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第百八話 デートのお話

3000文字ちょいで終わらせるつもりが、何故か7000文字弱に.....


 


 1月2日、日曜日。



「んーふふふ~ん、ふんふふ~ん」

「……楽しそうでなによりだな」


 俺は今、玲花を連れて駅の近くのショッピングモールに来ている。

 クリスマス会の時の約束を果たすべく、デートをしているのだ。


 ……といってもまぁ、そんなもんは実際名目だけなんだが。


「はい! 今日はデートですからね! デート!」

「まぁ、そうだな。今のところ適当に歩いてるだけだが」

「それも乙なものでしょう? ……あ! 九乃さん、あのお店行きましょう! 

 小物とか丁度欲しかったんですよー。なんか九乃さんに選んでもらえたらなー、なんて」

「あぁ、そうだな」


 正直、いつもの帰り道となんら変わらない気がするのは俺だけだろうか。

 二人で並んで歩いてるのもいつも通りだし、玲花がこうやっていろんなお店を冷やかしに行くのもいつも通りだ。そしてそれに流されて付いていく俺。

 場所が変わっただけじゃん……

 玲花を楽しませようなんて意気込んでも、初っ端からテンションマックスだしあいつ。


 なんかこう、デート的な行動でも取ろうかと思ったが、

 良く考えたらそもそもデート的な行動って何か分からんし。

 何? 手でも繋げばいいの? 腕でも組めばいいの?


 ……いやでも、そういう肉体的かつ積極的な接触はなんか気が引けるというかなぁ。

 いかにも恋人です、みたいなことは心情的にはやりたくないのだ。

 だって、俺の気持ちは…………、うん、まぁそういうことだから。


「九乃さーん、どうしましたかー? 急に立ち止まったりして」

「……ん、いやなんでもない」


 年中無休で営業の大型ショッピングモールは、いつでも人で賑わっている。

 そんな人混みの中で立ち止まっていては、玲花とはぐれてしまうな。

 気を付けないと。


「もー、ちゃんと隣に居てくれないと、はぐれちゃうじゃないですかー」

「う、悪い」

「……むぅ、なーんか今日、素っ気ない気がしますねー。私とのデート、そんなに嫌ですか?」

「え? ……や、嫌ってことはないが。というかこれ、デートかどうかも怪しいし。むしろいつも通りだろう」

「さらっと心構えの酷さが垣間見えましたね九乃さん…………本当に、酷い人なのです」


 俯いて、ぼそっと言う玲花。


「……酷いのか」

「ええ、それはもう。だって、隣にこんな可愛い女の子がいるんですよ? デートと銘打って、その女の子がめいっぱいお洒落してるんですよ? 

 なのにいつも通りとは何事ですか、もー」


 ぷくー、とわざとらしく頬を膨らませて怒る玲花。

 まさにいつも通りだ。

 ……って、ああ、そういうことか。

 俺がそう感じるのは、玲花の態度が、あまりにもいつも通り過ぎるせいか。

 確かに服もいつもの三割増しで豪華だし、薄く化粧もしてるし、髪もばっちりセットしてあるんだが……

 行動や言動の端々から、残念さがにじみでているのだ。こう、いつものおどけた感じが。

 これでもう少しおしとやかに女の子らしくしてくれれば、俺も気持ちの切り替えができたんだけど……


「そんな九乃さんには罰として、私の髪飾りを選んでもらうのです! 乙女の命を彩るもの大切なものですからね。責任重大ですよぉ?

 さぁ! さぁさぁ、早くお店にれっつらごーなのです!」


 テンション高く喋りまくる玲花。

 その外見とのギャップのためか、心なし俺達の周りから人が引いている。

 ……はぐれずには、済みそうだな。


「いやこれ、切り替えとか無理だろ……」


「なんか言いましたか?」

「いーや、なんでも」


 まぁ、いっか……

 もう普通に買い物とかを楽しもう、うん。




 ―――




 そして午前中は、小物を売っている所を中心にいろいろなお店を見て回り(結局玲花は何も買わなかった)、お腹が空いてきたので今は玲花の先導の元フードコートに来ている。


「なぁ、本当にここでいいのか? もっとちゃんとした店も入ってるけど」

「ハンバーガーが食べたい気分です!」


 空いている席を見つけるとそこをダッシュで確保し、満面の笑みを浮かべる玲花さん。


「お前むしろ雰囲気とか、自分で壊しにかかってるだろ……」

「まぁ私は、楽しめればオッケーですからね。こういう所に来て、九乃さんとぶらぶらして、美味しくご飯を食べる。最高のデートじゃないですか」

「そういうもんかね」


 つまり玲花にとっては、場所が大事なのか?

