第40話 ゴブリンエンペラー
「ゴブリンエンペラー……」
「――」
凜々花は絶句して言葉が出ないようだ。
言葉が出ないとまではいかずとも、絶句して反応が遅れてしまった。
「速ッ!?」
瞬きをした刹那、15メートルは離れていた場所に立っていたゴブリンエンペラーが目の前に居た。
そして再び気付いた時には、壁に身体を打ち付けられていた。
「グフッ――」
口から血が垂れる。
朦朧とする意識の中、ゴン太たちへと剣を振り上げているゴブリンエンペラーの姿が瞳に映る。
「ポン!!」
「ニャン!!」
俺の指示なく、たぬ吉とタマが動いた。“湧沸”と音による斬撃がゴブリンエンペラーを襲う。
しかしただのゴブリンであればひとたまりもない……いや、ゴブリンキングでも耐えるのは難しい攻撃のはずだが、ゴブリンエンペラーは防御しようとする素振りを見せない。
「コーン」
「グギャ?」
たぬ吉たちの攻撃を強靭な肉体のみで受けきり、ゴン太へと剣を振り下ろした。地面を砕く。強固なダンジョンを砕いた剣だったが、ゴン太は間一髪のところで避けていた。
しかしピンチは続く。アイツにダメージを与えられるのは、ゴン太の最大火力“狐火”しかない。だがアイツは執拗にゴン太を狙っている。
「――ッ」
意識が戻ってきたため、立ち上がって戦線復帰を果たそうとしたが、全身が痛む。激痛。立つことすらもままならない痛み、だが立たずにはいられない。
「コーン!!」
ゴン太は“陽炎”を使って隙を伺っているが、ゴブリンエンペラーには通用してない。着実に壁際へと追い詰められている。そんな状況で俺が座っている訳にはいかないだろ。
「たぬ吉、タマ、援護を頼む!!」
「ポン!」
「ニャン!」
駆ける俺の隣に“湧沸”がうねる。そして俺の前方を守るように音の斬撃が走る。二人の攻撃の安心感から、身体の痛みがすっとなくなっていく。
「はぁぁっ!!!」
アイツはこちらを見ない。
取るに足らないゴミだと見下し、先刻のように強靭な肉体で受け止めるつもりだ。端から倒せるとは思っていない。俺らがすることはゴン太が“狐火”を溜めるための時間を稼ぐこと。
音の斬撃がゴブリンエンペラーの皮を裂く。だが驚異的な新陳代謝によって、一瞬で再生してしまう。しかしその一瞬の隙すらも与えるつもりはない。
「固い……」
裂いた皮へと“湧沸”が突き刺さる。
俺は二人が紡いだ傷へと剣を突き立てた。しかし筋肉は固く、俺のか弱い膂力と安い剣の切れ味では傷をつけることができなかった。
だがゴブリンエンペラーの気を引くには足る攻撃だったようだ。
「グギャ!」
振り向きざまの斬撃が、俺の脇腹を捉えた。
剣を手放した状態で再び壁に激突する。先刻の比ではない衝撃とダメージ。アドレナリンではカバーしきれない、意識を手放すことすらできない激痛。生きていることが嫌になるほどに過去最大の苦痛を味わっている。
斬撃による風圧によってたぬ吉とタマも吹き飛ばされていた。
「――ッッッ!!」
だが俺たちが稼いだ時間は無駄ではない。そのことだけが生きる希望だ。ゴン太は“狐火”を生み出していた。それも過去最大の“狐火”だ。初回、ゴブリンキングを倒した時の比ではない大きさ、体育館程のボス部屋のどこにいようと熱を感じさせる巨大さはゴブリンエンペラーに焦りを齎していた。
「グギャァ!!」
ゴブリンエンペラーは地面を蹴り、瞬間移動したかと錯覚させる速度で、ゴン太の目の前へと移動した。だがゴン太にとっては好都合だ。
「コーン」
近距離になることで、威力減衰が起きることなく着弾させることができる。目の前の巨大火の玉が動き出そうと、ゴブリンエンペラーは諦めていない。
「……最後まで戦い抜く」
凜々花の呟きが聞こえて来た。
刹那、真っ白な輝きが視界をジャックした。それは振り抜かれた大剣により“狐火”が弾けた影響であり、俺たちの瞳にダメージはない。
「グギャ……」
巨大すぎるが故に、真っ二つにしようと逃れ切ることはできない。
“狐火”をその身で受けたゴブリンエンペラーは、全身が焼き焦げ、立っていることすらもままならないようで、膝から崩れ落ちている。だが倒せていない。
驚異的な新陳代謝は健在で、肉体は再生へと向かっている。焦げは落ち、崩れた傍から再生していく。
「――」
俺は立ち上がろうとしたが、立てなかった。痛みとかではない。物理的に身体が言うことを聞いてくれなかった。ゴン太は最大火力“狐火”の反動で、“狐火”は使えない。
救いを求めて、たぬ吉やタマの方を見るが、壁に激突した衝撃で意識を失っていた。
「ゴボッ」
声を掛けて起こそうと試みようとしたが、そもそも声が出ない。口から出て来るのは血液のみだ。
“狐火”のダメージが大きいらしく、動き出すにはまだ時間は掛かるだろうが、俺たちの戦線復帰が間に合うとは思えない。
ボロボロの身体に鞭を打ち、這いつくばってでもゴブリンエンペラーの下へと行く。
「――」
口からは血が垂れ続けた。
それだけでなく、脇腹からも流れているような気がする。だがそんなことはどうでも良い。ここでアイツをやれなきゃ、死ぬのに変わりないんだ。
「――」
終わった。
異常のボスはとても強いです。
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