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第百十話 特訓続きのお話

 


 1月9日の日曜日、夜。

 明日から学校が再開するというこの日の最後に、

 俺はいつもより更に死んだ(とフレイに言われた)目で、目前に迫るモンスターを視ていた。


 月曜日から始めた、【死返し】の練習。

 俺はこの一週間、〝ベルセルク〟の効果で基礎Strを上げる以外はモンスターの前に棒立ちになり、スキルを発動させては赤い針鼠を生み出す作業を繰り返していた。

 身体を貫く槍の感覚にはとうに慣れ、やはり人間我慢と慣れが一番の武器だと思い知らされる今日この頃だ。もうぶっちゃけ、呼吸と大差ない……というと、流石に語弊がありそうだけど。


 死に戻った回数は、ここに来て指数関数的に上昇している。一度ジャッジさんから『頭は大丈夫ですか?』などとお言葉を賜ったくらいだ。

 ……いやまぁ、確かに傍からみると相当おかしい事してるだろうし、だからこそギルドの皆にも言って無いんだけど。

 ホームに帰るたび、主にエリザに『大丈夫?』と繰り返し聞かれるのには良心の呵責の感じる。


 どうしてここまで、俺が【死返し】にこだわるのか。

 正直に言えば、そんな大した理由なんてない。

 ただなんとなく、これを使いこなせないまま先に進むのが気持ちの悪いことだと感じているだけだ。喉の奥に、小骨が引っかかっているような感じ。


 折角自分で選んだスキルなのだから、使わないなんて勿体ない。使えないなんてあり得ない。

 今思えば難儀な性格の上、難儀なスキルを選んでしまったとは思うが……まぁ、これは俺が強くなるために確実に役立つだろうしな。


 じゃあ張り切って……いってみよう。


「【死返し】」


 目の前のアリクイモドキから放たれた、細く鋭い舌。

 それが当たる直前に俺はスキルを発動し……



 視界が、暗転する。



 ああ、またか。



 先ほどと……今日一日と同じ、なんら変わることのない演出と結果。



 これはなかなか――――






 ――――いいじゃないか。






 一瞬で回復した視界に映るのは、白と茶色のすべすべの毛皮。

 アリクイモドキの、大きな背中だ。

 そして俺は考えるよりも尚早く、システムによって自動的に身体を動かされる。

 ゲーム内最高のStrで強化された剣速でもって、右手の剣が最小限の動きで突きだされ、


 ズブリ、とアリクイモドキの身体の中に、抵抗無くあっさりと吸い込まれた。

 同時にアリクイモドキはビクンと小さく跳ねて……


 ――ザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュ――


 その身体を、まるで血飛沫のように勢いよく噴き出した無数の赤い槍に喰い破られ、絶命した。


 赤い針鼠の一丁上がりだ。やっぱりアリクイモドキがいちばん”らしい”な。うん。

 そして白ではなく、濁った血の色をした粒子に還元されて空に昇っていく。消えるときに槍も一緒に分解されるせいだろうかね? まぁどうでもいいけど。


 ……っと。外野の方の掃除も終わったな。

 俺は【死返し】の発動と並行して、自分の周囲に展開した『偽腕』でもって残りのモンスターも倒していた。相手の背後に転移している瞬間でも『偽腕』を操れるのは地味に便利です。


 いやしかし、【死返し】のタイミングを計りながら『偽腕』も操作するって、結構難しいんだよな。最初のうちはそれが慣れなくて、結局どっちつかずのままモンスターに轢きつぶされたもんだ。

 ……って、あれ?