 ……んー、よくわからん。


「そういうもんです。いつもとちょっとでも違うってだけで、女の子はそういう気持ちになるものなんですよ。……あ、ぶらぶらって、逆さまからよむとらぶらぶですよね。

 非常にデートっぽいです!」

「らぶらぶはしてねぇよ」


 ……いつもとちょっとでも違う、ねぇ。

 いやでもそうすると、例えばいつもの帰り道でも、少し違う道から帰ったりしたらそれはデートなんだろうか。例えばいつもは絶対に入らないようなお店に入ったりしたら、それもデートなんだろうか。

 デ、デートって奥が深いな……


「即答!? 酷いです九乃さん、なんか酷さに磨きがかかってる気がしますよ」

「気のせいだ。もしくは頭のせいだ」

「暗に私の頭がおかしいと!?」

「……さて、じゃあ俺そこのモックで昼飯買ってくるから、席キープしといてくれ。

 玲花は何が食べたい?」

「あからさまな話題転換!」

「よし、食べたいものは無し、と……」

「ベーコンレタスバーガーとコーラでお願いします!」

「了解。じゃ」

「あ、ちょっとー!?」


 後ろで騒ぐ玲花を放って、俺は店の前に出来た列に並ぶ。

 傍から見たら、確かに酷い男かもしれん。


 ……。


「ご注文はいかがなさいますか?」

「えーと、」


 ……デザートも、買っていってやろうかな。




 ―――




「あ、九乃さんお帰りなさいですー。

 ……あれ? この寒い中、アイスなんか食べるんですか?」

「いや、玲花の分」

「ありがた迷惑!?」


 席に戻って早々、玲花に盛大に突っ込まれてしまった。

 ……寒い中アイス食べるの、俺結構好きなんだけどなぁ。


「いらないのか……じゃあ俺が食べよっと」

「……あ、でもアイスをこう、あーん、みたいなことして食べさせ合うと、

 そこはかとなくデートっぽいかもしれません。やっぱり、頂きます!」

「ん、そうか」


 トレーをテーブルの上に置くと、

 カップに入ったアイスを自分の方にススーと持っていく玲花。

 そして早速、プラスチックのスプーンでもってそのアイスを……


「いや、食べるの早いだろ」

「……はっ! すみません、ちょっとあーんのことで頭がいっぱいでした」

「いや、あーんもしないし」


 俺がそう告げると、「ええっ!?」と大げさに驚く玲花。

 そのリアクションは放置してエビカツバーガーの包み紙を開ける俺。そして口を開けてかぶりつき、咀嚼する。うん、美味い。

 やっぱこういう大味なものは偶に物凄く食べたくなるよな。玲花もきっとそうだったんだろう。

 うんうんと頷いて、玲花の方を見る俺。

 その視界には、こんもりとアイスが乗ったプラスチックのスプーンが、大写しになっていて……


「九乃さん、あーん」


 こちらに向けて、ずずいとスプーンを差し出す玲花。

 どうでもいいが、周囲の視線が痛い。


「いや、しないって言ったよな!?」

「えー、つれないです。……エリザさんとは、やってたのに」

「……」


 いや、うん。


 思い返すはギルド対抗戦の後の祝勝会。

 確かに俺は、エリザにあーんをして貰った。

 あの時のエリザ、今思い返すと超可愛かったな……頬を真っ赤に染めて、上目遣いでぷるぷるとスプーンを差し出す彼女。

 いや、自分が無自覚でなんということをしてもらってたかと思うと、怖いもんだ。

 今思えば、もしかするとあの時からエリザは……いや、憶測はやめるか。

 後で手痛いしっぺ返しを食らうかもしれないし。具体的に言うと、俺の一人相撲とか……うん。はぁ。


「ちょっと九乃さん、どうしたんですかそんな固まって? 

