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第百三話 明けるお話

十一月忙しすぎィ……


申し訳ないですが、しばらく土曜のみの更新になりそうです。

月の初めから週一更新宣言で本当に済まぬ……リアルパート全然終わらんじゃないか……


 コンコン


「エリザ―?」


 時刻は午後十時頃。

 風呂から上がった俺は今、エリザの部屋の扉をノックしている。

 すぐに「どうぞ」という声が聞こえ、俺は扉を開けて中へと入った。


「いらっしゃい」


 部屋の中は数時間前と変わらず、中央に大きなコタツ、その正面に薄型テレビ。

 右手にソファ、左手にベッドだ。

 そしてエリザはと言うとコタツの、テレビの正面にあたる辺に入って準備万端だった。


 やっぱり大晦日はコタツでテレビに限ります。


 こちらに振り向きながら、エリザが自らの隣をポンと叩く。


「……入れと」

「お昼にも入ったし、いいじゃない?」

「や、いいけどさ」


 寒いので、エリザがちょっと詰めてくれたコタツにいそいそと潜りこむ俺。

 しかし、俺がとやかく言うことでは無いかもしれないが、

 なんかじわじわと攻め落とされている感覚だ。

 このままでは俺、ぐーたらなエリザさんのお陰で堕落してしまうかもしれん……

 まぁ、それもいいかな、と思う自分がいることも事実だけども。


「はー、あったかい」


 コタツの熱が、じんわりと身体にしみわたっていく。

 このお風呂とはまた違った心地よさが、コタツの魔力の源だと思うんだよね。

 かじかんだ手先もコタツの中に入れれば、じんとした感覚と共にすぐに暖まる。


「湯上りには少し暑いくらいかしら?」

「いや、別に。この家の廊下長いしさぁ。地味に不便だよな」

「あら、それはごめんなさいね。そこは慣れて貰うしかないわ」

「慣れるって……慣れるほど廊下歩けってか」


 どんな拷問だよおい。

 延々廊下を往復するだけ……あ、割と苦痛だな。


「……ええ、わかってたわよ。クノに細かいニュアンスなんて伝わる訳ないわよね……はぁ」

「?」


 隣同士で座っているせいですぐ近くにあるエリザの口から、

 小さくため息が漏れる。


「ため息吐くと幸せが逃げるっていうけど」

「迷信よそんなの。でなかったら世の中の社会人は皆不幸のどん底よ」

「ある意味あってると思わないか?」

「そんな夢も希望もないこと言わないで頂戴……」


 むー、と顔をしかめるエリザ。

 まぁでも、ため息を吐くと幸せが逃げるってのは逆って感じはするよな。

 まず幸せが逃げたからため息が出るんだろう。うん、真理だ。


「テレビ、見るかしら? 

 正直に言うと私は毎年、大晦日でもさっさと寝てしまうか、趣味に没頭しているかだからテレビってあまり見ないのよね……最近は何がやっているのかしら」

「まぁ、いろいろとな。エリザが見たいのなら付けてよ」


 あくまでチャンネルの決定権諸々は俺には無いのだ。

 ちなみにガ○使は家で録画してる。ぬかりは無い。


「……んー。だったらもう少し、このまま話していてもいいかしら?」

「いいよ。……っても、そうやって改めて話と言われるとちょっと困ったり」

「別に、なんでもいいわよ。

 …………私はクノと話しているだけで、満たされるから」

「……そっか」


 ……そんな台詞を、ちょっと赤くなりながらも仰るエリザさん。

 相手が野郎なら臭いコト言いやがってで済むが、エリザに言われるとなぁ……正直、照れる。

 それでも表情は動かない辺りが俺なんだけれど。

 まぁ、エリザのお役に立てるってんならいいか。


「ミカン食べていい?」

「どうぞ。ついでに私の分もむいてくれるかしら?」

「了解」


 コタツテーブルの上にセットされていたミカンの山から二つ取って、皮をむく。

 良い感じに柔らかくなっていてむき易い。こりゃ甘くて食べごろだな。


 一つ目をむき終わり、二房とって自分の口と、じっと作業を見ていたエリザの口に放り込む。

 いきなりのことに目を白黒させて慌てるエリザに和んだ。


「んむっ!?」

「ちょっと開いてたからつい。……ん、甘いね」

「むぅぅ…………むぐ。……ええ、甘いわね」


 もう一つもむいて、エリザの前に置く。


 そうして俺達の、ミカンを食べながらのお喋りの夜は更けていった。




 ―――




 そして、その瞬間はやってくる。


 チッ、チッ、チッ―――


「「三、二、一―――」」


 カチッ


「「ゼロっ。イェ~イ!」」


 パンッ!


