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八 崩壊の始まり

閲覧注意

 部屋の中には3つの死体があった。秀一はそれが誰であったのか分かっていた。

 琴葉の両親と琴葉自身だ。両親の死体はシンプルな首にある刃物傷のみ。部屋の隅に寄せ、寝かせてあった。

 しかし琴葉は違った。壁を背もたれにして座らされていた。しかしそれはただ倒れることができなかったのだ。まず両手の平に何本もの五寸釘が打ち付けられておりそれが壁に固定する役割を果たしていた。

 右脚は有り得ない方向に曲がっており赤黒く染まっていた。もう片方は太ももから切り落とされておりすぐ近くに落ちている。

 腹も裂かれ、その中の内蔵もすぐ下に溢れており、心臓にもさながら吸血鬼への止めとばかりに古びた木の杭が突き立てられていた。

 そしてその最期の表情は絶望と苦しみが滲んでおり、右目から流れた赤い血が悲しみを表す涙のようであった。

 琴葉は普通生きていれば確実に合うことのない責め苦に合い殺された。

 秀一は美奈がこの地獄を作ったことを確信していた。この場の状況。10年前の光景。その2つを知っているからこその確信。

 秀一は呆然としながらもやるべき事は理解し、ケータイでしかるべき所に電話をした。


――――


 『少しいいですか?』

 琴葉は自宅前で1人の長い黒髪の少女、美奈に声をかけられた。

 その手には容姿に合わぬ大きなバッグを持っていた。

 『あなたは……!さっきの!』

 『ふふふ。ねぇちょっと聞きたいことがあるんだけど良いかな?』

 『私は……話すことなんて』

 『それじゃぁ入りますね~』

 美奈は琴葉の答えなどまるで聞いてなく勝手に話を進めていった。

 『えっ! ちょっと!』

 琴葉はそのまま美奈の後に続いた。

 美奈のまるで小学生のような立ち居振舞いは、琴葉にはとても異様なものに見えた。美奈は好き勝手に家の中を歩き回り居間にあるソファーに腰をおろした。美奈はテーブルの反対のソファーに目配せし琴葉に座るよう促し、琴葉はそれにしぶしぶ従った。

 『あなたはいったい何なの?』

 最初に口を開いたのは琴葉だ。

 『ん~私はミナ。シュウちゃんのお嫁さん』

 『は?』

 突然の宣言に琴葉はすっとんきょうな声をあげた。

 『それじゃああなたは何者?』

 美奈は首をかしげながら聞いてくる。

 『……! 私は彼女です。秀一さんと付き合ってます!』

 強く言い切り美奈を睨んだ。

 『ふ~ん。いいよ私が近くに居なかったのも悪かったから特別に許してあげる』

 美奈の言うことが相変わらず理解できずにいた。

 『何言ってるの! それにお嫁さんって……』

 『も~! 何でわかんないの?ミナのシュウちゃんを盗ろうとしたのは特別に許してあげるって言ってるの!』

 美奈は琴葉の言葉に少し苛立っていた。

 『ミナはずっと前に約束したんだから』

 『ずっと前って何時よ?』

 『ん? 幼稚園の頃だよ?』

 この答えに琴葉は声を大にした。

 『10年も前じゃない! そんな約束絶対に覚えてない! あなた頭おかしいんじゃないの!』

 琴葉の大声にもいっさい怯まず美奈は怒りを滲ませ言葉を紡ぐ。

 『そんなことない。シュウちゃんは約束を破らないしとっても優しいんだから』

 雰囲気が変わったことに琴葉は怯む。

 『シュウちゃんは優しいからお前みたいな悪魔にも騙されちゃうし苦しめられちゃうんだ』

 美奈はバッグの中に手を入れる。

 『シュウちゃんを苦しめる奴、連れてっちゃう奴を許すなんて間違いだったんだ』

 美奈は掴んだものを取り出す。

 『もういいぜんぶたたきつぶす。ころしてやる』

 美奈の手には武骨で、恐ろしげに鈍く輝く鉈が握られていた 。琴葉は突然の事で理解できなかった。

 『え……何そ!!!!』

 突然の衝撃に琴葉は言葉が詰まる。

 『おまえみたいなあくまはくるしめてころしてやる』

 それは鉈が降り下ろされた衝撃。その刃は琴葉の右目ごと顔を切り裂いた。

 『ッッ!!キャァァァァァァァァァァァァァ!!!!』

 衝撃の後に襲ってきた確かな痛みに琴葉は悲鳴をあげ、右目を押さえてうずくまった。

 『うぁ……い……たい』

 切り裂かれていない反対の目からは涙をながし声を震わせ、弱々しく呟く。

 『いゃ……助けて……』

 『ふふふ。くるしめてやるから』

 美奈は嫌な笑顔に顔を歪ませた。

次話も危ないです

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