第46話 【ジャスケダンジョン・三階層】での異変
またまた【ジャスケダンジョン】へと来ている。
凜々花の【気配察知】を頼り、俺たちは無駄な戦闘をこなすことなく、三階層へと繋がる階段まで来ることができた。
「このまま休憩なしで大丈夫か?」
「はい、私は大丈夫です」
「コン」
「ポン」
「ニャン」
全員大丈夫そうだったため、階段を降りる。
階段を降りた先に広がるのは、二階層と変わらず深い森林。二階層までは空からの木漏れ日が差し込んでいたが、この階層は木漏れ日すらも塞ぐ巨大な木々が天井になっていた。
「暗いな」
「そうですね。【岡崎城ダンジョン・二階層】みたいに暗いです」
「確かにな」
あっちは夜だったが、僅かな輝きを放っていた苔があって、多少の光源はあった。しかしここはそれすらもなく、天から注ぐ僅かに漏れ出る光のみ。
「ずいぶんと難しいところだな」
「【気配察知】は常時展開していきます」
「ああ、頼む」
森に足を踏み入れた。サクッという音が耳に入る。
日差しが差し込んでいないにも拘わらず、地面を覆い隠している落ち葉の絨毯が乾いているのは、生息している魔物が原因だろう。
「来ます!」
真っ暗な場所にも拘わらず、目の前の魔物を視認することができる。
それはゴン太の“狐火”のように宙に浮かんでいる青白い炎、“ヒトダマ”と呼ばれている魔物だ。
「来るぞ!」
ヒトダマが使ってくるのは魔法。
自分よりも大きな赤い炎を生み出し、車程度の速さで飛ばしてくる。
「くっ!」
なんとか剣の面に当てたことで、身体に着弾することはなかったが、熱自体を消し切ることはできず、超高温の放射熱が皮膚を襲った。
「私が行きます!」
凜々花は俺を追い越して、ヒトダマの下へと駆ける。
剣先は地面からかなり離れ、ほぼ平行と言ってもいい。そして今までのように敵の少し手前で停止。その勢いのまま剣を横薙ぎにする。
刃が届かずとも、彼女の【長谷部】には飛ぶ斬撃がある。
発生した斬撃はヒトダマの身体を捉え、真っ二つに切断した。
「ふぅ、だいぶこの剣にも慣れてきました」
「そうだな。振り回しに安定感が出てきているもんな」
飛ぶ斬撃を出す上で、自由に振り回せるようになるのは必須事項だった。しかし想定よりも早く、自由自在に使いこなせるようになったのは、嬉しい誤算だ。
「次はシンクロも試してみたいんだが、いいか?」
「はい大丈夫です」
シンクロの狐火がどの程度通用するのか試しておかないと、もし使わなければならない事態に陥った時、使えないってなると困るからな。
「……近くに居たヒトダマの反応が消えました」
「なに? 他の冒険者が居るのか?」
「いえ、冒険者の反応は感じられないんです」
「反応がないのに、魔物が消えたのか?」
「はい」
……ここにいるヒトダマに隠密性能があるとは聞いたことがない。異常ってこともあり得るが、【アニメックスダンジョン】であったばかりということを考えると、可能性は限りなく低い。つまり……
「隠密系のスキルを使った冒険者が居るはずだ。悪意の有無に関係なく、警戒を強めておいてくれ」
「はい」
「コン」
「ポン」
「ニャン」
俺たちは背中を合わせ、草むらの動きを観察し続ける。凜々花の【気配察知】に引っ掛からず、草むらが揺れることがあれば、それは隠密系のスキルを使った人間となる。
「……」
誰のものか、唾を呑んだ声が聞こえる。
刹那、俺の前の草むらが揺れた。
「姿を見せないのであれば、敵とみなすぞ!!」
警告。
これでも姿を見せないのだとすれば、攻撃する理由が生まれる。警告空しく、草むらの揺れが激しくなった。
「来るぞ――ッ!!」
反応出来たのは偶々としか言えないだろう。
目の前で散っている火花も、あまり現実味は感じられない。それほどまでに、奇跡としか言えない反応だった。
「ほう、これを受けるとは。舐め過ぎていたか」
「偶々だ」
目の前に立っている男の姿が見えて来る。
全身黒ずくめ、それもフードに黒マスクといった徹底ぶり。しかし視界をクリアにするため、目元だけは露わになっている。その眼光は、殺意に塗れ、血走っている。
俺の剣と火花を散らしているのは、リーチの短い短剣。小回りが利くが、大きい剣に比べると力負けしてしまうというのが短剣のはずだ。それなのに、正面からの競り合いで拮抗している。
つまり素の膂力は、こいつの方が圧倒的に勝っている。
「なぜ襲ってくる!」
「これから死ぬ人間にバラしてやる程、俺は優しくはない」
俺の剣が地面に突き刺さる。
目の前に立っていた男は飛び退き、再び森の闇に消えた。
「【気配察知】はどうだ――」
凜々花の方を見た。
彼女の身体に力はなく、ただ地面に伏していた。
前回以上に不穏な終わり方でした。
ブックマークと★★★★★をお願いします