 時計の秒針が丁度真上を指し、新年の開始を告げた。

 プチカウントダウンを行っていた俺達は、

 なんとなくテンションが上がってハイタッチなんかをする。

 これが深夜のテンションという奴? なんか違うか。


「新年明けましておめでとう、クノ」

「まだ新年は明けてないけどな。言うんだったら新年はいらない……まぁ、どうでもいいけど。明けましておめでとう」

「あら、そうなの? ……やっぱり高校は行くべきかしらね。なんとなくで使っている間違った言葉が意外と多いわ」

「これは高校関係ないと思うけどな。厳密に言うとってだけの話だ」

「そう……。それにしても、新年になりたてでいきなり言葉遣いを注意されるなんてね。

 クノ、貴方空気が読めないとか言われたこと……ああ、ごめんなさい。読めなかったわね。知ってたわ」

「なにそれ傷つく」


 いやまぁ、確かに今のは話題の振りが不味かったかもしれないが、俺は別に空気が読めないとか言われたことは……

 あ、玲花に割とよく言われるか。

 あと、鈍いとか唐変木とか朴念仁とか……。

 いやまぁそりゃ、愛想は無いけどさ。それでも玲花はことあるごとにこういうことを言ってくる気がする。困った娘だ。


「ふふふ、冗談……でもないけれど。そんなに気にしなくてもいいわ。

 それも含めて、貴方なのだから」

「なんとなく深そうな言葉に聞こえるな」

「そう? ふふん」


 目を閉じて上を向き、胸を張るエリザ。

 こう、ちっちゃい子が背伸びをしているようで非常に可愛らしいな。

 微笑ましい気分で見ていると、パチッと目を開けたエリザがこちらを見て、微妙な顔をする。


「……なんとなく、馬鹿にされた気分だわ」

「気のせいだろ」


 むしろ褒めてた。


 訝しむエリザの追及をかわしていると、唐突に眠気が襲ってくる。

 新年になったからかな、うん。


「ふわぁ……」

「あ、あら、もうおねむなのかしら?」


 エリザが少し慌てた声を出す。

 うむ、すまん。


「残念ながらな。……初日の出は見たいが……」

「じゃ、じゃあ少し、仮眠をとりましょうか……?」

「んー、そうだな。ちょっとだけ寝よう」


 その提案に、有り難く乗っかっておく。


 初日の出は、灯波神社で見たいな。

 特に景色が良いって訳でもないんだが、毎年恒例のことだから。

 その後はお昼から玲花との初詣もいかなきゃだし……うん、今寝ておこう。


「んっ……くぅ……」


 ずっとコタツに入っていて凝り固まった身体を、伸びをしてほぐす。

 ついでコタツから出ると、少し蒸した身体にひんやりした空気が気持ち良かった。

 首をコキコキを回してふと下を見ると、何故かこちらに中途半端に手を伸ばしかけているエリザ。


「どうした?」

「……いっ、いえ、なんでもない……あっ、違う。

 なんでもなくはないの、その、えと……」


 伸ばしたてをコタツの中に引っ込め、身体をもじもじとさせて頬を火照らせるエリザ。


「暑いのならコタツからでたらいいのに」

「えっ!? そ、そうね、ええ。うん」


 そしていそいそとコタツから抜けだし、俺の隣に立つ。

 なんかさっきから挙動不審なんだが、どうしたというんだろうか?

 精一杯不思議そうな雰囲気を醸し出そうと努力していると、エリザが突然、びしっと部屋の奥にあるベッドを指さし、言った。


「あ、あの、クノ!」

「何?」

「ね、寝るんだったらそこのベッドで寝ると良いわよ? 

