一 始まりの一日
書き上げてありますが少しずつ直しながら投稿していきます
あまり長くはならないと思います
暗い暗い光のない部屋の隅に座り込んだまま動かない僕。
ああ、今日で何日目だろう。あまりに長い時が過ぎていてもうわからない。
いつになったら終わるのだろう。もちろんわからない。
あの娘はいつもどおり奥に連れていかれた。その次は僕だ、それもいつもどおり。今日は奥からいつものも増して言い争いの声が聞こえてくる。
だけど……おかしい。何かの叫び声、いつもと違う何日かぶりの変化。
だめだ見てはいけない。それはこの世に在ってはいけない。ああ、よせばいいのに、久しぶりに芽生えた自分の意志で扉に向かいそして開けてしまう。
あかい部屋、あかい水、それに沈むあの男、あかく染まり呆けた顔のあの娘、それ以上にあかに染まり震える刃を手に持つ女、そして今まで見たことのない嫌な笑顔に変わる顔。
——今日もあの夢で目が覚める。10年たっても決して消えない7歳の少年にとっては過酷すぎる1年間の地獄。清宮秀一の抱えるこの大きな傷跡は生涯消えることはないだろうが、時の流れはその傷跡に目を向けることなく過ごすことができるほどに癒してくれた。
そんなことを思っていると時間がヤバイことになっていた。高校をサボるという選択肢はとる気はなく急いで身支度をする。とくに見た目に気を使ってるわけではないが最低限の身だしなみを整える。
あの地獄から戻った直後は憐みの表情ばかりを皆に向けられていたが今は違う。10年も前のことだしそのころは自分と同じ子供だったからろくに覚えてはいない。昔いたところからは離れているから余計忘れ去られてもいる。
そのおかげで過去を知らないでいてくれる友人だってできていた。しかも寝起きのままだと変にからかってくれるありがたい存在でもある。すべての身支度を終えて遅刻しないように学校には走って向かった。
やはり季節が冬には成りきれていないせいか顔に薄らと汗がにじんでいる。学校まで走りこんできたのが原因なのだが特に気にはしてはいないようだ。
自分の席に着きふぅと一息をつくと
「どうしたん遅刻ギリギリなんてめっずらし~」
この高校に入ってからの最初にできた友人であり親友でもある犬崎海が目の前にいた。
「ん? しかもテンションやや低めってとこか。悪夢でも見たん?」
「いや、そんなことはねーけど」
人懐っこそうな表情、軽いもの言いで多くの友人を持つ犬崎だが唐突に核心に近いことを言うことがある。
「まぁいっか。とりあえず今日の授業の宿題を頼むわ」
「……まぁいいよ」
いつもどおりのことだから特に考えずに了承する。
「サンキュー! 恩に着るよ!」
そういつもどおりのやり取りをしているとホームルームの始まりの鐘が響いていた。
——昼休み。売店に向かいサンドイッチとお茶のセットを買う。普段ならここで買うことはしないのだが今日の朝は時間がなくてここで買ったもので我慢する。買った昼食を持っていつもどおり中庭のベンチに向かっていた。冬へと季節が変わり始め、校舎の外で食べる人もだいぶ減った中ベンチに一人、茶色の短い髪、小柄な体躯の荻野琴葉が座っていた。
荻野と清宮は付き合い初めてまだ1か月もたってなく互いに気恥ずかしさをまだ残したままだ。
小走りで琴葉のもとにばつが悪そうな表情を浮かべつつたどり着いた。
「悪い! これ買ってたんで少し遅れた!」
「……大丈夫。私も今来たとこだから」
やや気恥ずかしそうにしながら答えが返ってきた。そして始まるいつもどおりの昼食風景。たわいのない会話から始まりおだだやかな雰囲気が続く。琴葉といると自分の中に流れ込むおだやかさが清宮には心地よかった。
しかしそんな時間もすぐに終わり午後の授業の始まりが近づいてくる。
「それじぁ行こっか」
適当なところで話を切り上げ教室に戻って行った。
——放課後。清宮はやることが特に思いつかず早めに家に帰ることにした。琴葉も海もつかまらなかったので一人での帰宅。気が付くと夕日が町中を包んでいた。夕焼けが道全体をあかに染めている。
あかい道……何かを思い出しそうになるが首を振ってその思いを振り払う。
「もう……過去のことだ」
そう自分に言って聞かせ、あかに染まる道を早足で歩き家に向かう。
一人の少女がドアを背に立っていた。そこは自分の住んでいる家であるのだがはじめて見る少女。いやそれは間違いである。清宮はその少女のことを知っているはずだ、忘れるはずがない。
その少女と目が合ったとき腰まで伸びる長い黒髪をなびかせながら走り寄ってきた。まだ小さな子供のような満面の笑みを浮かべつつも懐かしいものを見るようなやさしい目だった。
「シュウちゃんおかえり。もぅ、ずっっっっと待ってたんだよ」
「ミ…ナ……」
記憶の底から絞り出すように、確かめるようにその少女、波華美奈の名前を呼んだ。
「よかったぁ。やっぱり……ちゃんと覚えててくれたんだ」
そう言って安心した表情を向けてきた。それはあの頃と、いつも一緒にいた10年も前からと変わらない無邪気な笑顔であった。
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