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第九十一話 トーナメント後のお話①

『それでは優勝したクノさん! 今のお気持ちをどうぞ!』

『ん……嬉しいです』

『「最強」の襲名、あると思いますか?』


 俺の隣にいるオルトスさんを、ちらっと見る。


『いや、別にいらないですが……』

『そうですよね! クノさんは「最強」よりも「最凶」の方がしっくりきますし!』

『……口頭で言われても、意味がイマイチ伝わらないというか、なんというか』

『オルトスさんはこれを区切りに、「最強」から「人類最強」になる訳ですね!』

『ねぇ、さり気なく俺を人類から仲間はずれにしないでもらえます?』


『俺は別に、最強にこだわるつもりは毛頭ねぇんだが……』


 ボソッと横合いから呟くオルトスさん。

 その割には凄い悔しそうだが。その異常にもにゃもにゃした口を直せよ。


『お前は俺より強かった、それだけだ。胸張れオラァ!』

『だっ! 背中を叩くな馬鹿。俺Vit0で軽いんだから、ステージから吹っ飛んでいくだろうが』


 大きくよろめきながら、お返しに肘鉄をくらわせてやる。

 ゴッ、という鈍い音がしてオルトスさんが睨んでくるが、お互い様だ。


 そんな一位二位のやりとりをスルーして、パトロアさんが声高に宣言する。


『ということで! 第一回「IWO」PvPトーナメント優勝者は、クノさんでしたー! 

 皆さん、盛大な拍手をっ!』


 ワァアアアアアアアアアア!!


 大きな声援と、割れんばかりの拍手の嵐……なのだが、


『なんか拍手に混ざって、怨嗟と畏怖が伝わってくるんですが』


『人徳です』

『人徳だな』

『人徳だと思います』


 パトロアさんとオルトスさんに加え、なんかそこに居た三位のミカエルにまでそんなことを言われる。

 ちなみに三位決定戦は、決勝戦の前に行われたものな。

 ……絶対カリンの方が強いと思ってたんだけど、まさかの敗北だった。彼女は今頃、観客席で涙を呑んでいるだろう。


 しかし、人徳、かぁ。


『そう言われると言い返せないなぁ……』




 ―――




「いやしかし、凄かったですねぇ。まさか本当にオルトスさんを倒しちゃうなんて」

「クノ、優勝おめでとう。……私は最初からクノが勝つって信じてたけれどね」

「あ! それなら私だって超信じてましたよ! 信じまくりですよ! エリザさんの百倍信じてましたもん!」

「あら……別にそこで貴方と争うつもりはないのだけれど、最後の言葉は見過ごせないわね。

 私の方が信じていたに決まっているじゃない。詳細な数値は出せないけれど、大小比較なら容易にできるわ」

「……ぐ、ぐぬぬ。私の方が信じててましたよっ」

「私よ」

「私ですっ!」


 第一回『IWO』PvPトーナメント。

 何の因果か優勝なんてしてしまったので、先ほどまでステージ上に担ぎ出されており、たった今解放されて観客席でメンバーと合流した途端、これだ。

 なんでフレイとエリザが喧嘩してるんだろう……


 他の三人が口々に優勝を祝ってくれる中、俺はカリンに小声で囁く。


「ギルマスさん、止めてやれよ」

「ふっ。それは無粋というものだよ。君がどうにかしたまえ」

「ノエル、ヘルプ」

「あ、えっと、その……かっこよかったです、決勝戦」

「それは何に対してのフォローだ? しかし有難う。まさか俺もオルトスさん相手に勝てるとは……いやでも、勝つ気でいったしな……」


 と、ついついノエルに向かって決勝戦の話をしようとしていると……


「女同士の争いって、けっこう醜いよねー。喧嘩しちゃだめだよ、二人とも」


「「!?」」


 ピシッ、と固まるフレイ。顔に手を当て、俯くエリザ。


 おお。リッカ、なんかGJ。

 さらっとこういうこと言う辺り、この子も只者じゃないんだよな……

 とりあえずぐっ、と親指を立ててきたので、立て返しておいた。


 そしてリッカの言葉を受けて、フレイがふるふると小刻みに震えながらこちらを窺っている。


「み、みにくいです……?」

「……んー、微妙」

「びみょう!?」


 がっくしと項垂れるフレイ。

 エリザはというと……もう何事も無かったかのように澄まし顔でこちらを見ている。

 フレイも見習って、もうちょい精神面鍛えようなー。


「……良く考えたら、この気持ちは張り合うようなものでは断じてないのよね。それが向いているのは他ならぬ貴方であって、貴方がどう感じるかが一番大事な訳なのだし」


 そして紅い瞳から発せられる、無言の圧力。


 ……え? 俺は何を要求されてるんだ?


