第50話 亀
「寒い……」
トンネルを抜けるとそこは雪国だった。
というわけではなく、飛行機を降りた先に広がるのは雪の絨毯。雪国であることには違いないが、トンネルは抜けていない。
その後、色々と必要な手続きを終え、今日から止まるホテルに来ている。ギルドと提携しているホテルを取ったため、ゴン太たちも泊まれて、比較的安く済んだ。
「よし、もう一度状況を確認するぞ」
「コン!」
「ポン!」
「ニャン!」
「カメ!」
ゴン太たちと顔を合わせ、これからの行動計画を立てる。
今までは凜々花と共に立てることが多かったが、彼女は東京の病院で眠り続けているため、喋ることはできないが、意思の疎通はできるゴン太たちと話し合う。
「俺らは未踏破ダンジョンである【内浦湾ダンジョン】に挑む」
「コン!」
【内浦湾ダンジョン】。
北海道の尻尾のようにくるっとしている部分の内側にある湾。そこの中心にできたダンジョン、つまり海中にある変則的なダンジョンだ。
このダンジョンは今冬にできたばかりで、近年稀に見る大寒波も重なり、誰もダンジョンに挑んでいなかった。しかし春になれば、初回踏破を狙う冒険者たちがこぞってやってくるらしく、そのため俺たちは冬が終わるまでに踏破しなければならない。
「……今回の探索は、亀之助に掛かっているから、頼んだぞ」
「カメ!」
俺は【内浦湾ダンジョン】海中にあると聞いて、直ぐに【キャンプダンジョン】へと向かい、初めてキャンプを目的としない探索を行った。しかし稀にゴブリンが現れる程度で、求めている魔物と出会うことはなく、結局諦めてキャンプをしていた際に出会った亀の魔物だ。
外見はゴツゴツとしており、ワニガメに近いが、性格に関しては真逆。おっとりとしていて、とても温厚、そしてよく甘えて来る子だ。
「じゃあ行こうか」
「コン!」
「ポン!」
「ニャン」
「カメ!」
準備を終えた俺たちは、ダンジョンのある座標から、最も近い海岸に来ていた。そして亀之助が先陣を切って、海の中に足を踏み入れた。
そこには不思議な光景が広がっている。亀之助が足を踏み入れた瞬間から、亀之助を中心として一定範囲の水が消えていた。正確に言えば、押しのけられている。
「じゃあ行くぞ」
これが亀之助の能力の一つだ。
一応自治体には、ギルドを通して許可を取ってあるから、気にせず進んで行く。水に触れてないとはいえ、そもそもの空気が冷たいため、寒い。全身が凍える。暖を取るために“狐火”を出してもらいたいが、地上でのスキルの行使は、許可されたものか、緊急時を除いて基本的に禁止とされているため、使えない。
「あと少し頑張ろうな」
「コン!」
「ポン!」
「ニャン!」
「カメ!」
うん、一番頑張らないといけないのは俺みたいだ。
こういう時、毛に包まれている動物を羨ましく感じる。ただ、日常での体毛は邪魔でしかないため、総合的にはいらないけどな。――髪の毛は別だ! 今はフサフサだが、いつ後退するか分からない。だから髪の毛だけは奪うなよ!!
寒さで頭がおかしくなっていたみたいだ。誰に奪うなよって言っていたんだろうな。
「カメェ」
「……ここが【内浦湾ダンジョン】か」
本当に海中に浮かんでいる。
ダンジョンという異界の入口が、海中に浮いていた。とても違和感のある光景だが、俺たちが近付くと更に違和感が増える。海水が押しのけられたことにより、入り口は宙に浮かんでいるように見えた。
「行くぞ」
「コン!」
「ポン!」
「ニャン!」
「カメッ!」
輝きに包まれ、目を瞑る。
光が力を失い、再び目を開けることが可能になると、そこに広がっていたのは、視界を埋め尽くす水面。鼻に香る潮の香りが、ここが海であると伝えて来る。
「ここからも頼むぞ、亀之助」
「カメェ」
再び亀之助が先陣を切って、海に入る。
地上と変わらず海水が押しのけられた。その瞬間、何かと目が合った。
「あっ」
その何かが、水の中から飛び出してきた。
ぺちぺち
うん、ぺちぺち言ってるな。ダツのように口が尖っている魚型の魔物が、海水が押し出されたことによって、地上となった場所でぺちぺちと跳ねている。
海中で出会う、もしくは船に乗っている際に襲ってきた場合、厳しい相手なのかもしれないが、今の姿は可哀そうにも思える。
「楽にしてやる」
【長谷部】を魔物に突き立てた。
見た目通り耐久力は低いようで、一撃で魔石へと変わる。その大きさは【アニメックスダンジョン・一階層】で出現するゴブリン程度だ。決めつけるのは良くないが、そこまで深いダンジョンではなさそうに思える。
「亀之助、進んでくれ」
「カメェ」
――関東某所 ???side
「とある冒険者に計画を邪魔されたそうだ」
壇上に立つのは【呂布】。
彼が放つ不機嫌な空気に、構成員たちは身体を震わせていた。
「高額な薬を無駄にさせられた以上、報復が必要だ」
構成員たちが生唾を飲む。
「孕んでいた悪意は、彼の地北海道にて狂乱となる。“【ダンジョン嫌悪派】は日本のために”」
「「「“【ダンジョン嫌悪派】は日本のために”」」」
【ダンジョン嫌悪派】の構成員たちが、一斉に北海道へと向かう。
その中には、最高幹部である【呂布】の姿もあった。
【ジャスケダンジョン】でたぬ吉の“湧沸”によって火を消したお香には、魔物を引き寄せる効果がありました。
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