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十四 1.己の手による結末

1.自らの手でこの問題に幕を下ろすと決めた

 「ミナをこの手で裁くんだ」

 秀一は覚悟を決めていた。美奈の罪は許されない。しかしそれは自分から生まれてしまったものだ。美奈を誰かに裁いてもらうなんてできない。どれほど辛くても自分でケリをつける。

 秀一は手ぶらで出ていこうとするが、何かを思い出しあるところに連絡する。

 『海、今いいか?』

 『OKやで~選択は完璧やな。聞かせてぇな』

 『……自分の手でケリをつける。ミナと二人っきりになるために刑事を止めておいてほしい。……たのむ』

 『またやっかいな。まぁええよ全力で止めたるさかいしっかりケリつけときな~』

 秀一は最高の心友に深く感謝し、第三者の邪魔者が入らない場所を探して歩き回った。何時間もかけ、パトカーのサイレンの音を聞きながらたどり着いた建設現場には予想通り今日は人がいなかった。

 秀一は確信を持って待ち続けた。美奈が己を見つけてくれると信じ。

 やがて日が落ち周りは暗くなり東の空に綺麗な満月が昇ったとき、

 「こんばんわ、シュウちゃん」

 美奈が秀一の元にたどり着いた。

 月の影から響いた声は、砂利を踏む足音と共に闇から生まれていた。やがて月光の照らす地に美奈がやって来た。

 美奈はえへへへと嬉しそうに笑い、後ろ手に秀一の顔を下から覗き込んでいた。

 「やっと二人っきりになれたねシュウちゃん」

 美奈はこれ以上ないくらい幸せそうに笑っていた。

 「見て見て、婚姻届もう貰ってきたんだ。シュウちゃんが18歳になるのをずっとずっとずっっっっっと待ってたんだ」

 秀一は忘れていたがこの日が18歳の誕生日だ。

 「ふふふ~嬉しいな~~」

 美奈は月光のスポットライトの元、クルクルと回っていた。

 美奈は己の罪を表に出していない。秀一との約束のために行なった罪を少しでも忘れようとしている。無邪気な顔の下にあるはずの苦しみを思うと秀一は胸が苦しくなり耐えられなくなった。

 「ミナ……」

 静かな呼び掛け。美奈は聞き逃さない。いつの間にか俯いた秀一を覗き込む。

 「なぁに、シュウちゃ……!」

 その声を遮り美奈を地面に押し倒した。

 「キャッ!」

 美奈は驚きの声を上げる。そこに秀一は力づくで馬乗りになり、ビックリしている美奈と見つめ合う。美奈は熱を持った視線を、秀一は虚ろな視線を数分間交わすと、美奈の細首に両手をかけて力強く締め上げた。

 「ガッ! グゥ!」

 美奈は苦しみのうめきを上げた。足をバタつかせ身体をよじらせ手を離そうと必死の抵抗をみせる。

 やがて少しずつ目から涙がにじみ出す。秀一の行為が理解できていない。

 美奈の必死な姿を見ているといつの間にか秀一は大粒の涙を流していた。それは頬を伝い美奈の顔をポタポタと濡らす。

 そうしていると必死に抵抗していたのが止まり、首にかかる手を外そうとしていたのがただ添えられるだけになっていた。表情も苦悶を浮かべていたのに秀一を見つめ、涙に目を潤ませて優しく微笑んでいた。秀一はそれに耐えられない。涙がより一層勢いを増し頬を伝う。もう美奈の顔を秀一は見てなかった。ただただ美奈を殺すことだけを考えて自らの手に力を込める。

 どれほどの時が経っただろう。ほんの数分のことであったが秀一には何十時間もの長い時間に感じられたがほんの1,2分が経ったころ手に添えられていた美奈のふっと離れる。ゆっくりと、そらした目線を目の前の美奈に向けた。そこには静かに眠る美奈があった。

 二度と目覚めぬ永遠の眠り。秀一は知っている。自分がやったのだ。美奈を殺した。その事実がゆっくりと秀一にのしかかる。

 美奈の顔は死んだとは思えないくらい安らかな寝顔。首から手を放すとそこにはくっきりと自秀一の手の跡が残っている。少し息が上がっている。泣き声は出ないが涙は止まることを知らない。

 美奈の今の表情を見ていると秀一は一つの疑問が浮かびだす。

 「ミナはどうしてこんな表情で逝けるんだ……」

 秀一にはわからない。美奈は抵抗するのを途中でやめてこの安らかな顔になったのだ。途中であきらめたのか、死ぬことを望んだのか理解できない。

 「どうして……恨みを残さないんだ……それとも本当に死を望んで逝ったのか?教えてくれミナ」

 少しずつ語調が早くなる。

 「どうして!」

 そう叫ぶと今まで耐えていたものが決壊した。秀一は声をあげて泣き、目の前の美奈の亡骸を強く強く抱きしめていた。


 秀一はそのまま何時間もの間、美奈の亡骸の前で呆けていた。やがて朝になりやってきた人に見つかった。少女の死体とその横にへたり込む少年。すぐに警察がやってきて逮捕された。

 取調べでも自分の行った事実のみを淡々と答えあることを考えていた。

 『ミナはどうしてあんな微笑みを浮かべて……抵抗をやめて死んでいったんだろう』

 秀一は美奈の死に決着をする事ができずにいた。死に際に美奈が残した謎を解くためにあらゆることを考え、結果「己の罪を悔いて人の手を使っての自殺」ではないかと秀一の中ではいまいち納得できない結論に落ち着こうとしたとき一つの夢を、過去の記憶を見た。

 『シュウちゃん。ミナね、シュウちゃんとずっと一緒にいたいんだ。だからさシュウちゃんはミナに何してほしい?』

 『え、え~そんなの別にいいのに。う~んそれじゃどんなときも笑顔でいてよ。ミナが笑っていると僕もすっごく嬉しいんだ』

 『うんわかった。でももしやってほしいことができたらミナ何でもするから』

 「うわぁぁぁぁぁ」

 夢の中から目を覚ました。忘れていた。たわいのない約束の夢。ただの夢のはずなのに、

 「あ……ああ……」

 それが真実かもわからないのに秀一には夢が過去の事実としか思えなくなり、

 「ミナ……まさか……」

 夢で見た事実をもとにたどり着いた答えは、

 「望んだから。死んでほしいと言う願いをかなえるため、笑顔でいてという願いをかなえるために、死んだのか……」

 美奈は救われず、大切な人に裏切られて殺されたというものであった。

 秀一が美奈を殺す時に確かに最初抵抗した。それがあの時の美奈の願い、死にたくない生きたいというものだ。しかし美奈は秀一の望みをかなえることを優先した。どんなに苦しくても、厭でも、辛くても、悲しくても、美奈は秀一の願いを笑顔で叶えてそして報われず死んだ。

 それが真実かどうかはわからない。しかし秀一にとっては考え付いた真実だ。美奈の最後の気持ちはどのようなものだったのか。それを考えた時また涙があふれ出し止まらなくなった。

 「ふぅ……ぐ…………ミナ……すまない……」

 届けたい人に届かない言葉はすぐに消えた。




――――――――




一人の少女が泣いていた

たった一人で泣いていた

そばにいてくれると約束した大切な人は

少女の想いに応えてはくれなかった

そして独りぼっちになった

誰かと一緒にいたいというささやかな願いはかなわず

それを唯一かなえてくれる人は少女を見捨ててしまった

その想いを考えることを忘れていてしまった

その人が気づいたのは取り返しがつかなくなってからだ


少年の心は……

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