第八十九話 トーナメント本選のお話 魔王vs最強①
俺がカリンとの戦いで最後に使用したスキル。
それはクリスマスイブのイベントの際、習得可能スキル一覧を見ていたら偶然見つけたものだった。
【バーストエッジ】AS
武器にエネルギーを纏い、爆発させる
エネルギーの最大値は自身のStrによって変動
効果時間:発動後2秒間
俺はあのイベントの後、こっそりとこんなスキルを覚えていた。
隠していたわけではないのだが、特にメンバーに披露する機会も無かったんだよな……
披露といえば、まだレイレイも見せてない気がするけど。
……まぁ、それはまた機会があればでいっか。
さて。
爆発ということは、本来はきっと攻撃に”破砕属性”を付加するスキルなんだろうな、これ。
ちなみに攻撃には他に”斬撃”や”貫通”などの属性があって、それに対する耐性もある。相手の斬撃耐性が高くて破砕耐性が低いときに便利なスキルだな。
あと、単純に威力の上昇も見込めるだろう。
しかし俺はこのスキルを見つけて、自身の弱点を一つ潰せるんじゃないか? と考えた。
――――そう、範囲魔法対策である。
具体的にどうしたかは、まあ御覧の通りといったところ。
要するに、”爆風を利用して移動”がしたかった訳だ。
そしてそれは見事、成功した。
いろいろ賭けだったのだが、思いきってみて良かった良かった。
トーナメントの前に、〝ベルセルク〟の移動力低下と合わせていろいろ検証をしてみて、わかったことが幾つか。
一つ目。
”爆発”を起こすエネルギーとやらは、俺の素敵Strのお陰で、俺自身を高速で移動させるのに十分な大きさを得ているということ。
この前提条件を満たしてなかったらと思うとひやひやしたが、大丈夫だった。
本当に良かったわぁ……
ちなみにその”エネルギー”は、一瞬赤黒い炎が剣身を這う、というエフェクトとして顕在していた。
厨二的演出と侮る事なかれ。実際に見てみるとかなり不自然かつ禍々しいから。
……どうやらこの色合いもやはり【惨劇の茜攻】のせいらしく、本来の色は一般的にイメージされる炎の色のようなオレンジだったが。
二つ目。
エネルギーの大きさ(=爆発の威力)は、意識すれば変えられるということ。
ちなみに一番最初、剣一本だけ物質化して何も考えずにぶっ放してみた時。
周囲には赤黒い炎の風が吹き荒れ…………多分俺は、音の壁を越えた。
流石にアレはきつかったなぁ。
移動中、周囲に衝撃波をまき散らしたりはしなかったし、身体も(想像を絶する衝撃が体中を駆け巡り、腕が無くなったかと錯覚したにも関わらず)無傷だったのだが、三半規管がしばらく使いものにならなくなった。
間近に雷を落とされたかのような轟音によって、耳もお陀物になったし。
……三半規管、これで鍛えられるだろうか?
音の方もバンバン使ってたら慣れたしな。
というか、
〝耳栓の加護〟
一定以上の音量を緩和する
という一見ふざけてるけどめちゃくちゃ有り難い称号まで獲得してしまったし。
短期間で称号が三つも……! やったね。
三つ目。
”爆発”は意識すれば、その”効果範囲”を操作できるということ。
このスキルの最大の特徴とも言えるんじゃないだろうか?
これをイメージするには、まず【バーストエッジ】が普通に爆発を起こすだけのスキルじゃなかったところから説明しなきゃなんだが……
要点だけまとめると、爆発は”透明な膜”に閉ざされた空間の中で起こっていたのだ。
だからその膜から少しでも外にいれば、微風すら感じない。この辺りはゲーム的というかなんというか……
そして膜は基本は真球だが、使い手によってその形状を変えられるという感じ。
まあ変えられるといっても残念ながら”楕円体”の範囲の中だけのようで、トゲトゲにしたり四角にしたりはどうやっても無理だった。
更には、この膜の大きさが小さい(膜内部の容積が小さい)ほど、爆発の威力も高まるらしい。
同じエネルギーの大きさで、膜を半径1mと2mの真球に設定してモンスターに攻撃した場合、1mでは殺しきれたが、2mではHPが残ってしまったのだ。
これが半径1mより小さい場合や、膜を限りなく線に近づけた場合の威力については、その内ボスで試してみるかな。
また、普通なら俺の剣が発生起点なんだから、そこを中心に膜が広がると思いきや、それも特に決まっていないようだ。
エネルギーは俺の剣からでているはずなのに、明らかに俺の前方5mほどに爆心がある、綺麗な球状の爆発が発生した時には流石に驚いたわ。
いろいろ試してわかったが、”膜”に俺の剣が含まれていれば、物理法則はガン無視するらしい。
そのくせ、剣から離れるに従ってダメージは減衰していくというのだから、何と言うべきか……
ちなみに最大範囲は、半径5mの真球。
何も考えずに最大威力でぶっ放しても、これ以上は広がらなかった。
この範囲の中で上手く形状変化させてね、ということだろう。
アイテムの物質化可能範囲や、『偽腕』の出現範囲も半径5mだが、このあたりはこの数字には何か特別な意味が……まぁ、ないか。一番使い勝手が良いとかそんな理由だろう。
四つ目。
”爆発”の起点にできるのは、”俺自身”が触れている剣のみだということ。
感覚はリンクしているものの、やはり別もの扱いなのだろう。『偽腕』の握った剣からは、残念ながら爆発は起きなかった。
しかし触れていればなんでもいいのか、剣を足で踏んだ状態では爆発は起きた。
そして、武器カテゴリではないからなのだろう。
投げナイフは触れていても、爆発の起点にはできなかった。
五つ目。
効果時間2秒と言うのは、爆発が物体に干渉できる時間であるということ。
どんなに爆発が大きかろうが、2秒経過すれば風も感じないただのエフェクトになるんだ。
これについては、制御が楽だから有り難いな、っと。
あまり長い時間炎の風に吹き荒れられても困るし、Vitの関係で、剣が吹っ飛ばされないように握っているのも難しくなってしまう。……多分、5秒だったらアウトだったな、うん。
とまあ、こんなもんだ。
意外に任意でなんとかできる部分が多いのは、もしかして他のスキルにも言えることなのだろうか?
