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第二十八章

 今から約六年前。ネオは両親と三人で暮らしていた。彼の家系は一族の長を務めていたのだが、父方の兄が族長となり、ネオたちは仲間として過ごしていた。争いが嫌いなネオの父親は、兄でもある族長との争いを避けたため、人狼族は平和に日々を過ごしていた。しかし、争い事が好きな族長は何かと他の種族との闘争を起こそうとしていた。それを見かねていたネオの父は、仲間に抗議の声を上げるようになった。最初こそ耳を貸さなかった仲間たちだったが、彼の声に一部の仲間が賛同を示し始めていた。

『おとーさん、またみんなとお話しするの?』

『そうだよ。ネオ、またお留守番と母さんを頼むよ』

 ネオの頭を撫でる父親は、とても優しそうな顔をしていた。頭を撫でられ、ニッコリと微笑む。いつものように父親を見送り、母親と一緒に帰りを待つだけだった。しかし、夕方になっても、彼は帰って来なかった。その代わりというように、数人の男集団が家へと押し入ってきた。

『貴方たちは誰ですか!?』

『……長の命により、貴様を……始末する!』

『っ……ネオ、逃げなさい!』

 母親の腕に守られていたネオは、その人物に奥へと体を押された。

『おかーさん!』

 咄嗟に体を振り向かせれば、男の手が母の体を貫いていた。口から血を流しながら、母親は血の気の引いた顔でネオを見た。

『ネ、オ……にげ、なさ……い』

『おかーさん! おまえら、おかーさんに何するんだ!』

 逃げろと押し出されたネオは、震えを必死に抑え込み男たちへと向かっていく。しかし、まだ幼い彼はなす術もなく捕まってしまった。

『はなせ! おまえらなんか!』

『ガキは連れ去れ、との命令だったな?』

『あぁ。全く、長の忠告を無視してまで仲間を唆すからだ』

 それぞれに言葉を吐き捨てると、男たちはネオを担いだまま家を出て行く。その太く頑丈な腕の中で担がれているネオは体を捻り、母親へと手を伸ばす。

『おかーさん……おかーさん!』

 しかし、少年はあまりにも無力だった。必死に伸ばす手は、求める母から遠ざかっていく。連れ去られるネオは一瞬たりとも母親から目を離さずにいた。しかし、彼女が動くことはなかった。鼻をつく鉄の臭いと、目前で焼けていく家から臭う煙。全焼していく我が家には、父から頼まれた大切なものがたくさんあった。だが、それは一瞬にして消え失せた。伸ばしていた手は力なく垂れ下がり、見つめていた目を逸らす。もう二度と、両親を見ることはない。幼かった彼は、直感的にそのことを感じていた。

 男たちに連れて来られたのは、ネオの叔父である長のもとだった。

『ボス……』

 叔父を見上げるネオの瞳は、憎悪の色しか映していない。幼い彼だったが、長の命令であることは理解出来た。長の命令無しに仲間を手にかけはしない。傷つけることはあっても、だ。

『……なんで……おかーさんを……おとーさんはどこだ!?』

『お前の父、つまり俺の弟は死んだよ』

 低く野太い長の声で放たれた言葉に、ネオは目を見開いた。呆然としていた彼は気を取り直すと、長に突っ込もうとした。

『っ……はなせっ! このっ……!』

 体を押さえつけられていたネオに、反撃の余地はなかった。必死に体をバタつかせるが、大の男には何の効果もない。

『お前は良い瞳をしている。どうだ? このまま俺の跡取りにならんか?』

『は?』

 長の言葉に、暴れていた体を止めた。長を見上げた瞳は瞠目していた。

『何を……』

『弟は戦を嫌っていたが、お前は……戦いたそうな顔をしている。この俺を倒し、両親の仇を取りたい、とな。だが、今のお前にはそれほどの力はない。復讐のためには力を手に入れなければならない。それを手に入れるためには、どんな方法でも使うだろう。俺の息子より物になりそうだ』

 ネオの頭に足を乗せ、長は彼を見下す。

『いや、だ……』

 押しつぶされた顔を横に倒し、長を睨みつけて反論する。今までニヤついていた長の顔が

無表情へと変わった。

『アンタが……喜ぶような……方法はしないっ! おれは、誰かをぎせーにして力を手に入れたりはしない! だけど、いつか、アンタを倒す力を手に入れたら、アンタにふくしゅーしてやる!』

『ほう? ならば、生きて俺に復讐するんだな。それまでは生かしておいてやる』

 ネオの反論を聞いた長は、再び嫌な笑みを浮かべた。そして、ネオを取り押さえていた男に命令を下す。


“一族追放”


 ネオが受けた処罰だった。住処を追われた彼は、六歳で谷底に捨てられた。


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