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第百十三話 やっぱり常識外なお話

 


 現れた光の扉をくぐると、そこは第五の街『グレンデン』だった。

 中央広場の形状は今までの街と変わらないが、石畳の所どころに淡い緑色の石が嵌っていてお洒落だ。

 街並みを見回しても、家々の外壁にはその翡翠のような石が埋め込まれている。

 この街の特産とか、そういう設定だろうかね。エリザとか、生産職ならもう少し興味を持ったかもしれないけど。俺には関係ないか。


 背後にそびえる、お決まりのモニュメントはというと……

 なんだろう。一言で言うと、ミニ自由の女神? 全身緑の石で作られた、女性の像だった。

 左手には本、右手には槍を持っている。まぁ、そこまで奇抜でもないか。


 と、俺が街並みを観察していると、またしても『ポーン』というお知らせ音が鳴る。今日二回目だ。

 メニューを開くと、


『ボス初回討伐報酬』


 とある。

 へぇ、そんなの貰えるんだ。今まではオルトスさん達が貰ってたんだろうな。

 クリックすると別ウインドウが開き、報酬一覧・・が表示された。

 一覧。あ、複数の中から選べるんだな。


 報酬は全て、消費アイテムのようだ。

 ……Vit+400%、被ダメージ0.7倍、相手物理攻撃力-50%なんてアイテムもある。

 オルトスさんがトーナメントの時に使って来たアイテムと同じものだろうか?

 と、いうことは当然Strバージョンも……と期待して探してみると、こんなものも存在した。


『紅砕の霊薬』

 Str+300%、与ダメージ1.2倍、相手物理防御力-50%

 効果時間:60秒


 何これ強い。Vit版より上昇率低いけど、充分すぎる代物だろう。

 ……強すぎて、使いどころが見つからないくらいだ。貰えるの一個だけだし……

 でもまぁ、他にめぼしいものも無かったので一応これに決定しておく。

『ポーン』と音がして、アイテムがインベントリに収納された。

 どうにかしてこういうアイテムを量産……うん、無理か。


「さて。これからどうするか」


 早速レベル上げといきたいところではあるが、やっぱ一旦ギルドに戻るのが先かな。

 という訳で俺は、『グレンデン』のギルドホームから『ホーサ』のギルドホームに向かったのだった。




 ―――




「ただいまー」

「おや、クノ君? 随分と早かったじゃないか」

「おうカリン。まだ出て無かったか」


 そりゃ良かった。


「リッカとノエルが少し遅れるみたいでね」

「もう少しでログインできるっていうので、待ってるんですよ~」

「成程……あ、エリザ。俺にも紅茶お願い」

「もう淹れ始めてるわ」

「流石」


 エリザの紅茶を待ちながら、カリンに先ほどのことを報告。

 すると案の定……というべきか、打ちひしがれるギルマス殿。


「早くない!? ねぇ、早くないかい!?」

「なんか忘れ物したのかなーと思ってましたよ!? え、まじですか。まじで倒してきたんですか」

「んー、30秒くらいかかったかな。あ、ボスの初回討伐報酬ってのもらった」


 インベントリから、香水瓶のような容器にはいった紅い液体を取り出す。


「……」

「……」


 それを見て、完全に固まる二人。

 心なし、口から魂的なものが出ている気がする。


「……、なんだ、その……えっ? いやいや……んっ、えっ……」

「……30? あぁー? ……ん? えっと、えっと……」

「おーい、カリン、フレイ。戻ってこーい」


 二人の前で手を振るが、ぶつぶつと呟きを洩らしたまま放心状態である。


「おーい」

「……」


 くしゅくしゅ、とフレイの顎下辺りをくすぐってみる。

 何故か彼女が喜ぶ行動の一つである。いやホントに、犬かとお前。

 しかし、反応はない。これで駄目となると、もう放置しか手はないな。


「カリンさーん」

「……」


 むにむにと、ほっぺたをつねってみる。

 偶に、顔の筋肉をほぐしたらどうかな? などといって俺がやられることだ。いや、ほぐして表情戻ったら苦労しないのですよ。

 そんな八つ当たりまがいの気持ちも込めてむにー、と遊んでいると、頭上から冷え冷えとした声が聞こえる。


「楽しそうね」

「……滅相も無いです」


 エリザだった。

 紅茶をお盆に載せたまま、静止している。

 いや、うん。ちょっとやりすぎた感はあるな。カリンが全然反応しないもんだから。

 ぱっと手を離す俺。ぷるん、と弾むカリンの肌。突きささるエリザの視線。


「……楽しいです」

「いえ、正直言えって言ってるんじゃないのよ」


 圧に耐えきれずに白状すると、エリザがお盆を持っていない方の手を頭に当てる。

 そしてカタン、とテーブルに紅茶を置いた。


「まぁ、しばらく二人は戻ってこないんじゃないかしら。

 いくらクノとはいえ、言っていいことと悪いことが。

 受け入れられることと駄目なことがあるのよ」

「そんなもんか。……いや実はね、ちょっとびっくりさせたいなーって気持ちはあったんだけど」


 俺の想像より遥かに驚いてくれたみたいで。

 結構本気で挑んで、超級ポーションまで使った甲斐があった、かな?

