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十四 4.それは贖罪かそれとも……

4.泥にまみれ守ると決めた

 「ミナは裁かれる必要はない」

 美奈に罪はない。だからこそ裁きを受けることになるのはおかしい。ならば絶対に助けないといけない。秀一はその結論にいたり自分のやれることを考えだした。

 「……ミナを守る。誰を敵にまわしても」 秀一はあるものを使う覚悟をした。

 秀一は自分の行いを、望みを考えた。何でそばにいたかったのか。何で笑顔でいるのを望んだのか。何で逃げてしまったのか。何で今も思いが消えないのか。

 まだ子供だったのに初めてミナを見たときに一目惚れしたんだ。その思いが消えること無くそのまま残っていたのだ。

 美奈を守りたい。しかしあの日、その思いを果たさなかった。今その思いを果たすときがやって来た。

 秀一は美奈を守るために動く。そのためにも美奈を探しに行く。

 どういうわけか美奈のいる場所が何となくわかっていた。ただの勘のようなものだが秀一は確信を持って動く。やがてある公園にたどり着いた。

 人通りの僅かな道をあえて外れ、道の無い林の中を進む。もちろん人気は全く無い。

 道が見えなくなるくらい進んだところで、

 「ミナ……」

 小さく呟くと、

 「シュウちゃん……」

 おずおずと美奈が木の影から出てきた。その手には鉈が握られている。

 「……どうしてここに?」

 「ミナを守るためだ」

 美奈の質問に秀一は淀み無く答えた。

 「え?」

 美奈は疑問の声をあげた。

 「ミナをこれからずっと守る。今までミナは十分に守ってくれた。次はこっちの番だ。だからミナはこんな物騒な物は持たなくて良いんだ」

 秀一は美奈の持つ鉈を優しく受け取り、空いてる手で軽く頭を撫でた。

 「え? シュウちゃん……でも……ミナは……守らないと……」

 「だからもうそんなことは良い! ミナが望んだら何でも叶える! その上でミナも守る。男らしくな」

 秀一は力強く言い切った。ミナはしばし呆然としたがやがてポロポロと涙を流し、秀一に抱きついた。

 「ひぐっ……ほんとは……怖かったの……で、でもシュウちゃんと……離れたく……な、なかったから。こわ……くて、つ、辛くて、でも、シュウちゃん、ほんとに……そばにいて、くれる?」

 泣きながらで途切れ途切れだが秀一はしっかり理解した。

 「当たり前だろ。むしろミナに辛いことをさせたんだ。こっちこそそばにいて良いのか?」

 その問いにミナは黙って頷き、互いに強く抱き締めあった。

 「ミナ……」

 美奈は名前を呼ばれ静かに顔を向けた。

 「病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで愛することを誓いますか?」

 それは今時あまり使われない結婚式での誓いの言葉。美奈の答えはもちろん決まっていた。

 「誓います」

 そのわかりきっていた言葉に秀一は喜びの表情になる。

 「それじゃあ行こっか」

 美奈の手を引き場所を変えようとしたとき、

 「動くな! 武器を捨てろ!」

 秀一が歩いてきた方向から息を荒げた4人の警官がやって来ていた。

 「殺人、犯人隠匿の容疑で君たちを逮捕する」

 その宣言を聞き、秀一は美奈の手を引き駆け出した。警官の手から逃れるために。

 林の中を駆け抜けていくと前から2人の警官がやって来た。2人は秀一と美奈をそれぞれが捕まえようと動いたが秀一は素早く手に持つ鉈を振り回し牽制する。

 しかし何度も振りながら走っていたとき一瞬、鉈に重みを感じた。

 「うわぁ!」

 腕を押さえて警官の1人がその場に倒れる。その瞬間空気は変わった。

 「動くなぁ! 武器を捨て手を上げろ!」 銃口が秀一に向けられる。だが秀一は止まらなかった。美奈の手を引きすぐに駆け出した。鉈を捨てポケットにしまってあるものを確かめつつ走り続けるが、1発の銃声が響き渡り美奈がその場に転んだ。