 ほら、今から自分の部屋に戻るのも大変でしょう?」


 何を言い出すんだろうこの娘さんは。

 いくらなんでも女の子のベッドで寝るのはアウトでしょうよ。


「いや、別にそこまで大変じゃないし、いいんだけど。てか俺がそこ使ったとすると、エリザの寝る場所が無くなるし。流石にエリザも仮眠取るだろ?」

「え、いや、それはそうなのだけれど……そこはあの、あれよ! ほら……」


 どんどん尻すぼみになっていくエリザの言葉。

 なんだ? エリザは一体なにがしたいんだろうか。

 首を捻りながら、黙ってしまったエリザを見て話を終わったものと判断。

 眠気に誘われるまま自分に宛がわれた部屋に行こうとして、彼女に背を向け――――



「…………要するに、その……一緒に寝ようってことよっ!!」



 後ろから聞こえてきた爆弾発言に、思わず全力で振り返ってしまった。



 ……は。

 はぁぁ!?


 一緒に寝ようって……

 ……いや、まさかね。

 きっとエリザは言葉通りの意味しか含んでないだろう。


「いやいや待て。落ち着けエリザ。

 実は全然頭が働いてないだろ」


 それでも、この発言は頂けない。

 危機感が無いどころの話じゃないよこれ。


 彼女を観察してみると顔が病気みたいに赤くて、今にも湯気ふいてぶっ倒れそうだし。

 真冬に室内で日射病とかありえんけど、エリザの貧弱さならコタツの熱気でのぼせるとかありそうだ。

 両手を下の方できつく握りしめたまま、動かないエリザ。その眼はぎゅっと瞑られている。


「エリザー?」

「……ぁ、ぁぅぅ………」


 問いかけてみても、その口からはもはや意味のわからない呟きしか聞こえてこない。

 ……とりあえず、こっちをベッドに寝かせるのが先かなぁ。

 さっきのはきっと、熱暴走的なあれだろうが。

 俺の眠気は驚きで吹っ飛んでしまったよ。


 固まった状態のエリザをお姫様抱っこでベッドまで運び――この際、彼女はぎゅっと縮こまったままだった――そっと横たえる。


 横になると、ゆっくりと目を開くエリザ。

 その瞳はかつてない程潤み、今にも透明な滴が決壊しそうだ。

 何かに脅えるような、それでいて何かを欲し、期待するような眼差し。

 それをじっと向けられて、俺の心臓の鼓動が早まる。



 ……いや待て待て。


 理性、理性、理性、理性、理性、理性、理性、理性、理性、理性、理性、理性、理性、理性、理性、理性、理性…………


 頭の中でひたすらそれだけを考える俺。

 やばい。何がやばいってこのシチュエーションがやばい。

 見ようによっては俺がエリザを襲おうとしてるみたいじゃないか。



「クノ……九、乃……」



 リアルの名前呼びっ!?

 一体どうしたっていうんだエリザさん。いやさ近衛理紗さん?

 もうこれさっさと寝て貰うのが吉かな。


 とりあえず、ぼんやりとした表情のままベッドでくたっとしているエリザに背を向け、俺は心臓の鼓動を落ちつける。

 深呼吸、深呼吸っと。


 ……。


 ……ふぅ。

 よし、大丈夫だ。


 クリスマス会の時のような失敗は犯さない。

 今日の俺は理性50%増量キャンペーン中なのだ。うん。


 そして振り返ると、横たわるエリザの髪を優しく整え、そっと布団を掛ける。

 今の俺は菩薩だ。色即是空。状況に流されなどしないのだ。


「……じゃあエリザ、おやすみ。六時くらいになったら、起こしにくるな」


 それだけ告げて、部屋から出ようとする俺。



「…………えっ!?」



 エリザのびっくりしたような声だけ背中に受けて、部屋の扉を締め切ったのだった。

 エリザって、意外と暴走しやすいよな……自分の身体は大切にして欲しいものだ。


 まぁ、ちょっと寝たら正気に戻ってるだろうけど……俺以外の男にそういうことを言ったりとかは……無いよね? 

 男と接点がないとか言ってたし。引きこもりだし。うん、大丈夫だろう。


 自問自答をして、ちょっと安心。

 仮にそんな事態になったとしたら……


 ――相手さんを、”ぷちっ”としに行かねば。


「……っと」


 いつの間にか握り込んでいた左の掌から、赤い血が垂れてくる。

 結構ざっくりやってしまったようだ。いや、失敗失敗。


 ……別に嫉妬してるとかそういうのではなくてね? 

 ただ、父や兄的な思考で、エリザが大切なだけなのです。ええ。



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