第十話 服と称号のお話
次の日の学校。昨日は割と遅くまで(トランプとかを)やってたから少し眠い。
「昨日は楽しかったです~。カリンさんのトランプ無双は異常でしたけど」
「そうだなー。戦闘関係以外でもどんだけ力いれてんだろな『IWO』」
ギルドにトランプやらチェスやら人生ゲームやらが備え付けってもう何ゲーだよ。ちなみにカリンが強かったのはトランプだけだった。チェスやったら凄い弱かったし。
「今日もインします?」
「ああ。なんだかんだ言ってかなりハマったしな」
家に帰っても家事以外するコトもないしなー。娯楽といったらどうせゲームしかない。エリザに頼んだ防具が出来上がってるかも確認しないとだし。
「今日は皆、狩りいくのか?そろそろ第一線攻略の人がボスを倒す頃じゃないかな。俺達もレベル上げしないとなー」
「昨日は結局フィールドでませんでしたからねぇ。あ、北の森のボスなら、昨日討伐されましたよ。第二の街の情報はまだ上がってないですが」
もうか?早いなー。やっぱβテスターの人達かな?オルトスさんとか・・・
「確かオルトスっていうプレイヤーのいるパーティーでした。知ってます?なんかβテスターの間で『IWO』最強とか言われてる人です」
やっぱりそうだったか!俺と別れて北の方に歩いていったから、俺を誘ったその足でボス攻略に行くつもりだったのかな。・・・レベル5にはボスはまだ早いわ。確か適正レベルが15ぐらいだっけか?
「知ってる・・・てか昨日ギルドに行く前に声かけられてさ、フレンドになった」
「ええぇ、マジですか!最強とフレンド・・・いいなぁ、九乃さん」
「玲花も一人で犬とか兎とかを絶滅させてみるか?声掛けてもらえるかもよ?」
「・・・流石にそんな非常識な事できないですよ」
「うん、だよなー」
俺もそこまではやってないし。
「まぁ、それはいいんですけど。じゃあ、インしたらギルドホームで」
「はいよ」
―――
「どうもー」
階段を降り、「花鳥風月」の一階へと降りる。昨日は二階の一室(部屋は8部屋あった。俺は階段から数えて6部屋目、エリザの隣の部屋だ)でログアウトしたため、ログインも部屋からだった。
「クノ。こんにちは」
中には、まだエリザしかいなかった。相変わらずカウンターの向こうに座って、何やらウインドウをみながら作業をしているようだった。
「何してるんだ?」
「貴方の防具の、最終チェックよ」
そういってウインドウを操作し、黒い布の塊をとりだす。
「はい、これ。一般的な「服」の防御力と同じくらいの数値だけど、Strがついてるわ。アクセサリはおまけよ」
早いな・・・見た所かなり手がかかってそうなのだが。そういや昨日も皆がログアウトする時にはカウンターの後ろの扉(多分工房かなんか)に消えていったし、かなり遅くまで作ってくれてたのか・・・?
「ありがとな、エリザ」
「え、ええ・・・どういたしまして」
万感の気持ちをこめてそういうと、少しだけ赤くなるエリザ。
こういう反応は可愛いんだけどなぁ。ノリがいまいちよくわからない人でもある。
昨日のテンションはすっかり鳴りをひそめていて、今は普通に外見通り、落ち着いたものだ。
そっそく渡された服を装備してみる
。一瞬体が光につつまれると、俺の格好は変化していた。・・・便利だな、着替え。
インナーは肌触りが良く、ワイシャツのような見た目。
トップスはフォーマルな感じのコート。留め金は留まっていない状態だ。
それらに合わせて、スラックスのようだが動きを阻害しないボトムス。
靴は見た目皮靴のようだが、しっかりとしていて歩きやすそうだ。
そして革?手袋。
アクセサリ(様々な効果が得られる装備。5個まで装備可能)としてポーラータイ。
全てが真っ黒で、要所要所に黒い刺繍やベルトがしてある。
・・・男の子の憧れ、執事服とかを連想させるなー。
黒以外の色が無いのは、エリザ本人が黒が好きなのと、昨日黒装束着てたからか。
エリザが着てるゴスロリドレスと合わせて見ると・・・なんだろう、並んで立つと俺がエリザの従者みたいになるな。まぁいいや、性能はっ、と
「黒百合・壱式」(inner~others)合計Str+55
「黒百合・付」(アクセサリ) Str上昇+10%
充分すぎるだろ。おそらくかなり良い素材を使って作られたのだと思うが、俺には残念ながらよくわからない。
名前が「黒蓮・壱式」と似てるのは、そういうシリーズってことなのだろうか。花の名前縛りか。刺繍の模様と長剣の装飾も同じような意匠だし、統一感があるのはいいことだな。
「どうだ?似合ってるか?」
「私が作ったのよ。似合って無いわけがないわよ」
自信満々そうに言い切るエリザ。そりゃそうか。
「おおクノ君。それが昨日話し合ってた服かい。なかなか似合ってるね」
部屋の隅の階段から、カリンが降りてくる。
「おーカリン。だろ?エリザはホント凄いよな」
