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第九十四話 妹?のお話

 『グロリアス』のギルドホームから、『花鳥風月』のギルドホームに帰って来る。

 空けていた時間は一時間ほどだったが、皆はまだ居た。


「クノさんクノさん! 大丈夫でしたか!? カリンさんから聞きましたが、数十人も相手どって」

「ああ、問題無い。むしろ俺の戦闘スタイルは多対一でこそ本領を発揮するしな」

「……あ、いえ。クノさんの心配じゃなくてですね……やけに張り切ってましたから、グロリアスの皆さんは大丈夫かなー、と。大量にトラウマ生産したりしてませんよね?」


 そっちかよ。

 いや、その心配は行く途中にクリスにもされたけどさ……


「大丈夫だろ……言ってもゲームなんだし。ちょっと戦ったくらいでトラウマになるほど張り切ってはいないから」

「それは、張りきればトラウマに出来るってことかい?」


 カリンが、意地の悪い笑みを浮かべながら聞いてくる。

 そんな表情するなよ……まるで俺がどこぞの悪代官みたいじゃないか。


「このゲームじゃ多分無理だな。攻撃力が高くてすぐ終わっちゃうから」

「さらっと凄いこと言ってるんですけど、私もう全然驚けないです。汚れてしまったんでしょうか?」

「汚れ……とは少々違うような気もしますが、クノさんの傍にいるとだんだん感覚がマヒしていくというのには賛成ですね」

「ノエルちゃんいろいろマヒしてるねー。あたしの影響しかり、クノくんの影響しかり」

「リッカお前……ノエルに影響与えてる自覚はあんのな」

「ノエルちゃんは純粋だからねー」


 少々舌ったらずな口調で、まるで自分が純粋ではないかのように言うリッカ。

 ……薄々思ってたけど、この子割と黒いよな。天然なのかなんなのか判断しかねる。


「で、クノさん。今回手に入れた防具は、どんなものなのですか?」

「Str上昇+40%」


「…………ま・じ・で・す・か!? え? 防具?」


 ポカン、と口を開けるフレイ。


「まじです。ちょこちょこデメリットはあるけど、気にする必要はなし」

「……いやでも……参考までにどんなものが?」


 えっと確か……メニューを開いて、直接確認する。


「HPが半分になって、Str以外のステータスが60%減少。あと耐久値が1で、壊れると経験値が減少したり武器が装備できなくなったりする」

「うわまさに呪具! ……でも、よくそんなもん装備できるもんですね……」

「まあ実質デメリットは無いに等しいしなぁ。ステータス関係もそうだし、耐久値だって手袋はそうそう壊れないし」

「いやまあ……でもうっかり攻撃掠ったりとか、結構ありません?」

「ない」

「そ、そうですか……てかクノさん、どんだけ火力上げるつもりなんですか? もうオーバーキルにしても度が越えてますって。超非効率な気がするのですが」

「効率とか考えてないからなぁ。趣味みたいなもんだ」

「それでトーナメント優勝出来ちゃう辺りホントにもう……クノさんなりに努力はしてるのは知ってますけど、なんだかなぁ」


 片手で顔を抑えて、天を仰ぐフレイ。

 まあ、誰に何と言われようと火力特化はやめないけど。

 ついでにトーナメントの賞品も火力が上がりそうな奴を選んだと伝えると、よろよろと窓の方にいってしまった。


 何か悩む事でもあるのか……フレイの気持ちがイマイチよくわかんないなぁ。女心は複雑ということか。

 視線を窓辺のフレイから外して、ギルド内をぐるりと見渡す。

 そして、ある事に気付いた。


「……あれ? エリザは?」

「おや、気になるのかい?」


 なんでそんなニヤニヤしてんだ、カリン。


「まあな。いないみたいだけど、工房か?」

「正解だよ。クノ君が戻って来るまで、作業をするとかなんとか……」


 キィ―――


 と、ナイスタイミング。

 重い扉が微かに軋みを上げながら開いて、工房からエリザがでてきた。

 俺が足を向けると、カウンターの向こうから話しかけてくる。


「クノ、お帰りなさい……丁度良かったわ。さっきの『茨の黒手』を今から改造するから、共有倉庫に入れてもらえるかしら?」

「改造……ああ、そんなことも言ってたな。何するんだ?」

「ええ、ちょっと――――呪いの程度を上げるのよ」


 ニヤリ、とマッドな笑みを浮かべてエリザは言う。


「クノがこの間取って来た『邪具覚醒片』という素材を、覚えてる?」

「あー、そんなのもあったな」


 パンチングマシーンの景品だ。


「それを使うと、呪具をグレードアップさせられるのよね」

「グレードアップというと……Strが高まるのか」

「おそらく、ね。100%とは言えないけれど、だいたいはそんな感じだと思うわ。……無理にとは言わないけど、出来れば改造させて欲しいのだけれど」


 キラキラと、期待した瞳でこちらを見つめてくるエリザ。

 まるで面白い実験体おもちゃをみつけた科学者のようだ。

 装備作成自体が趣味みたいなものだと言っていたし、実際そんな心境なんだろう。


 ……まあ強化してくれるのなら願ったりかなったりだし、


「エリザの頼みだしな、断る訳ないだろうに」

「……ふふっ。嬉しい事を言ってくれるわね」

「普段のエリザへの恩返しも兼ねてだしな……呪具といえば、腕輪はどうだ? あれも改造したりはしないのか?」

