第二十九章
それから彼は、生き抜くために幼い頃に聞いた交易の街まで逃げた。決して簡単な道のりではなく、街での生活も難しかった。しかし、そこでリラ、キラと出会った。お互いの過去は話してもいないし、聞いてもいない。それでも、彼らは惹かれ合い、共に生きてきた。そして、僕と出会った。リラ捜索のためにキラと別れ、仲間たちに連れ去られた。しかし、六年ぶりに訪れた故郷は、昔とは状況が違った。住処事態に変化はない。だが、長が変わっていたのだ。前長の息子が現長となっていた。ネオは今、この谷の淵に突き立てられた木に縛られ、飲まず食わずの状態で放置された。つまり、ネオを餓死させるつもりなのだ。
「……なんて酷い……」
目を開き、ネオへと視線を移す。彼から生気を感じないはずだ。彼が木に縛られ、飲まず食わずの状態で放置されて二日。彼らの生命力は知らないが、何かを与えなければ、ネオは死んでしまう。
「早く縄を……っ、あれ?」
彼を縛っている縄へと手をかける僕だったが、ふと頭に何かが過ぎった。それに集中させると、今度は別の記憶が流れてきた。黒い髪と耳、金色の瞳。
「キラ?」
その見覚えのある顔に、僕は眉をひそめた。後ろにいるキラへと振り向けば、幼いネオの隣に幼いキラがいた。先程までいなかったその少年に驚いたが、それ以上にキラの記憶まで溢れてきたのに戸惑った。
「今度は……キラの記憶? リュウヤ、どうなってるの?」
それは、リラも同様らしい。しかし、それを答えれるだけのものを持っていないのだ。僕は溢れてくるキラの記憶に意識を集中させた。