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第九十話 トーナメント本選のお話 魔王vs最強②

 ヒュ――


 小さな風切り音が鋭く、継続して鳴り響く。

 それは無限の責め苦をあたえる地獄の風音のようであり、

 苦痛から逃れられない亡者の呻き声を表わすようでもあった。


 音が集団となって、精神を削る暴力と化す。

 それを作り出しているのは、手のひら程の大きさの、赤黒の物体だった。


 俺とオルトスさんとの間に、瘴気に侵された分厚い壁ができる。


 何が起きているか。

 カウントダウンのゼロを聞いた瞬間から、俺は最速でお決まりのスキル(【覚悟の一撃】【惨劇の茜攻】【異形の偽腕】)を発動させた。そして即座に「投げナイフ」を呼び出し、高密度でそれを投げ続けているのだ。


 言ってみれば、それだけ。

 しかし単純ゆえに、強力だ。


 ヤタガラスの時も割と本気だったが、今回はそれの更に上を目指して、自身の限界まで力を引き出し最適な投擲で最強の弾幕・・を張る。


 俺の右手に、ぼんやりと光る赤黒の六芒星が出現して、すぐに消えていった。

 【覚悟の一撃】のStr+100%効果があまり生かせないのが、投擲の残念なところだな。

 まあ、最近このスキルは”HPを1にする”という効果の方がメインで活躍している訳だけど……

 デメリットって、なんだっけ。


 ……まあ、いい。

 今はそんなことは置いておくとして。


 今回俺が所持しているナイフの数は、99本×3セット×3枠で891本・・・・


 オルトスさん相手に、様子見は失礼だ。最初から全力で、潰しにかかる。


 891本のナイフを開幕で、惜しみなく全て使う、


 



 ――――いや、使う、はずだった・・・・・




「おぉおおおッ!! 出血大サービスだおらぁぁああ!!」



 ナイフの弾幕の向こうから雄たけびが聞こえ、

 青と橙の燐光をまき散らし、重鎧を纏っているとは思えないスピードで、

 大剣を盾にしながら、オルトスさんが突撃をしてきた。


「まじか、よっ!」


 そのHPの減少量は、一割と言ったところか。

 開始数秒で一割ならいい方かもしれないが、俺はこれで仕留める気でいたんだけど……


 スキルなのかアイテムなのかは知らんが、どんなデタラメだと言いたい。


 まあ、しかし。

 そうでなくては――――面白くないんだけどな。


「っおおおらぁああ!!」

「とっ」


 ガギィイン


 突進してきたオルトスさんの大きく分厚い剣と、両手に持った黒の細剣が激突し、耳障りな金属音が炸裂する。

 決勝戦前に装備メンテ用の時間があったので、剣の耐久値は最大だ。


 いくら相手の武器がごつかろうがなんだろうが、エリザの鍛えた武器が折れるわけが無い。

 そして俺のStrなら、たかが突進してくる人サイズの重戦車を止めるくらい――


「訳ねぇんだ、よっ!」

「……ッ」


 力を込めて大剣を振りはらい、すかさず前方の『偽腕』の剣で刺突をしようとして、【ハイステップ】で後ろに退かれる。


 ちっ、皆持ってんな【ハイステップ】! 

