第七章
三人の温もりを名残惜しそうに手離し、僕は俯いた。自分のしていたことに、今更恥ずかしさが込み上げてきたのだ。何も言えず黙り込んでしまった僕に、三人は何も言ってこない。
「部屋、そんなに気に入ったの?」
てっきり嫌われると考えていた僕は、リラの言葉に顔を上げた。三人の表情は照れてこそいるが、怒ったような、不快そうな表情はしていない。
「あの部屋……僕の部屋にそっくりなんだ。て言っても、散らかり放題だから、違うんだけど。でも、懐かしくなって」
「故郷が恋しくなった?」
「ちょっとだけ。でも、もし帰れるとしても、まだ帰りたくない」
「え?」
ベッドに座ると、三人も隣に座ってきた。僕は一呼吸の間をおいて喋り出す。
「まだ、君たちと一緒に居たいんだ」
それは願いなのかもしいれない。願望だと言えなくない。ここに居れば嫌な思いをしなくてすむ。担任の声も、親の声も。僕を傷つけようとする人たちの声も聞かなくてすむんだ。けれど、それ以上に、まだここに残りたい。この温かい三人と、もっと一緒に居たいんだ。
「だから……居てもいい……かな?」
唾を飲み込み、三人をチラリと見る。
「ここはリュウヤの部屋で、もう家族なんだぜ? 居たいなら、居たいだけ居ればいいじゃん」
ネオの声が、一つ一つの単語が体に浸透していく。溢れだしそうな何かが胸を揺すり、また三人にお礼を言いたくなった。けれど口は言葉を紡げず、僕はキュッと唇を噛む。
『友達』の次は『家族』、か……。
一生馴染めそうになかった単語が、今では現実に溢れている。無縁だと思っていた存在が僕の前にいる。その事が、こんなにも冷えきった僕の心を溶かしていく。無理にこじ開けようとするんじゃなくて、優しく包み込むような感じ。まるで『北風と太陽』みたいだ。
「よろしく、ネオ、リラ、キラ」
「あぁ、よろしくな。リュウヤ」
差し出された手を、今度は迷わず握り返すことが出来た。
日が暮れて、今日でどれぐらいの時間が経ったのか。それを思うと何だか目が冴えてしまった。実際、このワールドゲームに来てから、およそ二日目。日が暮れた回数を一日と想定しているから、今は二日目の晩ということになある。この世界での時間の経過が地球のやり方と一緒なのかは分からない。
「向こうは……」
数人の顔が浮んだ僕は、首を振って忘れようとした。しかし、気になる。
突然消えたら、皆心配するだろうか?
それとも、変わらない日常を送り続けているのだろうか?
後者の疑問の方がいい。あの画面にも、そう出ていたじゃないか。
“現世を捨てる気はあるか?”
そう、僕は現世を捨てたんだ。そして、ここに居る。このままネオやリラ、キラと一緒に暮らしていけるんだ。現世に戻るより魅力的じゃないか。
僕はしっかりと毛布を体に巻きつけると、半ばやけくそに目を閉じた。
その後、不思議な夢を見たのだが、朝になるとその内容を忘れてしまっていた。