十三 選択
優柔不断な少年は結末を決めることができるのでしょうか
「突然すいません。こんな無茶なこと」
翌日、秀一は警察署の廊下を刑事と共に歩いていた。
「あそこまでされたらね、まぁ今回の事とも関係が無い訳じゃない。でも、」
「分かってます。これでわかったミナの事は話しますから」
秀一はある事を、美奈が傷つけた刑事にお願いした。
「美奈が関係した事件の資料を見せてほしいなんて、普通は許可できないよ」
苦笑しながらある一室に通される。
「私も見させてもらうがまぁ自由にしなさい」
小さな一室。そこには美奈が関わった事件の資料。秀一は浮かんだ可能性を確かめるために10年前の資料を見る。
そこである記述を見つけた。琴葉の時にも同じものがあったようだ。秀一にとってそれだけで十分な確信を得た。
『ミナは悪くない。』『全部自分の責任だ。』
――――
ずっとおかしいとは思っていたはずなのに敢えて考えないようにしていた。それは逃避であるが責められることではない。
秀一が美奈をおいて逃げ出すのが有り得ない。二人で隠れるか、二人で逃げ出すか、事件当時であればどちらかを選んだであろう。しかし秀一は一人で逃げ出している。そこにあったのだ。美奈を連れて逃げない理由が。つまりそこで見たのだ。美奈が人を殺すのを。しかしただ美奈が殺したなら逃げ出さないと言える。恐怖だけならばだ。そこに罪悪感が加われば、子供であるならば話は違う。自分の大切な人が、明確な好意を持っている人が、自分の願いのせいで人を殺してしまったならその場を逃げ出してしまうことだろう。
そう願ってしまったのだ。1年に及ぶ絶望の中、そう願うことは罪にはなるまい。しかしその願いを、約束のために美奈が叶えてしまったのだ。
――――
少女は泣いていた。長年引き裂かれていた大切な人と離ればなれになっていたからだ。
大切な人のためならどんなにオソロシイことでもできる。こわかったけど……
少女の望みを叶えてくれた。少年は何も言わず少女のそばにいてくれるのだ。だからこそ何も願いを言わずに望みを叶えてくれる少年が、何か願いを言ったとき何か望んだときにはどんなことでも叶えなきゃいけない。そんな脅迫概念に囚われている。少年が少女のそばから離れていってしまうかもしれないから。
秀一は思い出した。今まで忘れていた10年前の真実をあの日の事が色と音をもって鮮やかに禍々しく甦る。
『ミナ、いたいしくるしいね』
『シュウちゃん……』
『なんで僕たちがこんな目にあうんだろう。だれか……助けてよ……もうやだよ。僕たちをくるしめるやつらなんか死んじゃえばいいのに』
『……』
『邪魔するやつらなんか死んじゃえばいいのに! だれか……助けてよ……』
『だいじょうぶ……シュウちゃん』
忘れるべきではないのに忘れていたこと。これは正しくない。記憶の底に封印して目を背けていたのだ。上部に残った記憶を改竄したのが、幼い心を守るためならば仕方ない。しかしそれによって今の現状になっているのを理解している。故に秀一は明日にでもケリをつけると誓っている。
いくつかの手段は考えている。しかしどれも法に唾吐く事だと充分理解している。秀一はこの場では結論は出せないとしてホテルで一人、答えを探すことにする。
刑事の人にお礼をし、やっぱり分からなかったと適当に誤魔化してホテルまで戻った。
秀一は考えた。どうするのが美奈のためなのか。どうするのが美奈を救うことになるのか。美奈の犯したこと。美奈の苦しみ。美奈の想い。全てをひっくるめて一番だと思う結末を考える。夜になり朝にならんとするまで休むことなく考えた。究極の選択。それがハッピーエンドなのかノーマルエンドなのかバッドエンドなのかみんなが笑って済む最高のエンドに届くことはないと秀一は分かっている。最善ではなく次善を、ベターな結末で納得しなければならない。それには誰かの痛みが伴う。それの取捨選択だ。どんな選択を取ってもおかしくない。そんな中、朝日を浴びながら秀一はひとつの結末を選択した。
どんな結末になるかは正に神さえ知ることができないのであろう。
「神様……もしいるなら俺が選んだものが神様にとって最高なものであってくれよ」
ひとつの選択をした。
「終わりを迎えようミナ。最高の結末になることを願って」
涙が知らずに流れ出す。
次回結末になります。
彼が選んだ結末がハッピーエンドであらんことを。
1.ミナは裁かなきゃいけない
2.ミナは裁かれなきゃいけない
3.ミナは裁かれるべきではない
4.ミナは裁かれる必要はない