「うーん、そうしたい気もあるけれど……あれは正直、現状で十分でしょう? 邪具覚醒片の方も、実は残りが心許ないし……」


 ああ。

 確かに強化するためのアイテムも無限って訳じゃないもんな。

 99個あっても、一度で50個使うとかかもしれないし。


「そっか。じゃあ、『茨の黒手』は共有倉庫に…………、っと、入れといたからな」

「有難う。じゃあ早速、やってくるわ」

「おう。どんな仕上がりになるのか、楽しみにしてるからな。……ちなみにどのくらいかかりそう?」

「んー、そうね……」


 エリザはカウンターの奥にある掛け時計に目をやり、少し考えてから言う。


「今が午後二時だから……そうね、六時、七時くらいには終わるんじゃないかしら?」

「装備一個強化するだけで割とかかるんだな」

「呪具だから、普通のものより面倒なのよ」


 面倒といいながら、楽しげな面持ちだけどな。


「成程……何はともあれ、よろしく頼む」

「期待して待ってて頂戴」


 そう言って片手を上げ、ゴスロリをひるがえし工房へと取って返すエリザ。


 くくく……Str強化。

 楽しみだなぁ。改造後の呪具……


「クノさん……まだ火力あげるんですかと。もう私はこのことに関してつっこまない方がいいんですかねぇ」


 後ろからフレイの声がかかる。


「この調子だと、第五のボスを一撃で倒すとかやりそうで怖いね……」

「わたしも少々不安ですね……クノさんならやりかねないと思います」

「クノくんだもんね~」


「や、流石にそれは……」


 ……。

 あり得るかな。


 カウンターの椅子に座り、皆がいる丸テーブルの方に向き直りながら考える。

 一撃……複撃統合があるしなぁ。100%【斬駆】と合わせれば、あっさりやれそうな気がする。

 【死返し】の効果……いや、自動攻撃で複撃統合はやってくれないか……そうするとやっぱり……


 ふむり、と黙りこむ俺。


「……え、まじでできちゃったりしますか?」

「かもな」

「わー。流石クノ君、ゲームバランスは投げ捨てるものだね」


 カリンの表情が死んでいる。

 なんかごめん。


「凄いです……と、素直に称賛していいのかどうか……」

「そこは褒めて欲しいなぁ」

「クノくんすごーい!」

「ありがとリッカー!」


 だっ、と駆けだしてきて俺にダイブしてくるリッカのテンションにノって、抱きとめてやる。


「よっとと。あ、クノくんすごいねーホント。全然バランス崩さないー」

「まぁな。日頃フレイにもやられてることだし」

「……あー。そーいえばそうだったねー」


 もぞもぞとリッカが体勢を変え、何故か人形のように俺の膝の上にポジショニングする。

 ……一緒のオフ会を経て、中学生組との距離も縮まったようだ。


 その証拠に、ほら。


「ノエルもおいで」

「え、いえ、わたしはその……」

「えー。そんな羨ましそうな顔しといてそれはないよー」

「遠慮しないでいいぞー? お兄ちゃん欲しかったって言ってたもんな」

「あ……覚えてて下さったんですか……? ……えと、その。では、少し失礼して……」


 リッカが左膝に移動して、ノエルが右膝にちょこんと座ってくる。


 ……軽いなー。気持ちの問題かもしれんが、二人乗せてもフレイ一人分くらいの重さしか感じない。


 うむうむ。

 そのまま頭を撫でてやると、くすぐったそうに身をよじる二人。


 ……妹がいると、こんな感じなのかねー。


 しばし心の温まる交流をしていると、前方から凍える眼差し。


「……クノさん……今まで私に手を出さなかったのは、そういうことなんですか?」

「ん? 何が?」

「この、ロリコン!!」


 ギルド中に響く大声をだすフレイ。


「おぉ、なんか壮大な勘違いをしてるっぽい」

「くくく、なかなかどうしてクノ君は。すっかり『花鳥風月』のお兄ちゃんポジションだね」

「羨ましいか?」

「ああ。どちらかというと、ノエルやリッカがだけどね」


 凛とした表情のままそんなことを言うギルマス殿。


「残念。自分よりも背の高い女性を膝に乗せる趣味はないな」

「えー」

「じゃあ私はオッケーなんですね!」

「カリンは指を口に当てんな。フレイはそろそろ自重って言葉覚えようぜ。てか今さっきのロリコンうんぬんはもういいのか」

「ふっ……あれは様式美みたいなもんです。そして私は、自分を大事にしてるからこういうこと言ってるんですよ」


 様式美て。


「うーん? ごめん、お前の論理が分からない」

「でしょうねー」

「フレイちゃん、どんまい」

「あ、あの。頑張って、ください?」

「その態勢から言われてもなー。てかノエルちゃん、疑問形は地味に傷つくのですよ……」


 その後。

 何故か結局突撃してきたフレイとカリン、そしてこっちも何故かやる気満々で応戦するノエルとリッカらと少しばかりじゃれあって、俺達は狩りに出掛けた。

 一緒に、と誘われたが今日は(というか”も”)パス。


 【バーストエッジ】を多用した戦闘をやっておきたかったからな。

 【死返し】の方は……【バーストエッジ】の次にやろう。うん。

 夜を楽しみにしつつ、俺は北のフィールドへと向かった。



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