第十四章
家に入った途端、体が倒れた。今更ながら体が震え、思うように喋れなかった。二人の介抱のおかげで喋れるようになったときは、既に数十分が経っていた。
「何があった、リュウヤ?」
「リラが……分からないけど、急に走り出して……それから、何かエルフっぽい人が、リラを追って……」
頭が混乱しているせいか、言葉がまとまらない。けれど、それだけで何かを察したのか、二人は急いで家を飛び出した。僕も追おうと体を起こすが、疲労困憊のようで再び倒れてしまった。握り締めた拳に力を加える。
「くそっ!」
動かない体が歯痒い。気持悪さが喉まで押し寄せてくる。それでも、体は疲れきっていた。そのことを理解し、冷静になろうと深呼吸を重ねる。ゆっくりと息が整い、体の力が
抜けていく。
「……よし」
再び力を入れると、今度はちゃんと立ち上がることが出来た。僕はドアを閉めると、無我夢中で走り出した。
リラのことを龍也から聞いた二人は、カバドを当てもなく走っていた。慌てていた龍也の台詞からは何があったかは分からない。しかし、リラに危険が迫っていることは直感出来た。
「ネオ、二手に別れるぞ!?」
「あぁ。俺は西に」
「俺は東を捜してみる。最悪の場合、日暮れには家に戻るぞ」
「あぁ!」
素早く役割を決めると、二人はその場から別々の方向へと足を向けた。胸に嫌な予感が走る。それは二人とも同じ予感だった。
西に進んだネオは、嗅いだことのある匂いに立ち止まった。辺りの匂いをクンクンと嗅ぐと、彼の顔から血の気が引いていく。
「久しぶりだな、ネオ」
目の前に現れた同族の姿を見るなり、ネオは一目散に逃げようとした。しかし、一人だけではなかったようだ。三人の人狼族がネオを囲んでしまった。
「……キオンッ」
最初に現れた同族に向き直り、憎悪を込めて名前を呼んだ。キオンと呼ばれた青年は余裕たっぷりな笑みで、ネオを見下ろした。
一方、東へと向かっていたキラは足を止めていた。彼の周りにも猫人族が四人ほどいる。いつも服の下に隠してある小型のナイフを構え、キラは全身の毛を逆立てていた。
「退けっ、お前ら!」
「そんなちっさなナイフでどう戦うんだ? キラ」
「うるさい! 本来の素早さを捨てたお前らに何が分かる!?」
「素早さとは俺たちの誇り。猫人族にとっては、な」
「その誇りを失ったお前らに用はない! さっさとテリトリーに戻れ!」
いつになく大声を立て威嚇するキラ。しかし、彼らには何の意味もないようだ。クスクスと嫌らしい笑みを浮かべている。
「俺たちは、お前を……」
音がかき消えてしまうような台詞に、キラは同族を睨みつける。何の合図も無しに、互いの金属がぶつかった。