第十二章
目をゆっくりと開くと、僕はベッドの上にいた。三人から与えられた部屋の天井、視界に入っている三人の心配した顔。目を覚ました僕を見ると、三人はホッと息をついた。
「ネオ……リラ……キラ……」
小さな声で三人の名前を呼んだ。すると、リラが怒ったような表情を見せた。初めて見る怒った顔だ。
「リュウヤのバカ! 生はダメって言ったでしょ!?」
これまた初めて聞くリラの怒声に、僕はビックリして目を見開いた。
「ご、ごめん……」
そのあまりの勢いに、僕は喉に言葉がつまりながら謝った。それを聞き、リラは盛大に息を吐き出すと普段と変わらない表情になる。
「二度と生で食べるような真似はしないで」
リラはペタンと床に座り込むと、顔をベッドに押し付けた。よほど心配させたようだ。僕はシュンと頭を垂れた。
「ごめん、リラ。でも味が分からないと、どんな料理にすればいいのか、分からなかったんだ」
「分かってるわ。ごめんなさい。私も怒りすぎたわ」
沈んでいるリラの頭を、僕は優しく撫でた。驚いた表情で僕を見てくる。
「小さい頃、落ち込んだ僕の頭を撫でてくれたんだ。それが、とても安心できたから」
「……そうね。ありがとう、リュウヤ。でも、私たちのために無理はしないで」
「分かった。約束するよ。もう無茶はしない」
「うん」
ホッと安心したような表情をしたリラに、僕も胸を撫で下ろした。怒られたのは何年ぶりだろうか。ひきこもった暗い部屋で呼んでくる声は様々だった。それがノイズのように思えて、ヘッドフォンで蓋をして曲を聴いていた。そうすることで、自分が嫌だと思うことを避けてきたんだ。
「リュウヤ?」
黙り込み、考え込んでしまった僕を、リラは心配そうに顔を覗いてきた。この時ばかりは、偽りの仮面をつけたように小さく微笑を向ける。
「何でもないよ。それより、さっき無茶をしたおかげで料理ができそうなんだ。また食べてくれるかい?」
「もうっ……大丈夫なの? また魔法をかけようか?」
「大丈夫だよ。それじゃ、作ってくるから待ってて」
僕はベッドから抜け出すと、キッチンへと足を運んだ。扉を閉めると、微かだがネオたちの声が聞えてくる。
「何だか……変だったね、リュウヤ」
「あぁ」
「さっきの……凄く冷たく悲しい顔。別人みたいだった」
「リュウヤにも何か……だよ」
「でも……こわ……」
三人の言葉が耳に届いていたが、あえて何も言わずに部屋から遠ざかる。距離が離れ、小声の会話が聞えなくなっていく。ついには何も聞えなくなった。
昼頃ということもあるせいか、キッチンには陽の光に照らされていた。電気をつけずとも十分な明るさだ。果物を袋から取り出し、それぞれ一列に並べてみた。味見をした果実はリンゴのような丸形の果物で、味は渋柿みたいだった。齧ったのは失敗だ。あれほど濃厚な味なら舐めるだけでも分かるはず。
リンゴのような果物を脇に退け、他の果物を手に取った。サクランボのような小さな実が二つついていいる果物やハート形の真っ赤な果物。種類は全部で三つだった。サクランボのような果物を舌で舐めると、リンゴの味のような瑞々しく甘い味。ハート形の果物は舐めただけで舌が燃えそうなぐらい辛い味だった。
「辛味と甘味と渋味、か」
三つの果物を並べ、僕は頭を悩ませた。机にあった料理本をパラパラと捲っていく。しかし、これといった料理はない。
「あれにするか……」
僕は冷蔵庫からポルンを取り出した。蓋を開け、中身を確認する。
「これぐらいあれば……」
中身の量を目測し、ボールの中にポルンを全て流し入れた。ヨーグルトのような少しドロドロとした中に、種を取り、一口サイズまで切った果物を入れる。それを少しかき混ぜれば意図も簡単に完成だ。それをスプーンで一口味見してみる。
「……こんなものかな」
辛味と渋味と甘味が、生で食べたときより控えめな味が口の中へと広がった。
「これぐらいなら食べれるね」
スプーンを流しへと入れ、ラップらしき代物を探してみた。しかし、さすがにそこまではないらしく、鍋の蓋をボールに被せる。そして、それを冷蔵庫の中へとしまった。