 便利ですね畜生が。


 後ろに展開した『偽腕』二本で、持っていた剣と大量のナイフを投げつけて追撃をするが、オルトスさんの身の丈を超える幅広の大剣にすべて弾かれる。


 至近距離で重い金属音が響くが、彼には全く堪えている様子が無い。


 HPの減少量は、微々たるものだ。

 硬いな……ミカエルなんか目じゃないわ。

 手持ちのナイフを全て投げ切って、削りきれるかどうか……


 剣を前に構えたまま、地を這うように突進してくるオルトスさん。

 そして、斬り上げ。

 筋肉の塊のような身体から繰り出される重量級の一撃を、しかし俺は長剣で撃ち落とす。

 同時に露出したその身体を、後方の『偽腕』の投擲と前方の『偽腕』の斬撃で狙うが、素早く剣を戻され、その場で耐える姿勢を取られる。


 金属がぶつかり合う音が、再度響いた。


「【斬駆】」


 オルトスさんは防御姿勢。だったらその上からでもダメージを与えればいい。

 MPを50%ほど費やした【斬駆】を、黒剣四本での複撃統合verで惜しげも無く披露してやった。


 伸びる赤黒の刃が空を切り裂き、巨大な剣に叩きつけられた。

 が、やはりそれを破るまではいかない。


 鈴の音のように澄んだ、それでいてどうしようもなく破壊的な音が闘技場に響き渡るが、HP減少はこれも一割ってとこか……


「ちっ……。削り殺して欲しいのか?」

「まさか。――――【シールドインパクト】!」


 オルトスさん、ニヤリと笑った。


「……!? 【バーストエッジ】ッ」


 【斬駆】から続けざまに剣撃を与えようとした直後、突如として目の前の大剣から、楯状の透明な圧が発生する。


 素早く右手の剣で斬りつけ、砕けないと分かった時点で、

 俺はすぐさま赤黒い炎を剣に這わせさせた。


 ドッゴォォオオオ!!


 急速に歪む視界。

 オルトスさんから高速で遠ざかっていき、10mくらいで無理やりブレーキ。

 透明な盾に剣を当てたまま爆発を起こしたんだが、相手を見るとまるで痛痒としていないな……どんな防御力だよ、おい。ダメージの減衰はほぼ0だったはずなんだけど……


 そして顔をあげ、しっかりとオルトスさんを見据えた俺に待っていたのは、

 彼が大地に大剣を突き刺す光景だった。


「【アースブレイク】!」


 吠えるようにスキル名を叫ぶオルトスさん。

 大剣から俺に向かって、一直線に地面が裂け、そこから橙のエネルギーが噴き上がってくる。

 文字通り大地を破壊する一撃。それも、武器による相殺ではすこぶる相性が悪い類の攻撃だ。

 地割れとか、どうやって相殺しろと。


「【バーストエッジ】!」

「『橙璧の霊薬』……【ハイステップ】」


 オルトスさん自身から先ほどの橙の燐光が溢れだし、次の瞬間には爆風をものともせずに俺に追いすがってくる。

 ……こりゃ、ブレーキなんぞしてる暇はなさそうだな。



 ――【バーストエッジ】! 

 ――――【バーストエッジ】!

 もう一つおまけに【バーストエッジ】!



 吹っ飛ばされている方向に向かって、左手の剣が爆炎を噴き上げる。

 進行方向から押し寄せる爆風によってガクン、と身体に強い負荷がかかり、俺とオルトスさんの距離は急速に縮まる。左腕の骨がひしゃげ折れそうになるのを、高Strによる筋力で無理やり抑える。

 そしてすれ違う直前、彼が大剣を振ろうとした時点で、更にもう一発。


 今度は右手から放つ爆風によって相手の体勢を崩すことが目的だ。

 爆発の”膜”を絞って細長い楕円体にし、オルトスさんの構えを崩す事に成功する。


 それはさながら、禍々しくも赤黒い、槍のようだった。


 剣先から爆炎が溢れだし、俺の形状操作によって小さく押し込められたエネルギーは、コンマ何秒にも満たない時間でその到達点――――オルトスさんの背後まで突き抜けた。


 普通に斬るよりダメージは少ないようだが、それでも効果はあったようで。

 HPはあまり減っていないようだが、爆風が貫いたオルトスさんの肩部分の鎧が、その周囲もろともキラキラと砕け散った。


 この攻撃方法は想定外だったのか、彼の顔が、初めて驚愕に染まる。


 そして最後の一発は、オルトスさんの懐にて。

 ギリギリですれ違う軌道を取っていた俺は、通り過ぎ様にオルトスさんに黒剣を突き立て、それを爆発の起点とした。


 それも、威力最大で。

 範囲は、彼の下半身と闘技場の地面をまとめて抉り取るように、無駄なく小さく。

 見た目には小規模な爆発が、俺のイメージ通りに発生して、



 ――轟音と共に、闘技場が、揺れた。



 小さく設定した”膜”によって逃げ場を失ったエネルギーが、球内を蹂躙しつくす。

 範囲内の地面が凄まじい勢いで抉られ、巻き上げられる土片。

 あっという間に爆炎と煙で、オルトスさんが見えなくなる。


 ついでに俺も吹っ飛ばされて、爆発に次ぐ爆発の加速により、凄まじい勢いで移動中っと。……いくら加速のためとはいえ、最大威力に自分の身体を巻き込むのは流石に無茶だったかな。