 エリザさんのパフェはオッケーで私のアイスは食べられないんですか?」


 スプーンを差し出したまま問う玲花。

 その顔にいつもの笑みは無く、無表情だった。

 ……ちょっと怖い。


「いや、玲花が悪いとかそういうのじゃなくて、ここは現実リアルだし、その、」


 慌てて弁明しようとする俺。

 それを遮るように、玲花はボソっと呟く。


「全く。

 九乃さんはやっぱり――――」



「――――分かりやすい、ですね」


 自分の中にあるものを再確認するように、そんなことを。


「……え? ……分かりやすいって一体何がだ?」

「えー、もしかしてはぐらかしてます? 何ってそりゃあ、エリザさんのことですよ」

「エリザの? そりゃあ、どういう意味……」



「いや、だから。


 九乃さん、本当にエリザさんのこと好きなんだな―って」


 その瞬間。

 周りの喧騒が一瞬だけやんだように、玲花の言葉ははっきりと聞こえた。



「……玲花、お前」


「……ふーむ、これでもなお無表情ですか。ですよね……

 九乃さんの驚く顔、ちょっと見たかったんですけど。残念です」

「何を、いや、え? どうして、」

「……無表情でこんだけ慌てられるってのも、ある意味凄いですが。凄いっていうか、もうなんかコントみたいですが」


 いや、あれ? 