 「つっ! シュウちゃん!」

 美奈は足から血を流しおろおろとしていた。

 「確保しろ!」

 銃口を向けながら警官はゆっくりと近づき徐々に追い詰めていく。

 秀一は美奈の傷を見て、すぐに抱き上げ逃げ出したが1人の警官に簡単に追い付かれた。

 その警官が肩に掴みかかったとき秀一は素早く、躊躇無く取り出した凶器を警官に向け、

パン

発砲した。

 「隠れろ!」

 掴みかかっていた警官の頭がはぜ、その場に倒れた。

 秀一は目の前に倒れた警官から拳銃を奪いつつ牽制の銃弾を放った。

 「ミナ! がんばって逃げてくれ!」

 銃弾をさらに2発放ちながら叫ぶ。

 「う……うぐ……」

 美奈は痛みに唸りながら何とか立ち上がった。秀一はさらに1発放ち、空になった銃を投げ捨てた。

 「逃げるぞ!」

 美奈の肩を担ぎ、二人は逃げ出す。

 「くっ! 『容疑者2名は公園東側に逃走。なお1名は拳銃を所持し発砲を繰り返している。射殺も視野に入れて行動せよ』」

 無線で公園周りにいる警官全てに注意を促す。すでに1人の犠牲が出ているが、これ以上の被害は出すつもりはないようだ。

 秀一は公園の外に向かって急いでいた。美奈をこの場から逃がすために行き当たりばったりの行動を繰り返していた。

 「シュウちゃん……」

 美奈は何度目かになる不安な声をあげるが、

 「大丈夫だミナ。絶対に守るから」

何度目かになる同じ笑顔で答えた。

 そんな他愛のないやり取りをしながら公園の出口が目に入った。

 「ミナもうすぐだ。安心しろ」

 「うんわかった」

 二人は笑顔で言葉を交わし周りに人が居ないと見ると出口に向かって駆けていった。

 あと少しで逃げられると考えたとき、

 「ただちに武器を捨て両手を上げろぉぉ! これは最終警告だ!!」

 一瞬で周りを10人のもの警官に囲まれた。 秀一は焦り周りを見るが逃げ場はなくどうしようもない。秀一は天を仰ぎ今後の事を予想した。美奈はどうなるのか。自分はどうなるのか。それらを考えた結果、秀一は美奈を逃がすために賭けに出ることにした。

 「速やかに銃を捨て両手を上げろ! これ以上抵抗をするなら発砲も辞さない!」

 「ミナ……逃げてくれ」

 美奈に聞こえる程度の小さな声でささやいた。

 「今から無理矢理突破する。その隙にミナだけでも逃げてくれ」

 「え……そんな……嫌……」

 「ごめんねミナ。何としても逃がすから」

 言葉を遮り正面の警官に拳銃を向け走り出した。

 「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおお!!!!」

 気合いの声をあげながら引き金を一度引く。

 「っ!!!! 撃て! 撃てぇぇぇぇぇ!」

 合計10もの銃口から次々と銃弾が放たれ秀一の体をあかく染める。すぐに秀一はその場に倒れる。

 「……ミナ……ごめん……意味なんて……無い……無駄なこと……しちゃった」

 口から血を吐きながら言葉を紡ぐ。

 「ミナヘの……罪の……償いを……こんな形で……勝手に…………して…………」

 美奈の泣き声が周りに響く。

 「自己満足…………でしかない……ミナのために命を……賭けたという……結果が欲しかった…………」

 周りに警官が囲む。

 「ミナ…………ごめん…………苦しめるばかりで…………優柔不断で…………自分勝手で…………」

 美奈が叫び始めた。

 「ミナ………………ごめんね…………」

 「――――――――」

 美奈は秀一に何か叫んでいたが秀一がそれを聞くことは永久になかった。



――――――――



少女が一人残されていた

少年は遠くへ行ってしまった

少女を守ると少年は誓った

しかし遠くへ行ってしまった

自らを少女と同じ場所に落として守ろうとした

でも今は遠くへ行ってしまった

少年は何を守りたかったのか

少年は逃げてしまったのだ

少女を守るという理由を作って

残された少女に呪いを残して

少女を孤独にして結末から目をそらし少年は逃げてしまった

本当に守ったものは……

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