「まぁ、うちの専属職人だからね。武器に防具にアクセサリ。装備品ならなんでもござれなのさ」
確か武器、防具、アクセサリを作るスキルは、それぞれ分かれていたな。『IWO』は武器スキル以外はレベル制ではない(上位変化はある)ため、こういった生産系のスキルは本人のプレイヤースキルが重要になってくる。エリザのプレイヤースキルは、もはや疑うべくもないな。
「こんにちは」
「どもー!」
「どもです~」
お。ノエルとリッカ、少し遅れてフレイも登場。これで全員そろった訳か。
「ん。じゃあそろそろ俺はいくわ」
「そう、かい。ちなみにやっぱりパーティーを組む気は、」
「悪いけど、ないな」
「う~。ですかぁ。クノさんは今日はどこにいくんですか?」
そうだな・・・スキル原石を使ったら良い感じのスキルが追加されてたから、早くボスを倒してスキル原石を手に入れたいんだけどなぁ・・・その前にまず、
「レベル上げしに東に行ってみるわ。東もさくさく行けるようだったら北かな」
流石にいまだレベル5のままじゃな。せめて10は越してからボスに挑まないと・・・
「ですか~。では、いってらっしゃいです」
フレイが笑顔で手を振ってくる・・・なんか怪しいな。
「フレイ。もしかして後から同じ場所についてくるつもりか?」
「ぎくっ」
「・・・手だしはするなよ?」
一応忠告はしておく。他のプレイヤーとエンカウントしているモンスターに、そのプレイヤーが救援要請をしてない状態で一定以上ダメージを与えると、ペナルティが発生してしまうのだ。
ちなみにあくまでダメージを与えた場合なので、辻ヒールとかはオッケー。
「わかってますよぅ」
「ならいいんだが。じゃあカリン、フレイを頼む」
「ああ、任せてくれ。面倒はきちんとみよう」
「なんか私が手のかかる子みたいになってますっ?」
「泣きだしたら適当におやつでもくれてやってくれ」
「ああ、わかったよ」
「ホント、フレイったらどうしようもない子ね」
「無視して続けようとしないでくださいっ。ホントに泣きますよ!?」
とりあえずカリンもエリザもノリは良かった。俺はフレイを弄り上機嫌で「花鳥風月」を出た。
―――
東の草原に行く途中、やけにこっちを見られる。昨日と服装は変わっているが、俺の装備がかなり立派なものだからだろう。まぁ普通なら、三日目で到達できる服装じゃないからな。ホント、エリザには感謝感謝だ。
「あの~」
ふと声をかけられて、昨日は大柄なおっさんだったからな。今日は可愛い子がいいなぁ。なんて馬鹿な事を考えながら、振り向く。するとそこには、背の低い、愛くるしさ満点の童顔の少年と、その他3人が立っていた。
「すいません、良かったら、一緒にパーティーとか組んでもらえないですかっ?」
デジャビュ・・・しかし少年には悪いが、考えるまでもなくもう答えは決まっているのだよ。
「無理。それじゃ」
「・・・え」
即答し、まさか速攻で断られるとは思っていなかっただろう少年を置いて、また絡まれないよう、さっさと歩きだす。フレイすら断ったんだ。見ず知らずの人となんか組めるかいな。
「うわぁあっさり・・・」「世のショタコンを敵に回したな・・・」「お前もいってこいよ・・・」「無理だろ・・・」「お前こそ・・・」
東門はすでにはっきりと見えている。さて、それじゃあ楽しい楽しいレベル上げタイムだ。
―――
東の草原。
このフィールドに出てくるモンスターは、ロゥドッグを大きくした感じの、レイドッグ。四足歩行の毛玉みたいな見た目の、ボールビット。そしてその亜種と思わしき、黒い毛玉のデボールビットだ。
適正レベルがたしか9~12あたりだったかな?確実に言えるのは、一撃もらっただけでHPは吹っ飛ぶということだな。まぁでも―――
「当たらなければどうということは無い」
ちょっとかっこつけて、呟いてみる。まぁ別によけてるわけじゃないんだけど。
やってることはただひたすら向かってくるモンスターを弾き飛ばすだけっていうね。
長剣の耐久値は【長剣強化】(最初に取得したスキル。耐久値の減少1/2と、意外と優秀)「黒蓮・壱式」の性能によって、かなり減少が緩やかになった。
「っとぉ。『サークルスラッシュ』」
こちらに目標を定めたボールビットが三体、回転しながら飛んでくる。
それを【長剣】レベル5で覚えたアーツ『サークルスラッシュ』で撃退。このアーツは、単純に一回転するだけのアーツだが、自分の周囲をきれいに薙ぎ払えるので、なかなか便利だ。
「んー。作業だなー」
【捨て身】も併用することによって、東のモンスターでもほぼ一撃で狩ることができる。黒毛玉、デボールビットは防御が高いのか、若干HPが残るけど。
『ポーン』
お、レベル上がった。ステータスポイントは悩む必要がないので、その場ですぐに割り振り。これで4度目のレベルアップだ。
「まぁ、この調子で上げれる所まで上げちゃいますかね」
ザシュッ!ドッ!