 ある程度飛んだところ俺は、無茶な移動をしていた身体に更に鞭打って、反動のキツいブレーキをかけることに。


 闘技場の地面に深く長い亀裂を残し、停止。

 度重なる爆発で、地面は既にクレーターだらけだ。


 ……てか俺、クレーターができる勢いで飛んでるのな。今更ながらに何故俺の身体はバラバラになっていないのかと。【バーストエッジ】は俺自身にはダメージが入らない仕様で、ホント良かったわぁ。


「……かっ、はぁ、はぁ、はぁ」


 ……あー、気持ち悪。

 息が苦しい……


 俺が止まった場所は、四本の『偽腕』のぴたりと中央。


 そう。

 俺は爆風で飛んでから折り返して、スタート地点へと戻って来ていた。

 ……まあ、『偽腕』がないと近距離戦でも遠距離戦でもまともに戦えないからな。別に新しく呼び出してもいいけど、戻れるなら戻るに越したことは無い。



『――、――!』

『――! ――――!?』



 実況が何やら言っているが、それを聞くのに割く神経は無い。


 さて。

 ではさっきの爆撃の成果はどうかな?


 などと思考しながら、俺はナイフを呼び出し、『偽腕』も使って弾幕を張る作業を開始。

 いまだ土煙の晴れない爆心地に、容赦なく投擲を叩きこんでいく。

 ……そういえばオルトスさんは、吹っ飛ばされてないな。最大威力だったのに。凄いな。


 ナイフが地面を抉る、工事用機械のような音が離れていても聞こえてくる。

 それに混じって聞こえる、金属を弾くような音。それで更に狙いを絞り、俺はナイフ投げを続けた。

 聞こえてくるのが硬質な音だけになって十数秒後。


 俺は手持ちのナイフが切れたことを確認し……


 全ての腕に黒剣を召喚して、更に投擲を続けた。


 すっかり土煙の晴れた目標地点には、大剣の腹をこちらに向け、青白い結界のようなものに籠ってこちらの攻撃を耐えているオルトスさんの姿がある。身体からはやはり、橙の燐光。


 彼は俺のナイフが止まった瞬間に動き出そうとして、即座に繰り出される剣に辟易したように吠えた。


「あぁあああああ!!! いい加減にしろやこの鬼畜魔王がぁあああああ!!」

「聞こえませんわー」

「さっさと終わらせなきゃなんねぇんだよコッチは、よォ!! ――ッつどりゃあ!!」


 キン!


「おお」


 剣を撃ち返して来やがった。


 即座に思考を走らせ回収。

 このまま続けても良いが、剣を投げるのはオルトスさんが突撃してきた時の対応を遅延させることに繋がるので、この辺でやめて様子見にしておく。


 大剣を杖のようにして、憤怒の形相で立ち上がるオルトスさん。

 仁王像もびっくりだ。


 HPは……ちっ。

 大分減ったけど、まだ半分か。どんだけ硬いんですかあの人。

 俺、合計900本近くナイフ投げたのよ? 

 頭おかしいんじゃねぇの、あの防御、力……


 ……いや。

 流石にそれはあり得なくないか?


