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十四 3.優しい少年と救われた少女

3.少女を二度と不幸にしないと決めた

 「ミナは裁かれるべきではない」

 美奈を間違った道に送ってしまったのは己のせいであると秀一は考えていた。もう戻れないくらい進んでしまった美奈に対して少年ができることはそばにいてやるだけ。たとえどんな時もどんな目に合おうとそばにいてやることしかできない。

 しかも美奈はそれを望んでいた。清宮秀一がそばにいてくれるだけで波華美奈は満足したのだ。その答えにたどり着いた。ゆえに少年にあるのは美奈を守りそばに居続ける明確な意思のみ。美奈は自分を抑えつけて、心を殺して今までやりたくないことをやってきた。歪で間違ったものであったがそれは少女の少年への思いが強すぎたからである。

 美奈の想いを受けとめる覚悟を決めた秀一は美奈に会い自分の想いを伝えるために、それだけを考えて動き出した。

 もしものために必要になりそうな物を持ち、美奈を探しに歩き出した。秀一はすぐに見つかるとは考えておらず、むしろ見つけてもらうために分かりやすい場所を探し歩く。

 やがてやや大きめの公園にたどり着いた。平日の昼間であるため人気はほとんど無く、しかし辺鄙なところにあるわけではない。やがて1つのベンチに腰を下ろし、電話をかける。

 「やぁ海。こんな昼間っからいいのか? 授業はサボっちゃダメだよ」

 『わかってケータイにかけてくるお前もどうかと思うけど……まぁええわ。それで何か言うことあるやろ?』

 海の話の変え方の強引さに若干怯みながらも秀一は目的を果たす。

 「そうだな……俺はミナと一緒に幸せになることを目指す」

 ゆっくりとしかし淀み無く話した。

 『……ホンマか?』

 「ああ本気だ。今度逢ったらもう離れない。ミナと交わした約束を守るために今度は俺がミナを守る」

 『……少し聞いておきたいことがある。ええな』

 海は決定事項として質問を始めた。

 『それはホンマに心からのおまえの願いか? 熱烈アピールに流されただけとちゃうんか?』

 「それはない。今までの思いこそが、逃げて勘違いして間違えてたんだ。もう迷わない」

 その答えに海はどこか納得した。

 『そうか……これ以上は余計なお世話やな、ほなお幸せに』

 祝福の言葉をかけて電話は切られた。


 「しかしな秀一。その道はホンマにしんどいで」

 だれに言うでもなく呟かれた。


 秀一は公園の中を美奈を探しながらゆっくりと歩いていた。あせること無くこれが今できる最善であると思っての行動。しかし時は無意味に過ぎていく。

 1時間が過ぎた頃、公園を一回りしてしまい秀一は軽い疲労感を覚えながらいまだに歩き続けていた。無為に時間が過ぎたことに軽くため息をつき人気の無い場所で休もうかと向かい、

 「シュウちゃ~~ん」

 左手に物騒なものを持った美奈が無邪気な笑顔で手を振ってそこで待っていた。

 正確には秀一が人気の無い場所に向かったときに先回りしただけなのだが、それはまるで秀一が来るのを今まで待っていたかのようで秀一はやや申し訳ない表情になった。

 「今まで待たせてごめんなミナ。これからはおまえの側は絶対に離れないからな」

 「……! 嬉しいな……シュウちゃんが約束忘れちゃったのかと思ってすっごく不安だったの。よかったぁ」

 美奈は瞳を涙で潤ませながら笑顔で話した。

 二人は20mの距離を隔てながら想いを伝えあった。それは10年に及ぶ溝と言えば妥当であろう。しかしそれは想いを改めて伝えることで埋まった。あとは互いに駆け出し距離を詰めればいいだけ。駆け出した二人の距離はすぐに詰まる。

 そして二人の距離は0に……








「動くなぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 凶器を捨てて手を挙げろぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