「……まあ。二人が信じてくれてたってのは有難い話だよな。その事実だけであと三回はオルトスさんとやれそうだよ」

「そ、それはやめてあげて頂戴。彼、心身財ともにダメージ大きいから」


 エリザが表情を崩して顔を引きつらせる。

 そうか?

 オルトスさんとの戦いは、それこそヤタガラスなんて目じゃない程楽しかったんだがな……


「……クノ君、タフだよね……」

「さっすがクノさんなのですよねー」

「しかしあれだよね。オルトスとの戦いを見ていると、私がどれほど手加減されていたのかということがひしひしと伝わって来て……ミカエルにも結局負けてしまうし……」

「ああっ、カリンさん! そんな落ち込まないでください! それを言ったら私なんか予選落ちですよ!」

「わたしもです……いえ、正直あまり期待はしていなかったんですが。でも折角火力になるようなスキルを手にいれましたし、もう少しやれるかな? とは思っていましたけど……」

「あたしなんかすっごい惜しかったと思うんだよー。あと一発でもでっかいの叩き込めればなぁ……」


「「「「……はぁ」」」」


 ああ、エリザ以外のメンバーが落ち込んでらっしゃる。

 どう声をかけたもんかな……優勝者の俺が励ましても、なんか逆効果にしかなりそうにないんだが。


 ……エリザは、どうなんだろう。

 負けて悔しいとか、ないんだろうか?