 俺の攻撃にこれだけ耐えられるなら、ボスでもなんでも鼻歌交じりでソロ討伐できるレベルだ。ボスが延々攻撃しても埒が明かないくらいの超防御力なんだから。

 断言しよう、ボスは俺の十分の一もあの人にダメージを与えられん。


 しかしそれは、おかしくないか。

 そこまで硬いなんて聞いたことないし、むしろある程度ダメージを受けながらも最後は踏ん張るような話が武勇伝となっていたはずだ。

 ならば、なにかタネがあるハズ。


 オルトスさんが”vit極振り”という可能性も、あるにはあるが……


 一番可能性が高いのは――


 オルトスさんが最初に言っていた、「出血大サービス」という言葉。

『橙壁の霊薬』といういかにもな名前を叫んでいた事。

 身体から溢れる、橙の燐光。


 ――ああ、成程。

 アイテムか。


 このトーナメントは、アイテムの使用を禁止していない。

 ポーションでもローションでも、使い放題だ。

 俺の対戦相手は皆、一撃で終わらせたから使う間が無かったんだろうけど。


 ……っと。ああいや、使い放題ではないな。

 今回所持できるアイテムは、投げナイフのような攻撃アイテム等は無制限。

 対して回復アイテムは、合計で五つまでとなっていたはずだ。


 だからローションは使い放題だが、ポーションには規制がかかっている。


 オルトスさんが使っているであろうアイテムに、制限にかかっているのかどうかはわからない。

 わからないがとりあえず……


 薬が切れるまで、戦い続ければいいわけだ。


「くっはは……成程、成程」


 高速で思考を走らせ、俺は一瞬瞑目する。

 くははっ。楽しいな、楽しいねぇ。


 オルトスさんの刃が俺を捉えるのが先か、俺がオルトスさんを追い詰めるのが先か。

 持久戦っぽいのは得意じゃないんだが、やってやろうじゃないか。


 オルトスさんがなにやらポーションを呼び出して、それを左手で砕いた。

 目に見える速度でHPが回復していくが……問題無い。


「『ブロークチャージ』ッ!」

「くっははははははっ!! 【バーストエッジ】!」


 そして俺と最強による、熾烈な戦いが再度幕を開けた。




 ―――




 開始からもう、どのくらいの時間が経過しただろう。

 一時間たったかもしれないし、まだほんの数分かもしれない。

 時間感覚も失われる程、俺とオルトスさんはしのぎを削り合っていた。


「はぁ、はぁ。さて、オルトスさん。とっくになんちゃらの霊薬も切れたみたいだし、ここらで潮時か?」

「はぁ、はぁ、っかはっ……。潮時、な……言わなくても分かるとは思うが……お前の、だぞ?」

「んなボロボロになっといてよく言うよ。

 ……そうだな。じゃあ俺は、次の一撃で最大威力の攻撃をしてやろう。終わらせる気でいくから、避けられるもんなら、避けてみやがれ」


 ちょっと余裕ぶってみるが、実際には俺もかなり辛い。

 被弾はしていないが、爆発の反動が洒落にならないのだ。

 本当に避けられたら、あるいはそのまま――


「はっ。俺は”最強”の盾だぞ? 確かに霊薬が切れてからは回避に重点を置いてはいるが……ここぞという時に逃げるような無様はせんよ。正々堂々、俺も最大攻撃でもって迎えてやろう」


「……そうか。じゃ、いくぞ? ”最強”さん……」

「ふんっ。……【護神障壁】【クローズドワールド】【ハイビルドアップ】『ガードライズ』『ビッグウォール』……さあこいよ! ”最凶”ッ……!」


 オルトスさんの身体から何やらオーラが立ち上り、立方体の青白い結界と、それを囲むように展開された大きな深緑色の球体に包まれる。

 ……うわー。自分だけ防御固めちゃって、酷いわー。

 てかその状態でも、攻撃できんのな。ずるいわー。


 ……まあ、全然構わないんだが。

 それを打ち破ってこそ、極振りの本懐というものだろう。


 さぁ。



「――【斬駆】」

「――【アースブレイカー】」


 大剣から伸びる、大地の亀裂。

 そしてそこから次々と噴き上がる、橙の衝撃波。


 それを纏めて薙ぎ払うように、六本・・に達した赤黒の斬撃が襲い――それを、すり抜けた。

 両者とも勢いを殺されないまま、標的を補足して……




 ――


 ――――


 ――――――パリィィン――――

















 ……。


 俺は今、地面に仰向けで寝転がっている。


 現実なら夕暮れ時だが、ここ『IWO』内では夜は遅くやって来る。

 よって只今の天気は、清々しいくらいの快晴だった。


 ふいに、全身が脱力する。あ、ちょっと動けない。

 自分の力で動いていないとはいえ、あんな乱暴な移動をして疲れないはずがないんだよな。

 ふぅ……


 首を傾け、実況席の方を見る。

 そこから聞こえる声。それは――――






『……』

『……』



『トーナメント本選決勝試合。それを制し、見事優勝の栄光を勝ち取ったのは……』






『「壊尽の魔王」――――クノさんですッ!!』



 ワァァァァァアアアアアアア!!!!


 ――――――――


 ――――――


 ――――


 ――



 そうして俺は、”最強”を、打ち破った。



 

『橙璧の霊薬』 

 Vit+400% 被ダメージ0.7倍 相手物理攻撃力-50%

クリスマスイベントでこれだけに狙いを絞って、『グロリアス』のメインパーティー総出でゲットしてきたアイテム。


オルトスさんのスキルは、防御を上げるものが豊富。スキル枠を二個ほど拡張している。

特に【クローズドワールド】は戦闘中一度しか使えないが、防御力超上昇に加えてダメージ軽減もついたスグレモノ。

また、パッシブスキルでも防御は上げている。


お昼頃にもう一話投稿予定。



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