……なること無くある男の叫び声で二人は足を止めた。

 「二人とも動くな! 波華美奈、お前はすぐに所持しているものを全て捨てろ!」

 叫んだ男の横には二人が知っている、一番関わりの深い刑事が佇んでいた。

 「な……なんで」

 ふと見渡すと周りを総勢7人もの警官が囲んでいた。

 「秀一君。君にはずっと張り込みの人間がついていたんだ。波華美奈を探し出してくれてありがとう」

 抑揚の無い声で表情を醜く歪ませながら話しかけた。その答えに秀一は呆然とし美奈は俯いた。

 「……おまえたちなんか」

 美奈は手に力をこめる。

 「死んじゃえ!!」

 鉈を振り上げ駆け出そうとしたとき、乾いた音が響いた。

 「え? あれ?」

 美奈はその場に転んだ。美奈は自分の足を見て足から血が流れているのを確認した。

 「距離詰めろ! しかし慌てるな、油断するな」

 刑事は熱くなったばかりの拳銃を美奈に向けながら指示を出す。

 「直ちに武器を捨てろ!」

 ジリジリと包囲が狭まる。秀一と美奈の距離はわずか5m。

 「秀一君! すぐに離れなさい」

 その声にびくりと反応し、目線を泳がせる。どうすればいいのかひたすら考える。

 (ミナは助けられないのか……ミナを傷つけ無いためにもここは一旦、)

 「うぁ……行かないで」

 「……! 何を考えてんだ」

 その声を聞き秀一は動き出した。美奈の元へ。

 「ちぃ!」

 刑事は舌打ちして皆にすぐに取り押さえるように指示を出すが、

 「来るなぁぁぁぁぁ!!」

 秀一が美奈の元へたどり着き、

 パァン

 牽制の銃弾を空に放った。

 「っ! 動くな!」

 素早く指示を出し制止させる。

 その拳銃が誰のものかは分かっていた。この可能性があったため刑事はあの時、秀一をすぐに保護し事情を詳しく聞いた。故に美奈が所持してると判断しての速やかな発砲。しかしそれは間違いであった。

 秀一はもしものため、成功したら儲け物、不要ならあとで渡せば済むだろう程度の考えで拳銃を隠しぬき、海に回収してもらった物である。

 それのおかげで今は膠着状態。すぐに今後のプランを考えるが、

 「シュウちゃん……」

 秀一は自分にしがみついている美奈の状態を見て愕然とした。

 足の傷は銃創であり歩くこともままならない。血も止まりそうにないと感じていた。

 「……逃げられない。ミナと一緒にいられなくなる」

 自分の判断を美奈に聞こえる程度に呟いた。実際このまま二人が捕まれば相当に長い間離ればなれになることは確定している。

 「嫌だよ、もう……離れたくない」

 その心からの言葉に秀一はある覚悟を決める。手の中にある拳銃に目をやりその銃口を周りの警官に向け牽制する。すぐに7つの銃口が秀一に向けられる。

 「ミナ……病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、たとえ死が二人に訪れようとも、永遠(とわ)に愛することを誓う」

 それは少年なりの誓いの言葉であった。

 「ミナも、誓う! 永遠に愛します……」

 その言葉を聞き終えた秀一は片腕で美奈を抱き上げ、誓いを確かにする口づけをした。 それは僅かな時間であったが何物にも変えがたい儚さと美しさがあった。

 「それじゃあ行こっか」

 「うん」

 秀一の言葉に美奈が頷く。互いに強く抱き締め見つめ合う。

 「ミナ。大好きだ」

 「ミナも大好き」

 パァン

 乾いた音が響き美奈の頭から血が飛び散る。秀一は、膝から崩れ落ち体を預けてくる少女を腕で支える。その顔は安らかな微笑みに満ちていた。すでに美奈は逝った。その後を秀一はすぐに追いかける。自らのこめかみに銃を当て引き金を引き、彼らにとっての恋物語を周りにとっての悪夢を終わらせた。



 引き金を引いた瞬間世界から音が消えた。衝撃は感じなかった。体に力が入らずミナの体に折り重なって倒れた。指一本動かせないけど目の前には安らかなミナの微笑み。もう最期の景色としては最高だ。いくら見ていても飽きることはない。現にもう何時間も見続けているのにまだまだ見足りない。しかしさすがに眠くなってきた。続きは一眠りしてからにしよう。目を閉じて楽しかった思い出を思いだそう。ああすぐにでも眠れそうだ。

 『シュウちゃん。ありがとう』

 あぁ、よかった。その言葉を聞けただけで――



――――



少年と少女がいた

二人に笑顔は絶えない

二人はいかなるときも共にあった

すれ違わなければ永遠に仲の良い二人

互いの気持ちを相手に伝えた

故にすれ違いはおきない

言葉にしたからたどり着いた

二人は誓った

死が二人に訪れようとも永遠に愛すると

自分の手をとった相手以外は望まない

二人は幸せの中に……

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