 ぽけー、としている二人に、一応手を合わせておく。いや、死んでないけど。なんとなく。


「アレをちょっとと捉えられる時点で、もう貴方の思考が私達と180度違うのが理解できるわね」

「俺、やっぱりちょっとずれてるんだろうか」

「いえ、だからちょっとじゃ……はぁ、まあそれはもういいわ……」


 手に持ったお盆を手品のように消して(インベントリに仕舞っただけ)、エリザは俺達と同じ丸テーブルに座る。


「そういやエリザは驚かないんだな」


 少し残念だ。

 なんなら一番驚いて欲しかったのに。


「驚いてるわよ、勿論」

「そうは見えない」


 いつも通り、澄ました綺麗な顔だ。

 いや別に、フレイやカリンが綺麗じゃない訳じゃないけど。


「そうね……二人よりも、受け入れられる範囲が広いってだけよ」


 そう言って、誇らしげな顔をするエリザ。所謂ドヤ顔である。

 こういう顔もいい……あ、駄目だなこれ。

 もうエリザならなんでもいいと思ってしまう自分が居る。恋は盲目とはこのことか……


「褒めるところ?」

「存分に褒めなさい。貴方と居ると、人間性が鍛えられるわ。いろんな意味で」

「わーエリザちゃん凄いねー、高い高い……あ、要らないですよね、すみません痛い痛い」

「子供! 扱い! しないで! 頂戴!」


 テーブルの下で、ゲシゲシと脛を蹴られる。

 あ、今ボス戦よりピンチかもしれない。

 何度か甘んじて蹴られると、満足したのか止めてくれるエリザ。

 若干息が荒い。どんだけ本気だったんだよ。


「はぁ、はぁ……ふふっ。

 私を驚かせたいなら、このギルドホームからボスを瞬殺するくらいのことはしてもらわないと」

「……くっ、なんて鉄壁なんだエリザのハートは」


 もはやシステム的に不可能じゃねーか。

 ……いや、分身をつくるみたいなスキルがあればあるいは……ううむ。


「伊達に何年も引き篭もってないわ。天岩戸並みよ」

「引き篭もり関係ないだろ。天照大神に謝れ」


 むしろそれだと滅茶苦茶もろそうなんだが。

 天岩戸どころか障子戸くらいなんじゃないだろうか。


「……はっ!?」

「……わ、私は一体なにを……」


「「あ、戻ってきた」」


 危ない人と化していた二人の意識が回復する。

 そしてそこから始まる、怒涛の質問攻め。

 いわく、ボスの情報をなるべく集めておきたいということだが……


「ボス戦について、一通り話してもらえるかい?」

「泥のお化けが出てきて、泥を降らせて、死んだ」

「……おぉふ。わっけわかんねぇです。これが30秒の情報量ですか……」


 ほとんど役には立てなかったっぽい。


「まぁ、気になるなら自分らで行けばいいんじゃないか?」


 死に戻ること前提で。


「いやまぁ、それはそうなんですけど……」

「私達にも、プライドはあるんだ。負けを前提に挑むなど言語道断さ」

「格好良く言ってるけど、そもそもボスフィールドに辿り着けるかも怪しいものね」

「ぐっ」


 ……あー。成程。


「ボス倒すまでに、どのくらいかかりそうなんだ?」

「今の私のレベルが51だから……」


 俺より5つも上だった。どんだけ頑張ってるんだこの人。


「ボスのレベルが60……」

「平均55は欲しい所ですよね~」

「私はあと4レベル……一番低いのが、エリザの47だったよね」


 あ、エリザにも負けてる!?

 嘘だろ、おい。流石にそれは……いくら最近死に戻ってばかりだとはいえ、〝ベルセルク〟で基礎Strを一日の限界、+3まで上げられる数のモンスターは倒し続けているはずだぞ。それだけでも、普通のプレイヤーが一日に倒すモンスターの数より結構多いはずなのに。


 ……これは、もしかして。


「私は状態異常要員でしょう? レベルはそこまで重要ではないわ」

「それもそうだね……となると、うーん。クノ君。……クノ君?」


 まさか。

 俺のレベルって、他のプレイヤーよりも上がり辛いのか!?

