四 不穏な空気
秀一は朝にあった己のミスにため息をついていた。2日続けて弁当を作り忘れたのがその理由である。美奈の事に気をとられ過ぎたのが原因だ。仕方なく秀一は昨日と同じ昼食にしようと決めた。
昼休みになり秀一は昨日と同じように購買に向かって歩いているとこの高校のものとは違う制服を着た少女が歩いていた。周りにいる人の視線を浴びながら美奈が歩いていたのだ。
「あー! シュウちゃん見っけ!」
そう言うと小走りで秀一のもとへ向かって行った。
「はいお弁当。今朝持っていかなかったでしょ」
その瞬間回りのざわつきが大きくなり、それに気づいてからの秀一の動きは速かった。美奈の手を引き校舎の外の人気の少ないところまで全力で走っていった。
「こんなところで何してるんだ!」
秀一は美奈にまくし立てるように問いかける。
「え? シュウちゃんのお弁当を……」
「それを聞いてるんじゃない!」
秀一は変な噂を立てられたくなかった。そのためにも早くこの問題を終わらそうと必死になっていた。
「分かった。分かったからその弁当を……」
弁当を受け取ったとき秀一は視界の端に一人の少女がいることに気がついた。何かを察した少女は逃げ出し秀一はそれを追いかけた。
その少女にはすぐに追いつくことができた。その少女は秀一が考えていたとおり荻野琴葉に間違いはなかった。
琴葉はその目に涙を湛え秀一を見据えていた。
「琴葉……」
秀一はただ小さい声で名前を呼ぶしかできなかった。それを聞いた琴葉は俯きながら首を振り消え入りそうな声で答えた。
「……何も言わないでください……ごめんなさい……でも何も聞きたくないんです」
何度もつまらせ涙をこぼしながらの答えに秀一は構わず話すことを選ぶ。
「あいつは、ミナはただの昔からの知り合いだ」
「……分かりました」
そのまま背を向け琴葉は教室の方へ戻っていった。 全く納得していないのは秀一は理解していたが、そのまま引き留めることはしなかった。
ふぅとため息をついて秀一は心の中で美奈の悪態をついていた。その時どこかから視線を感じたがすぐに消えたためそれが何なのか確かめることはできなかった。
一人残された秀一は美奈を残した場所に戻ったが、そこには美奈は残っておらず本当に一人だけになってしまった。
しかたなしに教室にもどった秀一だが戻るやいなや海がまるで面白いおもちゃを見つけたかのようにニヤニヤと笑みを浮かべ摺り寄りながら教室の隅につれていく。
「なっかなかやるやん社長さ~ん。かわいい娘が取り合うなんて男の夢やん♪」
その言葉に動きを止めて聞き始める。
「しっかし彼女おんのに他校の娘に手ぇ出すなんておまえらしくないねぇ? 何があったん?」
それは軽い尋問のように秀一は感じ、誤魔化すことなく話し出す。
「あいつは……ミナは昔友達だっただけで昨日突然家出してきたんだ。変なことは何もない」
「へぇ~昨日家出してきたんだ~」
それは秀一にとって誤解しか生まない完全なミスによるいらない情報だった。海による余計な追求が始まる格好な餌だと秀一は心の中で身構えたが、
「ならええわ、でも帰るまでは余計なことすなよ。周りを巻き込みかねんからな」
「……は?」
予想外の反応に秀一は間抜けな返事しか出来なかった。