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第二十四章

 朝の支度を済ませた頃合いで、長の使いが部屋を訪れた。彼に付いて行き、僕たちは長が住んでいる家へと招かれた。居間には長が座っており、指示されるままに座布団らしき上に座った。特にフカフカという感触はないが、そこに座ると、長と対峙した形となる。長は見た目的に三十代というところだろうか。イメージしていた長像とは随分と違った。

「まずは、この里を救ってくださったことに礼を言います」

 凛とした声とともに、長は一礼してきた。慌てる様もなく、僕も一礼を返す。

「いえ。こちらこそ、不法侵入してすみません」

「聞いたところによると、お二方はリラのご友人、とか」

「はい」

「しかし、あの者は大罪人。もし、救いに来たのであれば即刻立ち去ってもらいたい」

 開かれている瞳には、長としての威厳が現れていた。体にヒシヒシと伝わってくる警戒心。そして、他者を受け入れようというものが、全く感じられない。

「……そのことで、少し話をお聞かせくださいませんか?」

 僕の質問に、長は探るような視線を向けてきた。僕はその視線を真正面から受け止める。暫く沈黙が続いたが、長は目を伏せたことでそれを破った。そして、声だけが部室に響く。

「何をお聞きになりたいのですか?」

「エルフ族に伝わる言い伝えを」

「言い伝え? それをお聞きになりたいのですか?」

「はい。お願いします」

「言い伝えといっても、ほんの些細な話です。魔法が変わってしまった者が、次々と仲間を襲い、同族の手によって裁かれる。そんなお話です」

 淡々と話す長をジッと見つめる。それに怯んだ様子もなく、長は僕を見返してくる。その目は何とも冷たい色しか映していない。

「リラは……自分の心は醜い、と言っていました。その理由も、あの中で知りました。だけど、納得出来ないのです」

「納得出来ない、とは?」

「言い伝え通りなら、魔法が変わってしまった者は同族を襲い、その脅威を怖れてその人物を裁いたことになっていました。しかし、リラは魔法が変わっても、誰も襲っていません。それなのに、彼女を裁く必要があるのですか?」

「……仲間を襲うから危険なのではありません。魔法が変わってしまったことが重要なのです」

「何故、そこが重要なのですか?」

「魔法が変わるのは心が醜いという表れなのです。心が醜いというのは、いつしか本人すらも歪め、私たちを襲ってきます。そうなってからは遅いのです。小さな種のうちから除去しなければならないのです」

「子どもでも、ですか?」

「その通りです。現に、リラは魔法で里を襲おうとしました。あの怪物が何よりの証拠です」

 長の言葉を聞き、僕は立ち上がっていた。初めて崩れた顔で僕を凝視してくる。

「バグは……あれはリラの魔法ではありません!」

 バクバクと脈打っている心臓の音が聞える気がした。だが、それよりも、僕は衝動的に動きそうになった体を抑えている。出かけた右手を左手で抑え、長を見つめていた。その時間がやたら長く感じる。しかし、次に出た台詞は冷静な色を宿していた。

「あれは、リラの悲しみに引き寄せられただけだと思います」

「悲しみに引き寄せられた? どういうことだ? リュウヤ」

 漸く口を開いたキラは、困惑した顔を向けてくる。それをチラリと目を向け、再び長に向けた。

「まだ憶測ですが……あれは極度の悲しみに陥ったリラに引き寄せられたものだと思います。僕たちはあれをバグと呼び、バグは過去に柵を持つ者にしか見えない存在だと思っていました。しかし、昨晩の人々の反応で、それが違っていたこと気付きました。バグは過去に柵を持つ者に引き寄せられていたんです。実際、あの中で、僕はリラの記憶を見ました。バグの中にいた彼女はずっと、嘆き悲しんでいました。長、あなたはリラの苛めを知っていたはずです。何故、止めなかったのですか? 苛めを止めてさえいれば、リラはあそこまで傷つかなかった。魔法が変わってしまうほど傷つきはしなかった!」