 良く考えたら、『偽腕』の操作も同時にやってたから、こんなに面倒なことになったんだろうか? 昨日の昼くらいまでは、ほとんど発動成功もしなかったし。


 ……んー。

 でも、実際に戦闘スタイルに組み込むことになれば、結局操作と並行して行わなくてはいけなくなるのか。

 じゃあ、いっか。結果オーライってことで。


 現在時刻は22時過ぎ。

 昨日の午後2時辺りから未だに死に戻ってないし、もうそろそろ免許皆伝でいいかな。

 俺は首を左右にコキコキと鳴らして、50m程先にいるレイレイに手を振る。

 すると、バビューン! と効果音がつきそうなほど慌てて戻って来てくれる我が愛騎獣。


「ク、クエー」

「よしよし良い子だ。

 ちゃんと見てたか? お前のご主人様は艱難辛苦を乗り越え、また一つ成長したぞ」

「……クエ゛ェ゛……」

「え、何その今にも死にそうな声」

「クエッ、クエッ」

「なんだろう、何かを訴えてるのは分かるんだけどなぁ」


 内容までは、分からないのだ。

 騎獣と話せるアイテムとかあったらいいのになぁ。運営に要望でも出しとくか。


「よし、じゃあ戻るか」

「クエ!」


 俺の言葉に瞬時に反応して、地に伏せるレイレイ。

 ……おお、一段と平たさに磨きがかかった気がする。


「クエー」


 心なし誇らしそうなレイレイ。

 でもさ。プライドが高いって設定は結局なんだったのかねー。

 最近のレイレイに対する、ちょっとした疑問だった。




 ―――



 略式掲示板劇場

【魔王様観察スレ@4】


 片手剣「魔王様が中央広場でよく目撃されている件について」

 刀「魔王様がここ一週間ほどで、四桁に届きそうなくらい死に戻ってる件について」

 短剣「俺北のフィールド行きたくない件について」

 大剣「……え? なにそれ初耳だわ。何があったし」

 刀「いやね、確かな筋からの情報によるとね。魔王様が北のフィールドに行っては一瞬で死に戻り、を繰り返してるらしいんだよ」

 短剣「それもトーナメント終わった後あたりからずっと。どんだけ過酷なんだよあそこのフィールド……」

 薙刀「魔王様って今レベルいくつくらいだっけか?」

 弓「45くらいじゃね?」

 メイス「45? まじか。おれと大して変わんねぇじゃん。それで北フィールドなんか行ったら、死ぬの当たり前じゃね」

 長槍「確かにそれはそうなんだが……あの魔王様だぞ? たかだか十数レベル上の狩り場に行ったところで……。

 あ、待ってごめん。ちょっと脳内が汚染されてるみたい。ナチュラルにさっきの発言がでてきた」

 短槍「まぁ魔王様だしなぁ……」

 炎魔法「てか、死ぬレベルならなんで魔王様は北に通いつめてんのかって話なんだけど。厳しいようなら、流石に魔王様もレベル上げはするだろ」

 グローブ「確かに」

 片手剣「なんか理由がある……とは思うんだが、それがわからんから悩んでる」

 双剣「……ちょっと考えたんだけどさ」

 弓「おう」

 苦無「なんや、言うてみ」

 双剣「魔王様、死ねば死ぬほど強くなるスキルを持ってる……とか?」

 大盾「……」

 刀「……」

 弓「……」

 メイス「……」

 薙刀「……」

 短剣「うそん……」

 双剣「や、あくまで可能性なんだけど」

 短槍「でも、そうだとすればいろいろと説明がいくかも。魔王様があんなに強かったのは、そのスキルのせいって訳か」

 大剣「……うーん。そりゃないんじゃね?」

 氷魔法「そうか? なんで」

 大剣「いやだって、トーナメント前の魔王様の死亡率考えてみ。だれかしょっちゅう死に戻ってる魔王様を見た奴とか、いる?」

 長槍「あ、確かに……魔王様の死ににくさは結構前に話題になったか」

 大剣「だろ? ……まぁ、トーナメントの賞品かなんかでそういうスキルを手に入れた可能性もあるけど」

 弓「だとしたら、ヤバいな。魔王様は俺たちをぶっちぎってどこまでいくんだろうか……」

 大鎌「そんなぶっこわれスキル、無いと信じたい」

 鎖鎌「しかし魔王様ならそんなスキルが出現してもおかしくは無いと思える辺りもう……」

 片手剣「そんなスキル俺もほしぃは……」

 グローブ「死の淵から蘇り、自身を強化するスキルか……似合ってるような、似合って無いような」

 刀「まぁそもそも、魔王様が死ぬイメージがないから話題にしたんだけど」

 炎魔法「目は死んでるけどな」

 ・

 ・

 ・

 無手「偵察部隊より連絡! 魔王は北フィールドにて、自殺しています!」

 大剣「状況を詳しく説明しろ!」

 無手「魔王は騎獣にまたがってモンスターの群れに突っ込むと、剣を持ったまま待機。そしてモンスターに襲われる寸前、魔王の身体を無数の槍が突き破り、魔王は死に戻った模様です。……グロっ」

 刀「槍だと?」

 無手「はい。魔王が纏っている瘴気と同色……黒赤をした長く鋭い物体が、彼の身体から一瞬にして生成されました。その数、およそ30! 全身を埋め尽くす規模です……オェ……」

 短剣「どうした、偵察隊長」

 無手「いえ……単純にグロかったので……」

 片手剣「ええい、R指定はまだか! はやく白い光を呼べ! このままでは偵察隊長が!」

 無手「……ふぅ。もう大丈夫です。では自分はここで魔王が戻るのを待……うわぁああああああああああ」

 短剣「隊長!? どうした、応答せよ、隊長!」

 大剣「くっ……北のモンスターに見つかったか……」

 双剣「レベル50後半……か。無手の人の隠密スキルでも見破られるなんて……」

 片手剣「まぁあの人、そもそもレベル高くないしなぁ……」


 無手「……速攻死に戻った。あかんあそこ」

 長槍「しかし結局、魔王様は何をしてたんだ……」

 ・

 ・

 ・

 無手「偵察部隊より連絡! 魔王のしていたことの全貌が明らかになりました!」

 刀「なんだと!?」

 無手「攻撃スキルです! 静かに待ちの姿勢を取っていた魔王は、モンスターに攻撃される寸前で姿を掻き消し、次の瞬間には相手の背後で剣を突き立てていました! そして貫かれた相手は身体中からあの赤黒い槍を生やして……赤い粒子に……ウッ……」

 短剣「グロ耐性つけてから偵察いこうなお前……」

 無手「いえ、それはそれで快感なので大丈夫です。しかし、あの攻撃スキル……やはり魔王は只者ではなかった」

 弓「↑おい」

 大剣「死に戻っていたのは、そのスキルを使いこなすためか……?」

 刀「状況的に、そうっぽいな」

 短剣「無手の人の説明的にカウンター系? うわぁ、魔王様がどんどん凶悪になっていく」

 双剣「身体中穴だらけで殺されるのは勘弁なんだけど。凶悪度増してね?」

 短剣「……魔王様流石魔王様やわぁ……」

 弓「てか地味に赤い粒子ってどゆこと? モンスターが消えるエフェクトが変化したのん?」

 無手「おそらく。なんかもう……凄惨さが天元突破でした」

 片手剣「何処までいくのか魔王様。俺達にどないせいっちゅうの……?」





第四のボスはさくっと終わらせよう

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