第49話 撤退戦 下
「はぁはぁ」
俺たちは囲まれていた。
五体のウルフに進む道を塞がれ、後退しようにも三体のウルフがそちらの道を塞いでいる。
つまり累計八体のウルフに囲まれていた。
「俺とたぬ吉で後ろのをやるから、ゴン太とタマは前方の五体を頼めるか?」
「コン!」
「ポン!」
「ニャン!」
俺とたぬ吉は、ゴン太とタマのことを信頼して、五体のウルフに背を向け、三体のウルフと向き合う。
慎重に凜々花のことを地面に降ろし、【長谷部】を構える。相変わらず振り回すには重すぎるが、普通の剣を使うよりは火力が出るはずだ。
「「「グルル」」」
三体のウルフが唸りながら、こちらの動きを窺っているような素振りを見せている。二対三と数で負け、凜々花という守らなければならない存在も居る。こちらから動くのは難しいから、ウルフたちの動きを待つしかない。
「……」
「……」
後ろが気になり、振り向きたい気持ちに駆られるが、隙を見せるわけにもいかず、全身から汗を流すことしかできない。
「「「ワン!!」」」
ウルフたちが動いた。
爪を立てながら接近して来る一体のウルフ。
「くっ――」
こちらは剣を横向きにして、受けるしかなかった。
相手との距離が開いていないというのと、凜々花が近くに居るため、【長谷部】を振り回しにくかったからだ。
「たぬ吉!」
「ポン!」
俺を引っ搔こうとしているウルフの頭へと、たぬ吉の“湧沸”が襲う。
熱湯はウルフの頭部を貫き、一撃で魔石へと変えた。だが残った二体のウルフは、それを好機と挟み込むように攻撃してくる。
「――っっっ」
背中に激痛が走る。
一体のウルフは斬り伏せることができたが、その隙を狙った最後のウルフに背中を引っ掻かれてしまった。引っ掻くと聞くとそこまでに感じるが、剣よりも鋭い爪から放たれる引っ掻きは、斬撃と言っても過言ではない。
「ポン!!」
空中に居るウルフへと、たぬ吉の“湧沸”が炸裂する。
これにてこちらの戦いは終わった。残るはゴン太たちが戦っている五体のウルフだけだ。
振り返った俺らの視界に入ったのは、蹂躙が起きている光景だった。
こんなに冷静でいるんだ。当然、ゴン太たちによる蹂躙劇だ。
ゴン太の“陽炎”によってウルフたちの連携は無へと帰し、タマの音による斬撃が混乱に塗れたウルフたちを傷つけていた。一撃で倒すだけの威力は出ていないみたいだが、“陽炎”のお陰であまりにも一方的な戦いを展開しており、若干引いてしまう。
「すごいな……」
「コン!」
「ニャン!」
丁度戦いも終わったみたいで、ゴン太たちが駆け寄ってくる。
直前に引いてしまった以上、若干の引け目を感じるが、表情には出さずに褒めながら頭を撫でる。
こういったポーカーフェイスは、社畜時代に散々磨かれてきたから、誰が相手でもバレない自信があった。
「あと少しだ。頑張ろうな」
「コン」
「ポン」
「ニャン」
凜々花のことを背負い直し、ダンジョンの入口を目指して再び歩き始める。ウルフに刻まれた背中の傷が、凜々花の胸に押されて痛むが、ここは我慢して進む。
そして数度のウルフとの戦闘を経て、ようやく【ジャスケダンジョン】入口に辿り着いた。
「ようやくだ……ギルドに行って、病院に行って……」
いや、そんなことはいい。今はダンジョンからの脱出をしなければ。
そんな思いのまま、入り口を抜ける。いつもは嫌な気持ちになるカンカン照りの太陽が、今ではとてもありがたく感じた。
「まずはギルドに報告へ行かないと」
車でいつものギルドへと向かった。
いつもは懐かしい音楽が流れる車中も、今だけはエンジン音しか聞こえてこない。
そして凜々花の父親だと思われる男が長を務める、ギルドへと無事に辿り着いた。
「~~~」
受付にことの顛末を説明すると、想像通りギルド長とのヒアリングを行うこととなった。
「なるほどな、謎の男による襲撃があったと」
「はい、その後から凜々花が起きなくなって」
「……眠っているだけに見えるが、全く起きないと?」
「はい、声を掛けても、おぶった状態で戦闘を行っても、車に乗せても、何をしても起きません」
「……状態異常だろうな」
「状態異常ですか?」
状態異常と聞いて思い浮かぶのは、某ポケットなモンスターのゲームで出て来る火傷や麻痺、毒だが、凜々花はそのどれにも該当しないように思える。
「ああ、回復系のスキルか、ポーションを使わなければ回復しないもの、それが状態異常だ」
「……ということは、凜々花は眠ったままになるということですか?」
全身から汗が噴き出る。
凜々花が眠ったままなど、嫌だ。
「回復させなければな。だがこの国には回復する術を持つ者が居る」
「何処にですか!?」
「……京都御所。彼女は【聖女】と呼ばれ、天皇家に属する御方だ」
「……伝手はないですよね」
「ああ、俺に伝手はない。だが接触できるチャンスはある」
「どうすればいいですか!!?」
「……未踏破ダンジョンの踏破だ」
「――」
それは冒険者にとって最大の功績であり、最も難しい挑戦だ。
基本的に簡単なダンジョンは既に踏破済みであり、残っているのは【富士山ダンジョン】や【魔境群馬ダンジョン群】と五十階層を超えるであろうダンジョンばかりだ。
「そんな君に朗報がある」
「なんですか?」
「比較的簡単な未踏破ダンジョンがある」
「何処ですか!?」
「――だ」
「――っ」
俺の次の目的が決まった。
――【第3章 和を奏でる三本線】 完
あまり関係ないですけど、北海道は大量のダンジョンが生まれています。
これにて第3章完結となります。
【第4章 北の大地での舞踏会】もお楽しみください。
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