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第二十章

 踏み入れた森は、特に足場が悪いわけではなかった。キラの指示通りに木を避ける以外に、これといって障害物はない。そして、僕の視力も調節出来たようだ。昼間ほどではないが、うっすらと木々の配置が分かるようになってきた。

「キラ、そろそろ目が慣れたみたいだ。だいたいなら見えてきた」

「なら、そろそろロープを外すか。里にも近いみたいだからな」

 キラの目が空へと向かう。つられて空を仰ぐが、木の葉に遮られているためか、暗闇しか見えない。しかし、微かに焦げた臭いが鼻を擽った。里が近い証拠だ。

 腹の辺りで繋がっていたロープが外れる。それを一まとめにすると、僕に渡してきた。ロープを受け取り、袋へとしまう。

「特に障害物は見当たらないが……エルフ族は用心深いからな。油断は禁物だ」

「あぁ」

 キラの影がゆっくりと動いた。僕はキラを見失わないように、しかしゆっくりと歩いて行く。進めば進むほど、臭いがはっきりとしてくる。火が燃える音が耳に届く。そして、前方がほんのりと明かりが見えてきた。

「あった。エルフの里だ」

 ユラユラと揺れる松明が、門を照らしている。隣にいたキラの気配が消えた。すぐ近くにある木がカサカサと揺れる音が聞える。

「入り口付近に二人。どうやって侵入する?」

「入り口はどんな風になってる?」

「木で出来た門があって、その前に二人のエルフ族がいる。一人は槍、もう一人は弓だ」

「門がある上に武器持ちか。暗闇を味方につけても、簡単にはいかないな。門を越えてける高さ……じゃないよね」

「俺一人なら越えられる高さではある。」

「なら、僕には無理だ。交渉したところで相手にしてくれないだろうし」

「下手に出れば無残なことになるだろうな。エルフの里に、他の種族たちは近づこうともしないし、こんな真夜中だ。余計に警戒させるのが落ちだ」

 スッと、キラの瞳が近づいてきた。金色の瞳は門へと注がれたままだ。キラを見ていた目を、再び門へと向ける。明々と照らす松明のおかげで、キラが言っていたエルフたちが見えた。二人は無言で前方だけを見ている。しかし、気を抜いている様には見えない。おそらく、辺り一面に気を張っているはずだ。カバドでは感じなかった緊張感が背筋を凍らせる。しかし、怖じ気手居る場合ではない。一刻も早く、リラを助け出さないと。

「……キラ、片方なら気絶させれるか?」

「一人なら。だが、二人は少し無理だ」

「なら、僕が片方を引きつけるから、そのうちに残った奴を頼む」

「引きつけるって、どうやって?」

「古典的な方法だけど……まぁ、見てて」

 そう言って、僕はゆっくりとキラから離れて行く。袋にしまったロープを取り出し、手探りで木の柱にくくりつける。片方を手に巻きつけ、準備は完了。僕はキラに向き直り、頷いて見せ、近場にあった小石を投げて草むらを揺らした。すると、二人いたエルフ族のうち弓を持っていた一人が僕の方へと近づいてくる。彼の足が草むらに入ろうとした瞬間にロープを一気に引っ張った。木に結ばれていたロープがピンッと張られ、エルフ族の足を引っ掛けた。しかし、すぐさま受身を取られてしまった。

「……チッ……」

 軽く舌打ちし、彼の背後へと回った。いまだ無防備なエルフの首に手刀を入れる。その体は小さな悲鳴を上げ、暗闇へと倒れた。もう一人に顔を向けると、彼の体も地面へと倒れていく。どうやらキラも、相手の足元を崩させたようだ。エルフ族が動かないことを確認し、こちらに手を振ってくる。それを見て、キラに近づいた。

「真正面から行くしかないよね、多分」

「ま、一口があるわけだしな。だが慎重に、だ」

「そうだな」

 僕たちは絵の前にそびえる門へと手をかけた。重たい門をゆっくりと開け、里の中を見回してみる。さすがに夜中ということもあるのか、道通りに人影は見えない。しかし、家々の窓から明かりが零れている。家の造りはログハウスのようだ。頑丈で、太目の丸太を組み合わさって出来ている。

 窓から零れる明かりのおかげで、道や建物が分かった。だが、やたら明るい場所が目についた。隣を歩いていたキラに目を向けるとコクリと頷いてくる。僕も無言で頷くと、明るい方へと向かった。

 家の角から覗いてみると、明らかに怪しい建物があった。しかも、数人の警備兵らしき姿もある。彼らは無言で別々の方角を見張っていた。

「警備兵だな。だとしたら、あそこにリラがいる」

「匂いでもするのか?」

「焦げ臭い中に、微かに、だけどな。お次は、どうやって忍び込むか」

「あの時のやり方は無理だな。人数が多い。居ないことを願ってたけど……そうも言っていられない。どうにかして入らないと」

「そうは言っても、どうする?」

 キラに問われ、僕は考え込んだ。その時、ふと建物の先にあるものが目に飛び込んできた。それは、どうやら湖のようだった。明かりを反射して、ユラユラと揺れている。キラに聞いてみると、彼も同意した。どうやらあの湖畔がエルフ族の水源なのだろう。

「あそこから建物に近づくか。それとも、水を使って音を立てるか」

「どちらにしても、子供だましにしかならない。数人とはいえ、全員が離れるわけないしな」

 すぐさま否定され、僕は苦笑を漏らす。そのとき、急にノイズのような音が響いてきた。その聞き覚えのある音に、僕は眉を顰めた。

「どうした? リュウヤ」

 僕の様子に気付いたらしく、キラが声をかけてくる。だけど、それに答えている余裕がなかった。僕は知っている、この感覚を。この音を知っているんだ。

「……アイツが、来る」

「あいつ?」

 体が震えてくる。その振動に合わせるように、黒い小さな玉がいくつも地面から出てきた。

「バグ……」

 呟いたキラが近いはずなのに、遠くに聞える。そんな矛盾を感じている僕の先で、バグは一つへと集まっていった。

 悲鳴が当たりに響き、僕たちは困惑した。何故なら、バグは過去に柵を持つ者にしか見えないからだ。しかし、目の前に現れたバグを、明らかに他のエルフたちは認識していた。

 警備兵達の悲鳴を聞いて、家に入っていたエルフたちがソッとへと出てくる。彼らもまた、バグを見るなり声を上げていた。バグはそんな人々に目をくれず、リラがいるであろう建物を呑み込んだ。

「っ……リラっ!」

 僕は堪らずに叫ぶが、その声は人々の悲鳴の渦に呑まれていった。

「リュウヤ!」

 走り出した僕に向かって、キラが叫んだ。しかし、制止する声を振り切って、僕はバグに向かって直進する。腕で顔を守りながら、バグの中へと突っ込んで行った。

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