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七 再現

 秀一はノロノロとした足取りでいつもより時間をかけて家路につく。家についたが美奈はまだ帰っていなかった。

 美奈がすでに帰っていると覚悟をしていた秀一は肩透かしをくらい仕方なくそのまま美奈を待つことにした。

 5時、夕日も沈みかけ外は大分暗くなったが美奈はまだ帰ってこない。

 6時、日は完全に落ち真っ暗になっているが美奈はまだ帰ってこない。

 7時、時計の針の音が耳につくが帰ってこない。

 8時、美奈が帰らないことに秀一は不安になり、ふと美奈の事を考え出した。


――――


 ミナは10年前と変わらずに接していた。しかし僕は10年で色々な変化があった。ミナはそれを知らず信じられなかったのだろう。つまりミナは10年間ずっと僕のことを想っていてくれたのだろうか?

 ミナといて悪い気分はない。むしろ10年前に失った心地よさが帰ってきたように感じる。

 ミナのことは嫌いじゃない。むしろ好きなんだ。しかし今はもう付き合っている人がいる。ミナにちゃんと伝えないといけない。

 ミナは今どこかで一人で泣いているのかもしれない。そばにいてあげないと。せめてミナにも大切な人ができるまで。


――――


 秀一がそう考え終えると美奈を探すための準備を始める。やったことは入れ違い防止の書き置き。

 『ミナへ、帰ったら×××-××××-××××に電話をして待っていろ。12時までには戻る』

 書き置きを残し秀一は美奈を探しに出る。あてはなくたださまよい歩くだけではあったが秀一は必死であった。

 「ミナ……どこへ行ったんだ」

 誰に聞かせる物でもない言葉は何の反応もなく消えていく。

 秀一のあてのない捜索は完全に無意味に終わった。書き置きに残した時間が迫ったため秀一は一応家に帰ったがそこにはやはり誰もいなかった。秀一は再び探しに出る気にはならなかった。イスに座りただじっと待っていた秀一は強烈な睡魔に襲われその場に眠りについた。


 『痛い! 痛い! もう嫌! 何でこんなことするの……オカシイよ……誰か……た……すけ…………て……しゅ……う……』


 秀一は夢を見た。それは大切な人を失う夢。それは何かの選択の結果である。秀一の手から摺り落ちてしまった誰か。その顔は誰かは分からない。

 秀一は目を覚ました。無理な体勢で寝たためかダルそうに体を伸ばす。家の中には人の気配は1人しか無い。秀一は美奈が帰ってこなかったことを理解した。

 その後も秀一は何もせず、美奈の帰りを待ち続けた。食事も摂らずただ待ち続ける。

 ふと気づくと秀一は自分のケータイが鳴っていた。その相手は戌崎海と表示されていた。

 「オィ秀一! どうしたんや無断欠席なんて。やっぱ昨日のことが原因か?」

 電話口の相手は一気にまくし立ててきた。

 「荻野の説明っつうか言い訳に失敗したんやろ? だからって落ち込んで引きこもんなよ!」

 「いや、違うよ」

 秀一は即座に反論した。

 「違うって何や? 秀一が荻野追いかけて言い訳失敗! そして2人仲良く引きこもりやろ?」

 秀一は海の想像力を甘く見ていたがなかなかなものだと思い直す。しかししっくりこない単語をオウム返しに聞き直す。

 「2人仲良く?」

 「せや。荻野も昨日早退してから今日は来てないんや。つぅか言い訳してないんかい!」

 海は電話口からツッコミを入れる。

 「……昨日は色々ありすぎて……」

 「そんなことが理由になるか! すぐに連絡とって詫び入れんかい!」

 海はいつもの軽いノリを微塵も感じさせずに言い切った。

 「まったく、とりあえずすぐに話をつけとけ。ええかこればかりは命令や。ハッキリした答え聞かせるんが誠意や。まぁ結果は楽しみにしてるわ。そんじゃグッドラック」

 一気に言いたいことを一方的に言い切り、電話は切られた。秀一は文句は浮かばず逆に感謝していた。

 秀一は美奈のことばかり考えていて琴葉の事はまるで考えていなかった。海のおかげで冷静になった秀一は、琴葉に話をするためケータイに掛けた。

 「出ないか」

 むしろ着信拒否されてないだけましと考えた。

 「よし。善は急げだ」

 秀一は直ぐに準備をして琴葉の自宅に向かった。準備も美奈への書き置きを残しただけ。

 琴葉の自宅まで歩いて30分。その間、琴葉への説明を秀一は考える。

 それは基本美奈の事の説明であった。結論は「美奈との事を嘘を交えずに全て話す」であった。

 秀一と美奈は切っても切り離せない関係である。ならば隠さず全て話した方がいいと考えたのだ。

 話した後の事はその場て考えようと秀一は結論を後回しにし琴葉の自宅に着くことを優先する。

 家を出てから30分、秀一は琴葉の自宅前までやって来た。

 秀一は覚悟を決め、インターホンを鳴らし反応を待った。

 1分。反応はない。再び鳴らす。やはり反応はない。連続て鳴らす。やはり反応はない。

 仕方なく扉を叩く。やはり反応はない。何となく扉を開けようとしたときあっけなく開いた。

 その時、秀一の頭の中にある光景が浮かんだ。

 それは悪魔の召還。それは地獄の噴出。それは過去の再現。それは絶望の始まり。

 あかいあかい液体の臭いがした。

 「なんで……」

 秀一は地獄を進む。

 「どうして……」

 秀一はあかい水溜まりを見る。

 「何で……」

 あかに沈む何かがある。

 「ミナ……嘘だろ……」

 あかに沈むのは1つの少女だったもの。

 「ミナ…………どうして」

 いつの間にか秀一の目から涙が流れていた。秀一は既に全てを理解している。

 「嘘だと……言ってくれ」

 汚れることを厭わず、あかに沈むものを優しく抱き上げ優しく抱きしめ、

 「ミナーーーーーーー!!!!」

 叫んだ。

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