第二十六章
里からある程度離れると、僕はリラあに現状を話した。歩きながら話すと体力を奪われるが、今は時間が惜しい。話を終えるとリラの顔から血の気が引いている。それと同時に、その瞳に強い光が宿った。
「早く助けに行かなきゃ。谷は険しいけど……今ならフライで、ある程度までなら連れて行けるわ」
杖を握りしめ、リラは言う。僕はふと気になったことを聞いてみた。すると、彼女は珍しくいたずらっ子のような顔をする。
「確かに私の魔法は元に戻ったけど……大丈夫! 一族には言わなかったけど、攻撃も使えるの。あれから二種類の魔法が使えるようになったみたいで、人狼族が苦手としている魔法は任せて」
「そうだったんだ。でも、よく人狼族が魔法を苦手にしていることが分かったね」
「前に、ネオとキラがケンカしいたときに止めようと魔法を使っちゃったことがあって。“浄化の産声”って魔法、リュウヤも知ってるでしょ?」
聞き覚えのある単語に、僕は数日前の記憶を掘り起こした。バグに襲われた、あのときだ。ネオがバグを貫き、リラの魔法で振り払った。
「うん、あの時だね」
それはほんの少し前の話なのに、かなり昔のことのように思えた。その感覚が面白く、口の両端がつり上がる。
「あの魔法は、本来喧騒する心を宥めるためのものなの。それを使ったら、ネオがぐっすり寝ちゃって。何度か試してみたら、人狼族には効き過ぎるみたいだったわ。だから、彼らの弱点は魔法だって分かったの」
「そんなことがあったんだ?」
「うん」
「お二人さん、そろそろ着くぞ」
キラの言葉を受け、僕たちは口を閉じた。目前に見えた渓谷に芽を見開く。それは獣のような形をしていた。
「あれが、獣人谷……?」
「あぁ」
永遠と続いていた森を抜け、ようやく開けた場所へと出れば、すぐさま谷が見えてくる。
「狼、みたいだ……」
天へと向かう二本の先端が耳のように尖がり、その形が狼のように見える。
「あの突き出した二本の先端の間には淵がある。そこから崖伝いに登れるはずだ」
やたら地形に詳しいキラに、僕は首を傾げた。
「地形に詳しいんだね?」
「前にネオから聞いたことがある」
「なるほど」
しかし、簡単に説明がついてしまった。彼らが、昔何を話していたのかは分からない。だけど、彼らと共に過ごしている今が、とても大事な時間なのだと感じる。何の服飾もしない、それでいて輝く時間の中。僕はその中にいるんだ。
「ネオ……」
呟く名前は誰の耳にも届かない。獣人谷を見つめ、止めていた足を再び進める。
四人が揃うまで、あと少しなんだ。