第十六章
ベッドに倒れこむと、僕は溜めていた息を吐き出した。キラに何も聞けなかったことより、聞いてしまったことに後悔しているからだ。誰しも触れられたくない記憶がある。それを不用意に触ってしまったような感覚。触りたいと願っていなくても、傷つける意図がなくても、何気ない一言で全てを壊してしまう。地雷を踏んでしまったのだ。入られたくなくて張り巡らされた地雷を、僕は不用意に踏んだ。
「……」
こんなとき、ネオとリラが居て欲しいと心底思った。考えても胸に広がった苦味は拭えない。
「ネオ、リラ……」
どんなに思いを馳せても、二人から返事はない。暗闇が増す室内を見回し、目を閉じた。しかし、寝付けない。不安が胸を苦しめ、出口のない迷路へと思考が運ぶ。止まらなくなる。
「……」
一度大きく息を吐き出し、目を閉じる。耳で時計の音を聞きながら、シンと静かな暗闇へと意識を落とした。
翌日、キラとは気まずいままだった。けれど、今はそんなことを言っている場合ではない。それは、キラも一緒みたいだった。今は、何よりも二人を助けに行かなければならない。
「キラ、二人の居場所に検討つく?」
「おそらくアイツらの故郷……エルフの里と獣人谷だ」
「じゅうじんだに?」
「ネオたち、人狼族の領域だ。俺たちの世界には大雑把に分けると、人狼族、エルフ族、猫人族に分けれる。これらの一族が主な住人だが、一族とは違う種族は亜種といわれている。亜種の領域なんてものを持たない放浪の一族。世界の中心的な街、このカバドで暮らしている」
「そっか。なら、二人の故郷に乗り込むのが手っ取り早いか」
「そう言うことだが……人狼族の鼻が厄介だ。それを考えると、リラから助けに行ったほうがいいだろうな」
キラの話を聞き、僕は息を吐き出した。二人を助けに行く。それは、彼らの問題に口を挟むということになる。連れ去られた理由すら分からないというのに。
助けに行きたい。けれど、足手まといにならないだろうか?
僕は戦えるわけじゃないし、ましてや武器を持たされても使えない。
「それでも……助けに行きたい」
僕はぐるぐると回転する思考を放り出し、有りのままに答えた。
「そうだな。それじゃ、助けに行ってやるか」
体を立たせ、キラはニヤリと笑う。そして、僕らは旅支度をしていく。非常食に、キラから借りた短剣。用意に集中しようとしていた。けれど、いくら思考を投げ出しても、考えずにはいられない。
自分に何が出来るのか。
そして、最悪の状況すらも。
これは楽しい日々を取り戻すための戦いだ。それを深く心に刻むのと同時に、僕は袋の蓋を閉じた。