 えぇぇーーー……


 玲花は当たり前のように、俺がエリザのことを好きだと言った。

 それもこの反応からするに、カマをかけているとかじゃない。

 そう確信して、言葉を発したのだろう。


 俺は自慢じゃないが、人に感情を悟られにくいはずだ。

 その俺が、しかもつい昨日まで自分で気付いてすらいなかったことを、さらっと言い当てるなんて……

 玲花って、一体……


「……なぁ玲花。一つ聞いても良いか?」

「なんでそんなことが分かったのか、ですか?」

「まぁ、そうなんだが」

「そりゃ九乃さん、現実でのエリザさんへの対応見たら、割と分かりやすかったですし……少なくとも、私にとっては」

「……まじか」

「ええ。だって私は、九乃さんをずっと見てきましたから。ずっと、エリザさんよりも長く……」


 そこで、目を伏せる玲花。

 何かを言うのを、躊躇っているような、そんな気がする。

 何か、言ってしまったら後戻りできないような……


「え、えーと」

「……とと、駄目ですねこれじゃあ……うん、よし。

 さて九乃さん、何故わかったかと問うならば、その答えは只一つ。

 だって私は、九乃さんの――――



 ――――親友、ですから!!」



 そう、拳を握りしめて力強く宣言する玲花。

「まぁ、応援しますからね!」と笑う玲花。



 でも、彼女は。

 何故か、今にも泣き出しそうな顔をしていた。




 ―――




 1月2日、よく晴れた日曜日。

 私は初恋の人とのデートから、重い気持ちを引きずって帰宅します。


「……ただいまですー」


「お帰りなさいませ、玲花様。

 もうそろそろお帰りになる頃かと思いまして、お茶の準備を致しておりますが、いかがなさいますか?」


 玄関の扉を開けると、メイドさんが出迎えてくれました。

 メイドさんは三つ子さんで三人いるんですが、この人は……

 ……うん、ちょーっとどの人か分かんないですけど、まぁ美人のメイドさんです。


「ちょっとしたら、部屋に持ってきてください。お砂糖マシマシで」


 今はなんとなく、吐きそうなくらい甘ったるいものを飲みたい気分です。


「何かありましたか?」

「……ええ。ちょっと、フラグを折ってきました」


 今日のデートで、九乃さんに言った言葉。

 あの人のことだから、絶対に今後は”そう”私に接してくるはずだ。

 言葉の裏を読むなんて器用なことを出来る人じゃない……いや、それは違いますね。

 きっと私のことを、信じてくれているから……でしょう。

 だからこそ、私の言葉に本質的に疑いを持たない。馬鹿な事を言えば突っ込んでもくれますが、真面目な時はとことんまでこちらを信用してくれる人なのです。


 まぁだからこそ私は、その信用を失うのが怖くて……

 ずっと九乃さんに気持ちを伝えられなくて……

 結局、エリザさんに取られちゃいましたけど。


「そうですか……では、五分後にお茶をお持ちしますね」

「あれ、反応が軽い!? メイドさんから聞いてきたんじゃないですかー……

 むしろ私の愚痴を聞いてくださいですよぅ……」

「申し訳ありません、玲花様。しかしながら、予想されていた事態でしたので……」

「よそ……あ、いやメイドさんならそうですよね……

 でも、だったらもっと私を労わってくださいよー」

「業務に含まれておりません」

「ばっさり!」

「……冗談です。では、後ほどお話を伺いますね」

「よろしくです」




 ―――



 そうして、自分の部屋。

 バタンと扉閉めると、奥のベッドにダイブします。

 ふかふかのお布団にくるまって、少しだけ……胸の内を、吐き出しました。


「……っく、うぅ……」


 ぼろぼろと涙がでて来ますが、これで良かったんだと、私は胸を張って言えます。

 だって九乃さんは……私の、命の恩人ですから。

 どんなに馬鹿馬鹿しい話だったとしても、どんなにあっさりとした終わりだったとしても。

 ”あのゲーム”が私の命を奪いうるものだったというのは、事件直後の報道で見た『十八人が死亡』という字幕ではっきりとしています。

 私が十九人目にならなかったのは、九乃さんのお陰。

 だから私は、せめて九乃さんに恩返しがしたいと思いました。

 なにができるかなって考えて、真っ先に思いついたのが九乃さんと一緒に居るという、ただそれだけのことでした。

 だって九乃さんは、クラスでもいつも一人でしたから。今思えば、それは上から目線のおせっかいかもしれなかったのですが……私が友達になろうと思いました。

 そしてあわよくば、その先の段階に……なんて。


「……っ……ぅ……」


 そういえば。そもそも『IWO』を九乃さんにプレゼントというのはメイドさんの提案でしたが、

 九乃さんを誘ったのは、私の自慢の仲間に、九乃さんと友達になって貰いたかったというのもありました。

 ……正直、今はちょっぴり後悔していないことも無いですが。

 でも私が望むのは、自分自身が九乃さんに幸せにして貰うことじゃありません。

 九乃さん自身が、幸せになることです。九乃さん、割と苦労してるっぽいですからねー。

 だからあの人が自分で……私よりも、エリザさんを選んだのなら。

 私は全力で、それを応援するのです。

 神様にも、お願いしましたしね。


 しかし、初詣の前に九乃さんの気持ちに気付けてよかったのです。それに気付いたのは、割と最近でしたので。

 具体的に言うとまぁ、クリスマス会の時なんですけど。

 きっとそれまでにも薄々感づいてはいたのかもしれませんが、九乃さんの、現実でのエリザさんへの対応を見て確信に変わったという所でしょうか。

 ていうかあの人、私のバスタオル姿<エリザさんの寝間着姿でしたからね、多分。酷いもんです。

 おかげでちょっと、悪戯じみたこと……プレゼント交換で、デートなんて言ってしまいました。


 九乃さんの気持ちに気付きながら……我ながら悪い女だとは思いますが、良い機会だとも思ったのです。

 ――――私が九乃さんへの恋心に、けじめをつけるのに。

 今日のデートは、本当に楽しいものでした。九乃さんは何時も通りなんて言ってましたが……私に言わせれば、完璧なデートでした。買い物をして、ご飯を食べて、映画を見て、お家まで送ってもらって。

 それはもう……私が満足して、未練を断ち切れる……くらい……んー……うーん。

 ……でも、もし。

 もし九乃さんがエリザさんに振られちゃったりしたら……

 なんてことを考えないわけでもないあたり、やっぱり、断ち切れていないっぽいですかね。

 まぁでも、これからはとりあえず、エリザさんとの間を応援するって、決めましたから。


 決めたことは、守りましょう。すぐにふっ切るなんてことは、やっぱり難しいみたいですけど。ぶっちゃけ九乃さん以上の男の人とか、考えられないですけど。


 それでも私の本質は、

 九乃さんに、幸せになって欲しい……ただ、それだけですから。

 そして願わくば、幸せそうに”微笑む”九乃さんの傍に……恋人で無くても、ましてや夫婦でなくてもいいです。ただ、あの人に近くに居れたらいいって、そう思うのです。


最近なにかと忙しい上に、某アラガミ狩るゲーも買って更に忙しい。

週二更新に戻すのは無理そうです。ともすれば更新自体ry......いやすみません冗談です......半分くらい。


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