交換可能。


ただいま閑話としてオルトスさんの話を執筆中です。早ければ、明日の0時にも投稿できるかも。


因みに、烈攻無しで戦うという気は更々無いクノさん。そこは譲れない模様。


※投稿から一時間くらい、最後の展開におかしな点がありました。

修正した結果、真逆になりました。その間に読まれた方は申し訳ないです。

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