第51話 亀之助の力
「楽だな……」
あまりに順調過ぎるため、そんな言葉が口から漏れ出てしまった。
出てくる魔物は、先刻のダツみたいな魔物ばかりで、接敵した傍から地面に落ちるため、俺が剣を突き立てるだけで戦闘が終わってしまう。
単純作業過ぎてつまらなさも感じてきているが、凜々花を救うために、ここで止めるつもりはない。
「……そういうことか」
数時間に及ぶ探索の末、次に繋がる扉を見つけた。
そう、階段ではなく扉。それもボスとフィールドを隔てるボス部屋の扉だ。このダンジョンは一階層のみの超簡単なダンジョンだった。
しかしボス部屋があったのは、海中だった場所。つまり亀之助が居なかった場合、見つけることすら難しかったはずだ。このダンジョンは魔物の強さではなく、フィールド効果という鉄壁の守りでボス部屋を守っていたのだろう。
「何処かズルい気もするが、今はそんなこと言っていられない……行くぞ」
「コン!」
「ポン!」
「ニャン!」
「カメ!」
扉を開ける。
そこに広がっているのは、巨大な洞窟に、下部に溜まっている海水。足場にできるような岩場がいくつか。
人間が戦うとなれば、かなり苦戦しそうな場所だが、亀之助が居る俺たちにとっては、そこまで苦戦する場所ではない。
「あれがボスか」
そんなボス部屋の中央、水面から顔を出している魔物が居た。
巨大な蛸。目にした瞬間はそう思ったが、頭の中の知識を総動員して気付く。あれは蛸なんて優しい存在ではなく、クラーケンと呼ばれる伝説上の生物を模した魔物だ。
蛸を巨大化させ、化け物とした存在、それがクラーケン。
まあつまり、巨大な蛸だな。
「ゴン太、“狐火”を溜めておいてくれ」
「コン!」
ここがボス部屋である以上、消耗なんて考えなくていい。
最初からこちらの最大火力である“狐火”を準備しておいて、溜まるまでは俺たちで時間稼ぎを行う。それが最適解だ。
「たぬ吉、“湧沸”で蛸足の牽制を頼む」
「ポン!」
蛇のようにうねる熱湯が、これまたうねうねとしているクラーケンの足を突き刺さんとする。巨体であるため、ダメージ自体はほぼないに等しいが、相手に鬱陶しい思いをさせるだけで、“湧沸”は意味を成す。
こちらの目論見通り、湧沸によるダメージを嫌がったクラーケンは、己の足をこちら側には持って来ようとはせず、避けることに徹していた。
「このままいけば、簡単でいいんだが……まあそう簡単には行かないよな」
クラーケンは、避けるのとは別の動きを見せた。
二本の足を使い、その巨体を持ち上げる。そして跳ねた。それは俺らにとって予想外の動き。だがそんなことは言っていられない。
「逃げろ!!」
俺らが居るのは、溜まった水を、亀之助の力によって押し出すことによって作り出した場所だ。つまり亀之助が居なければ、水中へと戻ってしまう危険地帯と言っても過言ではない。
「あっ」
動きが遅い亀之助のことを持ち上げてしまった。
亀之助が水を押しのけられる条件は一つ。海底に足を付けていること。そして今亀之助の身体は浮いている。
つまり、押しのけられていた海水が、一斉に押し寄せて来た。
「ガボッ」
急なことで、大量に水を飲んでしまう。
意識がブラックアウトしてしまいそうになるが、何とか気を保ち、亀之助を地面に降ろす。一先ず危機は避けることができたが、まだまだ危機は終わっていない。
「はぁはぁ……逃げきれない」
見上げた先には、落下して来るクラーケンの巨体がある。
あんなものに踏みつぶされれば、俺たちではひとたまりもないだろう。だが亀之助の移動速度では逃げ切れない。
「……ゴン太、溜まり切ったか?」
「くーん」
質問に対し、ゴン太は悲しそうにしながら首を横に振った。
俺らに残されている選択肢は、“狐火”の力を使って一撃でクラーケンを仕留め、魔石へと変えること。しかし“狐火”は最大まで溜まっておらず、クラーケンを倒し切れるかどうかは、五分と言ったところだ。
「だが溜めている時間はない。発射してくれ」
「コン!」
“狐火”が射出された。
刹那、俺らの視界を埋め尽くさんばかりの白い輝きが発生する。あまりの眩しさに、目を瞑ってしまい、結末を見届けることなく、俺の意識はブラックアウトした。
次回にでも章が終わりそうな展開ですが、まだまだ続きます。
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