最初の方はちらほらといたプレイヤーも、今は見えない。なんでだろ?
時刻はまだ18:40。・・・晩飯はなんか適当につくって、とりあえず20時まで狩りを続行することにしよう。
―――
19:35分。
しばらく狩りを続けていると、『ポーン』という電子音。レベルが上がったかとメニューを開くとそこには、
称号〝非情の断頭者〟を習得しました
とあった。〝非情の断頭者〟?なんか凄そうなんがきたな、おい。
ちなみに今のレベルは11。デボールビットも一撃で倒せるようになったが、所詮はまだまだ初心者のレベルだ。
効果は、
相手HPが50%以上の場合、与ダメージ1.5倍
というものだった。・・・え?なにこれ、チート?という具合の効果だな・・・序盤で貰える称号じゃないだろ。
称号は、ゲーム内で一定の行動をすることによって取得できるものだ。スキルと違って、条件を満たせば自動で手に入る。
だが、この条件というのがなかなか曲者で、どんな行動をすればどんな称号が手に入るのか、ということが明確に解るものは少ない。せいぜい、武器スキルのレベルアップによって貰える称号(俺の場合、【長剣】レベル5なので〝見習い長剣使い〟)ぐらいだ。
βテストでは、称号の取得条件も検証されたようだが、解明されたのはほんの僅かのようだ。
俺の場合、この〝非情の断頭者〟の取得条件として当てはまりそうなのは・・・高Str、長剣、モンスターを一撃で倒す、とか、その辺かな?
・・・まぁ、もう貰ったんだから気にしなくてもいっか。必要になれば他のプレイヤーさん達が検証してくれるだろ。
ということで称号〝非情の断頭者〟を得た俺は、そこから破竹の勢いでモンスターを殲滅・・・するわけでもなかった。だってそれがなくても東のモンスターは一撃だもん。
攻撃力ばかり強化されるのは、俺のプレイスタイルとしては喜ぶべきことなんだがなー。なんだかなー。
レベルも11になったし、明日は北のフィールドに行くかな。適正レベルまでレベルをあげて、早くボスに挑みたいな。
と決意して俺は、インベントリから「帰巣符」というアイテムを取り出す。東の草原に来る途中、少年に声をかけられる前に、NPCショップで購入したものだ。
効果は、ギルドホームに転送されるというものだ。
ちなみに似たようなアイテムで、「帰還符」(最後に立ち寄った街に転移)や「転移符」(いったことのある街に転移)というものがある。
「使用、っと」
「帰巣符」をもってそう念じると、俺の体は光に包まれ、一瞬目の前が真っ白になる。そして次の瞬間には、「花鳥風月」の前に立っていた。
扉を開けて中に入ると、フレイ達はいないようだったので、俺は《Guilg》のギルドチャット蘭を呼び出し、
クノ:先に落ちます
と書き込んだ。すると
カリン:私たちはもう少し狩りを続けるよ。じゃあまた。
リッカ:じゃあね~
ノエル:お疲れ様でした
フレイ:おつかれ様ですー
エリザ:また明日
すぐに書き込みがされる。
クノ:ではー
俺は二階の自室に戻り、ログアウトをした。
非情の断頭者
取得条件:
①切断系の武器スキルを所持
②Str値がそれ以外の全ステータス合計より高い
③適正レベル以上のモンスターを、100回一撃で倒す
②と③が厳しめの条件のため、効果も高いものとなっている。(普通は適正レベルを一撃なんて無理)