表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/33

第三章

 全力で街の中を走り、三人の姿が見えない所まで来ると、僕は漸く立ち止まった。いつもなら走って数分で息が上がり、立っていられないほど全身から力が抜ける。けれど、今は息を乱しただけで倒れることはなかった。

「ハァ……ハッ……」

 両膝に手を置き、息を整える。ふと眉間に中指を当てた。

「?」

 そこにあるはずの金属の感触がなかった。癖になってしまった眼鏡の上げ方。愛用の眼鏡がないことに今気付いた。


 いつからなかった?

 さっき走ったときか?

 でも、それなら視界が悪くなって……そもそも起きたとき、ちゃんとあっただろうか?


 ぐるぐると頭が回る。肩に乗ってたヘッドフォンは、ちゃんとある。しかし、眼鏡の存在は覚えがない。もしかしたら、空から降ってきた、というときになくしたのかもしれない。

「あ、れ?」

 眼鏡の状態で、辺りを見回した。やっぱりよく見える。裸眼のときは少し前の文字すら歪んで見えなかったというのに。今では視力が戻ったように、遠くまで見えるのだ。

 目の周りに手を当てるが、やはり眼鏡はない。肩のヘッドフォンを手にやり、耳にかける。スイッチを押すと、ちゃんと音楽が流れた。どんなアーティストにも興味が沸かず、結局パソコンから落としたのはゲームのBGM。ちゃんと、あのとき止めていたとこをからかかった。それにホッと息を吐き出す。そのまま局を聞きながら、僕は方角を気にせずに歩き始めた。





 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――






 龍也が去った後、三人は呆然としていた。

「俺……何か悪いことしたか?」

 両耳をシュンと下げ、ネオは項垂れた。リラも困った表情をしている。

「リュウヤは……俺たちと遊びたくなかったのか?」

「ネオ……」

 じわりと目が潤む。しかし涙を流す寸前で我慢した。

「泣かないで、ネオ。きっと、きっとリュウヤは素直じゃないのよ。キラだって、最初はそうだったでしょう?」

「余計なお世話だ。まぁ、目を合わせなかったってことは、少しは悲しんでいたんじゃないか?」

「え?」

 下を向いていた顔を、キラに向けた。潤んでいた目に、サッと光が宿る。

「嫌だったりすれば、もっと他人には冷たい。それこそ顔を背けずにすっぱり言い切ったはずだ。だが、アイツは顔を背けて言っていた。多少未練があったと考える方が妥当じゃないか?」

「そっか……そうだよな! なら、リュウヤを追いかけようぜ! んで、今度こそ一緒に遊ぶんだ!」

 いつもの元気さが戻り、三人は笑い合った。そして、龍也が走り去った方向、北東へと向かう。

「なぁ、さっき変な格好の男の子見なかった?」

「男の子? もしかして俯いて歩いていたあの子かな? 耳丸かったし」

「その子、どこに行ったか知りませんか?」

「街の外側に行こうとしてたみたいだぞ? ほら向こう側の出入り口に向かって行ったし」

 店を開いている商人が指した方角は更に北東だった。三人は心配そうに顔を見合わせる。

「更に北東は……」

「あぁ」

「リュウヤ……リュウヤ!」

「待ってネオ!」

「行くぞ、リラ!」

「うん!」

 走り出したネオの後を、二人は慌てて追った。三人は息を切らしながら街を北東に進んでいく。龍也の足が速いのか、街の出入り口に着いても彼には追い付けなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