第十八章
西カバドの姿は、僕たちがいた東カバドと大差なかった。けれど、売り物は水を中心とした物が多い。キラに聞けば、水源であるエルフの里や獣人谷が西カバドより近いから、らしい。それでも、獣人谷はアクアラインの直線上にあるから、東カバドにも水の供給はあるようだ。しかし、西カバドに比べれば少ないもの。東カバドが食料売り場なら、西カバドは水売り場といったとこだろうか。
辺りの出店に目をやりながら、僕たちは更に西を目指していた。カバドを抜け、草原を抜ければ、エルフの里に着ける距離だ。
「歩き続ければ約一日。夜には着ける。後は闇に紛れてリラを助け出す」
「あぁ。エルフ族は、仲間には寛大でも、裏切り者には容赦ない一族だ。聞く限りじゃ、リラは仲間を恐れている。だとしたら、裏切り者だと判断していいだろう。警備は厳しいだろうな」
「僕たちが行くまで無事だといいけど……」
「そうだな」
重苦しい空気のせいか、体まで重たく感じる。気を張っていなければ倒れてしまいそうだ。
僕たちは西カバドの出入り口から、草原へと足を踏み入れた。
龍也と分かれてから、数分後にリラは捕まっていた。一目見た瞬間から、彼女は彼に恐怖を覚えていた。何故なら、その同族の首にあるものをかけていたからだ。それは小さな獣の爪。そして、凍り付いてしまいそうな瞳。獣の爪を首から下げている同族は裏切り者を討伐する任務を受けている証だと、母から教わっていた。だからこそ、リラは龍也から離れたのだった。一緒にいれば、彼もただでは済まないだろう。そして、ネオやキラの身も危険になる可能性がある。仲間を捕まえさせるわけにはいかなかった。
「……」
今、彼女は冷たい牢屋の中にいた。少女の手には似つかわしくない鉄の鎖が自由を奪い、一日の時が過ぎた。牢屋の外には二人の見張り役が立っている。彼らの首にも小さな獣の爪が吊るされている。だが、リラは逃げようとも思っていない。
ただ、自分の死を漠然と感じていた。