 バグの仲での出来事が頭を巡る。リラの悲しみが、今でも胸に広がっていた。

「魔法が変わってしまうほど? どういう意味ですか? 魔法が変わってしまった者は、その者の心が醜い証拠。心の醜さは、その者の定めです」

 長の言葉に、僕は背筋が凍っていく気がした。リラの魔法が変わってしまった原因を、いまだに理解出来ていないのだ。

「心が醜い者に、悲しむことがありますか? 彼女はずっと悲しみ、傷ついていました。それは心が醜いからではありません。純粋だからこそ、彼女の魔法は彼女を守るために変わったのです。何故、魔法が変わってしまったのか……居間のあなたより、僕は理解出来ます。言い伝えに縛られているあなたに、本来の魔法を理解出来ない!」

 僕は静かに、しかし、力強く断言した。その台詞に、長は睨みつけてくる。

「魔法はエルフ族の力。余所者に理解出来るほど単純ではない!」

 ここまできて、漸く長は声を荒げた。穏やかな表情は剥がれ、憤慨した表情となる。だが、僕も引きはしなかった。

「いいや。あんたたちは言い伝えに囚われ、魔法の本質を見ていない! 魔法が変わった原因を心の醜さだとしか言わないあんたたちに何が分かったって言えるんだよ!?」

「なっ……!」

「魔法が変わったのは、彼女自身を守るためだ。だけど、リラは誰も傷つけてはいない。それどころか、僕を助けてくれたんだ。なのに、どうしてリラの心が醜いって言える? むしろ醜いのはあんたたちだ!」

「リュウヤ!」

「っ!」

 捕まれた腕を咄嗟に払った。目を向ければ、静かに見据えているキラの瞳とぶつかる。彼は静かだった。怖いと思うほどの静けさ。それは冷たいとは違う恐怖。

「リュウヤ、落ち着け」

「……」

 静かに諭された言葉に、冷静な思考が戻ってくる。長に目を向けると、彼は酷く怯えていた。だが、彼の目から理解していないことが分かる。どれほど説明しても、いくら言っても、きっと聞き入れてもらえない。そのことが、何の躊躇いもなく受け止めることが出来た。理解しないのではなく、出来ないのだろう。言い伝えを信じ、それに従順な彼らは、それ以上の追求しない。魔法が変わるのは心が醜い証。そうとしか理解出来ないのだ。

「あなたがリラを処刑しようとするなら……僕は彼女を奪い返します。止めたいのなら、ご自由にしてください。そのときは、あなたたちが恐れたあの怪物とやらを引き寄せてみせましょう」

 僕はそれ以上の会話をしたくなくなり、口を閉ざした。和解出来るかもという考えが甘いことに今更気付き、エルフの族長を追い詰めてしまったのだ。長が立ち直る前にリラを救い出し、逃げなければ。彼らの手が届かないような場所に。ネオの救出もあるのに、いつまでもこの里に居続けるわけにはいかない。

 僕は無言で部屋を歩き、長の屋敷を出て行った。キラも無言でついて来る。彼は何も言ってこない。

「……甘かった。魔法が変わる原因を、醜さだけに囚われた考えを変えれたら、和解出来る。そう思ってた。でも、結局ケンカを売ったことになるよな、あれは」

 供養しながら肩を竦め、僕はキラに目を向ける。彼からは何も読み取れない。無表情な、そんな顔を向けてくる。

「後悔してるのか?」

「それが、全然。ああ言ったのは本音だし、微塵の後悔もないよ。ただ、自分の甘さに頭が痛くなってきた」

「後悔がないなら、さっさとリラを助けて、ネオを助けに行くぞ。人狼族は、エルフのように辛抱強くない」

「早く助けに行かないとまずい、てことか。走ろう、キラ。今なら、警備兵だって襲っては来ないはずだ」

 僕たちは喋っていた口を閉じ、走り出した。思った通り、警備兵は僕たちを襲ってこない。長と対面出来、一応客人として認められているからだ。後は、長にケンカ売った事態を知らされていないうちに、リラを助け出すだけ。明るい日差しが道を照らし、夜ほどの不便さが夢のようだった。


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