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ニ 戯れの少女

 しかし何か違和感のようなものを感じた気がした。しかしそのことは深く考えずにいま目の前で起きてることに注意して忘れるようにした。

 「それより突然どうして……? 」

 疑問を口にした秀一の言葉に美奈は何を言っているのか理解できておらず、ただただ首をかしげているだけであった。

 「変なのそんなこと言うなんて」

 そういうと美奈は秀一の後ろに回り込み背中を押していた。

 「それよりもうご飯出来てるよ。私が作ったんだよ」

 そう言ってさぁさぁと秀一を家の中に押し込んでいくと家の中にはだれもいなかった。

 「あれ? 母さんは?」

 いつもならそこには母親が帰りを待っているはずだった。しかしその日は美奈が突然訪れたのにもかかわらずいないことに秀一は少し不思議に思った。

 「もういないよ。私たちだけだって」

 笑顔のままそうした答えが返ってきた。

 また母さんは黙ってどっかに行ったのか。父さんがいなくなってから母さんの放浪癖がひどくなったと思っていたがこんなタイミングでいなくなるな、と秀一はこの場にいない母親に対して一気に文句を心の中で言った。

 「そうか……」

 秀一は突然の美奈の来訪にうまく頭の中を整理できていなかった。本当に久しぶりであったため、どんな話をすればいいのか秀一はわからなかった。

 「そういえばミナはいつまでいられるんだ?」

 緊張しているのか変なことを聞いていた。

 「え? 私はずっといっしょだよ。シュウちゃんと約束したでしょ?」

 秀一には一瞬何を言ってるのかよく分からなかったが

 「家で何かあったのか?」

 秀一には美奈が親とけんかして家出してきたのだろうとあたりを付けていた。それが当たっていたようでその一言で笑顔を崩さなかった美奈の表情が一瞬暗くなったが、すぐに笑顔にもどしていた。

 「それよりもご飯食べよ。上手にできたんだよ」

 美奈はそう言って食事の準備をしていった。秀一はその姿を見て何も言う事が出来なくなりなされるがまま流されていった。その食事はどれもが秀一が子供のころ美奈に話した自分の好きなものばっかりで構成されていた。

 子供のころなら確かに秀一にとって好物ばかりだったが成長した今になってはいくつかは少し遠慮したいものだったが、美奈の笑顔を見ていると断る気にはどうしてもなれなかった。秀一は美味しかったと美奈に素直な感想を述べると美奈はいっそう嬉しそうな笑顔になった。


 「いやダメだから! それだけは絶対にダメだって!」

 食事の後にあったことは秀一が半ば予想していたことでありそれだけは絶対にダメだと心に決めていたことであった。

 「でも昔は一緒に入ってたのに……」

 「そんな顔してもダメだ!」

 秀一は美奈がお風呂に一緒に入りたいという願を必死に断っていた。昔は二人は家が近所であったため、たまにはそういったこともあたが今更この年で一緒に入るのは絶対に無理だと秀一は頑なに拒否していた。

 「……わかった」

 ようやく美奈が折れることになった。秀一の顔には安堵の表情が浮かんでいた。

 しかしそれでも秀一には琴葉に対する申し訳のない思いがかなり残ったままであったが。

 「でも寝るときは絶対に一緒の部屋だからね!」

 その後も先ほどと同じようなやり取りがあり今度は美奈のほうに軍配が上がった。

 どうしたものかと秀一は部屋で待つことになり、とりあえず諦めてよそから持ってきた布団を敷いておいた。

 「……ごめん琴葉」

 天井を見上げて呟いた。これは裏切りだと秀一は考えていた。ここまで美奈が強引だとは想定外であった。言い訳なんてできない。許されるとも考えていない。

 「はぁぁぁぁ……」

 深く秀一はため息をついた。一緒の部屋で寝るだけなんて言い訳は使いたくはないけど真実だしなぁ、などと考えていると扉を開けて美奈が入ってきた。

 「ごめんシュウちゃん。おまたせ」

 そこには秋にしては薄着な寝巻に着替えた美奈が立っていた。

 「おいその恰好はなんだミナ」

 「へへへぇシュウちゃんが喜ぶと思って……」

 秀一はこれ以上何か言う事をあきらめた。

 「もういいからとりあえずミナはそこのベッドで寝ろ。俺はその隣の布団で寝るから」 

 そのときミナは驚いたような表情をしたがすぐに元の表情に戻っていた。

 「うんわかった」

 すぐにうなずきベッドの中に美奈は潜り込み秀一は電気を消して布団の中に入った。 

 「……久しぶりだねシュウちゃん」

 その後あまり時間の立たないうちに美奈は秀一に話しかけてきた。

 「シュウちゃんは友達が何人もいたけど、ミナには全然いなくて……シュウちゃんだけがミナに話しかけてくれたんだよ」

 それは10年以上前の話であった。

 「特にミナが泣いてるときはすぐに来てくれて、そばにいてくれてすごく嬉しかったんだよ」

 秀一は美奈の言葉を聞きその時のことに思いをはせる。

 「慰めてくれたり、笑わせてくれたりして……」

 (そういえばあのころはミナが悲しそうな表情が嫌だったんだよな。できるだけそばにいて楽しませようといてたんだよな。……でもどうしてそう思ったんだっけ?)

 秀一は声に出さず昔のことを思い出していた。

 「そういえばあったなぁ」

 「ねぇ覚えてる? あの言葉。ミナすっごく嬉しかったんだよ」

 秀一には思い当たることはなかったがそう言って変な空気にしたくなかったのか、

 「そういえばあったな。ミナはちゃんと言える?」

 そんなことを言ってごまかしていた。それを聞いて美奈はフフッと小さく笑い「もちろん言えるよ」と答えたが、秀一の記憶はそこまでで途切れ夢の中に落ちて行っていた。

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