 戦闘にもほとんど出ない、生産系が本職のエリザにすら負けているというこの事態。そうでもなければ説明がつかないが……

 なんだ、何が原因なんだ。


「おーい、クノさーん。結論出ましたよー。多分一、二週間はかかるっぽいですよー」

「おー、んー。じゃあその間は闘技場にでも通っとくわー。

 ……なんだ、極振りか? それくらいしか考えつかないよな……いや、スキルか称号の隠し効果という線も……」


 一週間、二週間。

 意外と長いが『ホーサ』には闘技場があるから暇つぶしには事欠かないな。


 それよりも、原因だよ。うーん、やっぱり自分では詳しいことは分からないか……

 ジャッジさんにでも聞いてみようかな。




 ―――




 その後。

 ジャッジさんをコールして疑問を尋ねた所、あっさりと答えは返って来た。


「経験値の量が、減少しているということでしょうか 

 超高レベルでの狩りを行っているというのが一つあるとは思いますが、確かにそれだけではなさそうです 少々お待ち下さい」


 そういって目を閉じて、数秒空中で静止するジャッジさん。幻想的な光景だ。場所が何も無い俺の部屋だというのが申し訳ない。


「判明 称号〝ベルセルク〟の効果のようです 

 申し訳ありません、こちらのミスにより説明文が不完全でした 

 ただいま修正致しましたので、ご確認を」


 〝ベルセルク〟か。

 ウインドウを出してみてみると、あっ、確かに効果に文章が追加されてる。


 〝ベルセルク〟

 戦闘開始と同時に、戦闘終了まで状態異常〈憤怒Ⅴ〉付与、移動力低下

 適正レベル以上の敵対者を倒した数によって基礎Strを加算

 ただし、加算上限までに倒した敵対者から得られる経験値-80%

 この称号の効果はパーティー非結成時のみ有効となる。パーティー結成時には、称号の効果により加算した分の基礎Strは一時的に0となる


 ”ただし、加算上限までに倒した敵対者から得られる経験値-80%”

 この部分か……結構重要じゃないかな、これ。つまり、倒したモンスターのほとんどの経験値が2割にまで低下してたってことか。デスペナより凶悪だ……〝ベルセルク〟の効果を考えると妥当という気もするが。

 でも誤字脱字はまぁ、ついてまわるものだし。原因が分かっただけいっか。


「確認した。有難う、ジャッジさん」

「いえ こちらの不手際ですので 後日、何かお詫びを致します 

 本当に、申し訳ありませんでした」


 深々とお辞儀をするジャッジさん。

 妖精さんにこんなことされたら、怒れる人なんていないんじゃないか。運営も考えおる。

 いや別に怒る気なんてなかったけど。


 そして翌日。1月11日、火曜日。

『IWO』にログインすると、「EXPポーション」なるアイテムが3個届いていた。

 効果は”使用後30分間、獲得経験値上昇+50%”というもの。

 おお、こんなもの貰っていいのか。


 しかしもっと驚いたのは、珍しいだろうと思ってカリン達にこれを見せた時のことだった。


「私も持っているよ? 普通に課金すれば買えるし」

「む、何っ」


『IWO』ってアイテム課金なかったよな? と思っていると、どうやら先日の大規模アップデート(夜の追加)の時から、課金アイテムが解禁されたらしい。

 まじか……ぜんっぜん知らなかった。ただ単に夜がくるだけかと思っていたらとんだ落とし穴。いやまぁ、別に課金の必要性も感じてないし、どうでもいいんだけどさ。


 ちなみに、カリンはEXPポーションをオトナ買いしてレベリングしているらしい。

 流石ギルマス。それでも俺に勝てない、と涙目だったが。

 いわく、お金の使い道もそんなに無いしとのこと。

 女の子ってお洒落とかにお金使うものだと思ってたけど、そんなこともないんだなぁ。



 ……あと、〝ベルセルク〟についてはもう一つ分かった事がある。

 マドリーデム戦で、手袋を換装した時にちらっと紅い線のようなものが手の甲に見えた気がしたのだ。【覚悟の一撃】の六芒星のような手から浮き上がる感じでは無く、直接皮膚に現れているような。


 その時は戦闘中だったし、複撃統合に集中するためにすぐに意識の外に追いやられたが、後々になってなんだろうと思いフィールドでいろいろ試してみたのだ。


 そしてその結果。〝ベルセルク〟の効果の一つ、状態異常の〈憤怒Ⅴ〉を自身に付与するという効果によるものだと判明した。

 正確に言うと、〈憤怒Ⅴ〉のエフェクトが『身体中を紅い線が走り、明滅する』というものだったらしいが。顔にまでは及んでいないし、服の下に隠されていたので今まで分からなかったようだ。


 今更こんな演出があったと知って、びっくりな俺だった。

 魔王ルックは肌が露出しないんだよなぁ……ある意味運営泣かせである。



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