といっても俺のスキルはほぼ強化系だから、気合いで上昇率が変わったりはしないだろうが。
……でも考えてみれば【ステップ】とかだって自分で速度と距離と方向を弄れるようだし、むしろ当たり前のことなんだろうな。
いまさらだが、このゲーム凄いわぁ……
懸念事項としては、これを使うと俺の生命線である『偽腕』が置き去りになる点と、止まるのに苦労する点だな。
剣二本を地面に深く刺しても、2mくらい引きずられたし。止まる時の反動も半端なかったな……内臓破裂したかと思ったわー、うん。
まさに緊急移動用、おいそれと使うことはできない。
……とかいいながら、カリンに突進かました俺だけどさ。
あそこは攻める場面であってた……よね? まあ勝てたからいいか。
そういえば、カリン。
思ってたよりも、強かったな。
中々に楽しめた。
オルトスさんと戦うまで【バーストエッジ】は隠しときたかったんだけど、結局使わざるを得なかったし。まあ、それは別にいいんだけど。
ちゃんと斬り合いもしたかったんだけど、俺への対処法が良く分かってるようで。
そういやミスターブルーも投擲メインだったしさ……オルトスさんに期待だな、うん。
ちなみに今は準決勝第二試合の最中。
あのキラキライケメン勇者、ミカエルとオルトスさんの試合だ。
俺は皆と観客席に居るが、他のメンバーは試合にかぶりつきで、展開に一喜一憂している。
オルトスさん人気あるなぁ。
試合が始まるまでは、笑っているような落ち込んでいるような不思議な表情をしていたカリンも、今ではすっかり元通りだ。
でもさっきの、涙目で胸をポカポカやってきたカリンもなかなかに嗜虐心をそそられて……って、俺は何を考えてるんだろうね。
メンタルが強いのか弱いのかよく分からんが、ちょっと責任を感じていただけに、オルトスさんホントGJ。
この試合、まあミカエルごときにオルトスさんが負けるはずもないし、
決勝は俺とオルトスさんの大激突ということになるだろうな。
あぁ、楽しみだ。
―――
『さあパトロアさん! それではいよいよ、PvPトーナメント本選、栄えある決勝戦を行いたいと思います!』
『そうですね。数々の猛者たちを打ちたおし、見事決勝戦に駒を進めたのは、この二人だぁあ!!』
『その圧倒的なプレイヤースキルと脅威の過剰火力で、立ちふさがるプレイヤーを文字通り薙ぎ倒してきた、全てを壊す漆黒の魔人! 大量の武器を駆使して相手を追い詰める最凶の王! その底はまだまだ窺い知れず! 「壊尽の魔王」クノォォォオ!!』
オオオォォォォオオオオ!!
『βテスト時から最強の名を冠する、キングオブガーディアン! その鉄壁を貫ける者は今まで居らず、ただただその大きく高い壁の前に崩れ落ちるのみ! 今回のトーナメントでも見事優勝を果たし、最強の名を守りきれるのか! 「堅牢不落」オォルトスゥゥゥウ!!』
ワァァアアアアアアアア!!
『観客からの声援も互格! 果たして両者がどんな勝負を見せてくれるのか、一時たりとも目が離せません!』
『では、両者ともに、用意はいいですか? ……では、カウントダウンを始めます!』
『カウントダウンスタート!』
俺とオルトスさんを隔てるように、薄い青のウインドウが出現し、カウントダウンを始める。
『10! 9! 8! 7!』
「オルトスさん……最初から本気で行くからな。頑張ってくれよ、堅牢不落」
「はは、当たり前だ。俺を誰だと思ってやがる。”最強”のオルトスだぜ? 人類代表として、負ける訳にはいかないんだよ」
「何さらっと俺を人類から外してるんだよ、おい」
「……え? クノ、お前……人類カテゴリに入ろうというのか?」
「入ろうも何も、最初からそこだ阿呆」
「冗談きついな、はは!」
「おい」
『6! 5! 4!』
「それよりクノ……お前こそ、あっさり死んでくれるなよ? 常にHP1とか、ホント正気の沙汰じゃねぇんだ。小石に躓いて死ぬとかなしだぜ?」
「それで死なないことは検証済みだよ。ちょっと痛かった」
「……お、おう、そうか……」
「じゃあそんな訳で、お互い正々堂々、真正面から潰し合おうじゃないか」
「物騒だな……と言いたいところだが、今の俺は凄まじく気分が良い。ああ、そうだな――潰し合おう」
『3! 2! 1!』
「……ふぅ」
「はぁああああ……」
『ゼロッ!! 試合、開始ですっ!!』