 どんよりオーラを醸し出す四人は時間が癒してくれると信じて一旦放置し、エリザに聞いてみる。


「私は別に、悔しくはないわね……本来は職人であって、戦闘は専門じゃないから。……あ、別に負け惜しみとかじゃないわよ?」


 あっさりと言うエリザ。

 あー、まあ確かにそうか。エリザと俺達じゃ、勝負所が違うもんな。


「と、いう訳で。

 この後ギルドで剣を出して頂戴ね。全部新しくしちゃうから」


「あ、了解」


 そういや、俺の剣だけ強化できてなかったもんな。彼女の本領発揮はこっちである。

 うきうきとした様子のエリザ。どんだけ強化したかったんだろ……


 しかし、楽しそうに笑うようになったなぁ……最初に会った頃は、笑っていても少し固かったというか、無表情に引きずられていた気がしたもんだが。

 いまでも基本は無表情だが、感情表現が豊かになったってのは羨ましいもんだな。


「期待してるぞ」

「任せなさい」


 しかと引きうけてくれる小さな姿に頼もしさを感じながら、俺は一段トーンを落としてエリザに相談をする。


「で、それはそれとして、この子達なんだが」

「頬でも張ってみようかしら」

「一応顔は止めてあげよう、顔は」


 何やらベンチに座ったままずーん、という効果音が聞こえてきそうな集団。


 結局、エリザのハリセンで背中をはたいて覚醒させましたとさ。


「ネタアイテムも役に立つものねぇ」


 ハリセンを見つめながら、しみじみとそんなことを漏らすエリザ。

 その横で復活した四人が、今度は「祝勝会だ―!」とか「反省会だ―!」とか騒いでいる。


 まあ元気になったんならなによりということで。


 そこから俺達は『ホーサ』の街のレストラン(かなり混んでた)で俺の優勝祝い兼メンバーの残念でした会を決行することに。

 カリンのヤケ食い(デザート限定)が何ともシュールだったわ……


 ちなみに、行く先々で『よっ! 魔王! 最凶!』とか声掛けられてウザかったので、ちょっと周囲に睨みを利かせたら、パッタリと野次が止んだ。



 これが人徳という奴か……




 ―――




 略式掲示板劇場

【魔王様観察スレ@2】


 大剣「『ホーサ』で行われたPvPトーナメントだが、行った奴挙手」

 双剣「ノ」

 刀「ノ」

 弓「ノ」

 片手剣「ノ」

 長槍「ノ」

 短槍「ノ」

 炎魔法「ノ」

 短剣「ノ」

 大鎌「ノ」

 メイス「ノ」

 氷魔法「ノ」

 薙刀「ノ」

 グローブ「ノ」

 大盾「ノ」

 棒「ノ」

 鎖鎌「ノ」

 大剣「お前等がいかに高レベルかというのは良く分かったわ。ノ」

 大剣「じゃあ実際トーナメントに出た奴挙手」

 双剣「ノ」

 刀「ノ」

 弓「ノ」

 片手剣「ノ」

 長槍「ノ」

 短槍「ノ」

 炎魔法「ノ」

 短剣「ノ」

 大鎌「ノ」

 メイス「ノ」

 氷魔法「ノ」

 薙刀「ノ」

 グローブ「ノ」

 大盾「ノ」

 棒「ノ」

 鎖鎌「ノ」

 大剣「お前等がいかに意欲にあふれているかというのは良く分かったわ。ノ」

 大剣「じゃあ予選突破した奴挙手」

 双剣「……」

 刀「……」

 弓「……」

 片手剣「……」

 長槍「……」

 短槍「……」

 炎魔法「……」

 短剣「……」

 大鎌「……」

 メイス「……」

 氷魔法「……」

 薙刀「……」

 グローブ「……」

 大盾「……」

 棒「……」

 鎖鎌「……」

 大剣「ですよねー」

 双剣「ワロタw」

 片手剣「www」

 刀「無理ゲーだろあれ勝ち抜くとかw 初回だからなんかヤバイのがごろごろ混じってたし」

 短剣「ヤバいのっていうか、まあ普通に魔王様いたし」

 大剣「だよな……まあ次回からはもうちょい楽になるだろ」

 弓「確かトーナメントって、平日は一日二回、休日は四回行われるんだっけ」

 炎魔法「水木は休み」

 弓「そういやそうだったな」

 苦無「ノ」

 大剣「……」

 大剣「……レス遅!? いんのかよ!?」

 刀「あ、ミスブルさんちーす」

 片手剣「ちーす」

 短槍「ちーすw」

 長槍「特定余裕過ぎるだろwww」

 苦無「魔王強すぎワロタww」

 双剣「↑アンタこてんぱんだったもんな……でもその前のフレイちゃんとの戦いは超GJ」

 長槍「↑いや、フレイちゃんをあんな目に合わせるとか絶許」

 メイス「しかし魔王は確かに強すぎだろ……ナニアレ、人? ファッ!? ってなったわ」

 グローブ「青い人が負けるのも、まあしゃーないしゃーない。そして魔王は人じゃない」

 刀「青い人のフレイちゃんへの所業はスレ内で賛否両論の嵐」

 短剣「そして最終的に、間近でフレイちゃんをグフフしてたからとりあえず死刑ってことになってる」

 苦無「賛はどこいった賛は!」

 大剣「贄になった」

 苦無「上手い事言うたつもりか!」

 大剣「お後がよろしいようで」



 刀「しかし魔王様優勝かー」

 短剣「オルトススレの住民がここに流れてきてひと悶着あったりしたが、大体それもおさまったしな」

 双剣「あんなにわかが集まっても、針の先ほどの脅威にもならんわ」

 大剣「↑お前いなかったろ。魔王様優勝でスレがなんか、人いるのにお通夜状態っていう意味分かんない雰囲気のところに凸くらって大変だったんだぞ」

 双剣「バレテーラ」

 刀「あー、しかし優勝か……なんかさ、いちゃもんとか付けられる次元でもなかったしな……」

 弓「だよな。なにあれ、スーパーサ○ヤ人が戦ってたの? って感じ」

 薙刀「オルトスさん、どこぞのゆーしゃたまよりかよっぽど勇者してたわ」

 大剣「だよな……今はもう最強じゃなくなってしもうたが」

 片手剣「オルトスさんが『最強』から『人類最強』へと細分化されました」

 大剣「ちなみに『堅牢不落』は一番最初に付いた二つ名な。βの頃は二つ名スレが地味に熱かった」

 弓「そういや魔王様、『壊尽の魔王』だったな……」

 メイス「あのインパクトは尋常じゃなかった」

 大鎌「衣装と合わせてな。なにあれ、覇王の衣?」

 鎖鎌「エリザさんまじリスペクトっすわ」

 長槍「そのうち魔王様がラスボスというまさかの展開が起こりそうな希ガス」

 片手剣「おい、攻略できねーよ」

 棒「割と真剣に不可能だろ。アレと戦うと考えると胃の辺りがグギュッ! ってなる」

 グローブ「うん……あの戦い方はもう……もう……」

 大剣「↑いいんだ……その辺りのことは前スレで散々……うん。みんな無言になっちゃったから……」

 弓「魔王様圧倒的過ぎワロタwww……ワロタ……」

 刀「草より点が増えるよな」



 炎魔法「てかさ、てかさ。二つ名ってさ、魔王様が自分でつけたとも思えないんだけど」

 短槍「カリンさん辺りだろ。あの人多分このスレ読んでるし」

 炎魔法「あー、なるほど納得」

 棒「てか地味に『氷刃』カリンさんが強かった件」

 大剣「あの人はβの時からかなり強かったよ。単騎ならヤタガラスに勝てるレベル」

 双剣「流石はあの魔王様の上にいるだけのことはあるぜぇ」

 弓「負けてるけどな、魔王様に。ついでに言うと勇者にも」

 刀「↑どうしてお前はそうやってすぐKYなことが言えんの?」

 大剣「↑↑お前まじ空気読めよ」

 長槍「↑↑↑ないわー。これはないわー」

 片手剣「↑↑↑↑勇者に負けたのは魔王戦での心労からに決まってんダロ……」

 苦無「↑↑↑↑↑もうちょい流れを察しろや。ここはそうやってディスるとこちゃうやろ」

 弓「ちょっとまってごめん泣きそう」





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