第48話 撤退戦 上
「――」
目が覚め、飛び起きた。
周囲を見渡すと、心配そうな顔でこちらを見ているゴン太たちの姿があり、隣には未だに眠っている凜々花の姿がある。
「……凜々花は一回も目覚めてないのか?」
「……コン」
代表してゴン太が大きく頷いた。
たぬ吉もタマも頷いている。そうか、凜々花は目覚めてないのか。俺がどの程度眠っていたのかは分からないが、ゴン太たちの深刻さから、短くはないのだろう。
「一度帰るぞ」
「コン」
「ポン」
「ニャン」
眠り続ける凜々花のことを背負い、ダンジョンからの脱出を目指して進む。【気配察知】がない以上、魔物からの奇襲は自分らで気付かねばならないため、いつも以上にゴン太たちに頼らなければならない。
「たぬ吉、頼む」
「ポン!」
近付いて来るヒトダマに対し、たぬ吉の“湧沸”が炸裂する。蛇のようにうねる熱湯は青白い炎を貫いた。だが一撃で倒せるほど“湧沸”の威力は高くないため、反撃されてしまう。
「ゴン太、“狐火”で相殺しろ」
「コン!」
ヒトダマが射出してきた巨大な炎に対し、ゴン太の“狐火”が直撃する。
“狐火”は魔法を相殺するどころか、魔法を突き抜けてヒトダマへと迫った。ヒトダマに避ける余裕はなく、そのまま着弾する。煙が晴れた先にヒトダマの姿はなく、あるのは数秒前までヒトダマだった魔石のみだ。
「進むぞ」
「コン」
「ポン」
「ニャン」
魔石を拾い、進むための足を再び動かし始める。
凜々花が目覚めたら、またキャンプに行こう。そして程よくダンジョン探索をして行けばいい。だから寝たきりなんてやめてくれよ。
「コン!」
またヒトダマか。
ゴン太であれば一撃で倒せるだろうが、まだまだ続くことを考えると、温存も考えて行かないといけない。ならばタマに任せるのが最適だな。
「タマ、頼む」
「ニャン!」
タマが三味線をかき鳴らす。
いつも通り発生する斬撃は、ヒトダマごと広範囲の森林を破壊した。
「今のうちに急ぐぞ」
開けた森を進んで行く。
見通しが良くなったことで、ヒトダマとの接敵を極力避けられるようになり、無事二階層へと繋がる階段へと辿り着いた。
「はぁはぁ、あと二つだけだ」
口ではそう言えるが、内心は違う。二階層も一階層も、俺らにとって難敵の魔物が生息している。二階層のフォレストエイプも、一階層のウルフも、凜々花の【気配察知】がなければ、一方的に攻撃を仕掛けて来る相手だ。
つまりあと二つだけだなんて言っていられない。二つとも死地であるのに変わりない。
「行くぞ」
「コン」
「ポン」
「ニャン」
湿った落ち葉を踏みしめる。
背負った凜々花の重みもあって、足元が滑りそうになるが、何とか踏ん張って進む。
「いきなりかよ」
三体のフォレストエイプが姿を見せた。
こちらが先に気付けたのは運が良かったが、有利な状況になったとまでは言えない。既に向こうもこちらには気付いており、警戒心から攻撃を仕掛けてこないだけに過ぎない。
「……」
「……」
先に動いた方が負け、そんな空気が流れる。だが俺らには早く帰らなければならない理由がある。
「……ゴン太!」
「コン!」
“狐火”がフォレストエイプを襲う。
しかしある程度距離が空いていたため、直撃することはなかった。だが俺らの攻撃手段は、“狐火”だけではない。
「たぬ吉、タマ!」
「ポン!」
「ニャン!」
“湧沸”と音の斬撃が、“狐火”を避けたことで隙を晒しているフォレストエイプたちへと直撃する。その攻撃で二体のフォレストエイプを倒すことができたが、残りの一体は逃れたようで、既に投石モーションを始めていた。
「チッ、借りるぞ――」
【長谷部】を鞘から抜く。
あまりの重たさに、全身から汗が噴き出すが、身体に鞭を打って振り抜いた。発生した斬撃は、飛んできた石ごとフォレストエイプの身体を切断した。
「はぁはぁ、【剣術】スキルの有無はここまでの差があるのか」
凜々花が使った際も、多少の疲労が見受けられたが、ここまで酷い物ではなかった。俺と凜々花の差、それは【剣術】スキルの有無しかない。しかしその有無が、ここまで差を作ってしまうとは……やっぱりスキルの重要度は高いんだな。
「ふぅ……よし、行くぞ」
呼吸を整え、階段へと向かう。
その後、何度かフォレストエイプとの接敵があったが、初戦ほど苦戦することはなく、殆ど一撃で片を付けることができた。
「あとは一階層だけか……頑張ろうな」
「コン」
「ポン」
「ニャン」
ここに居るのはウルフ。
俺らが【ジャスケダンジョン】からの撤退を決めることになった魔物であり、最も厄介な相手だ。
あいつらは機動力が高く、“狐火”や“湧沸”など遠距離攻撃をメインウェポンとしている今の俺たちにとって、まさに天敵。
「行くぞ」
「コン」
「ポン」
「ニャン」
次回【撤退戦 下】です
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