第35話 【岡崎城ダンジョン・三階層】
高い樹木に遮られた暗い森林を進んで行く。
三階層に来てからずいぶんと歩いてきたが、未だに凜々花は声を発していない。聞こえるのは俺たちの呼吸音と踏みしめる草葉の音のみ。
「……こういう階層なのか?」
「事前に調べた限りだと、そんなことはなかったと思います」
主語がなくても通じる程、魔物が少なすぎた。
ダンジョンの踏破を目指して進めているのであれば、この状況はメリットしかないのかもしれないが、稼ぎに来ている俺たちからすればデメリットしかない。
「他の冒険者が居るのか?」
ダンジョンは特殊な力によって、外からは分からない大きな空間を形成しているが、サーバー分けなどがされているわけではない。だから他の冒険者パーティーと顔を合わせることも多々ある。
「一応、他の冒険者に対しても【気配察知】を使っておいてくれ」
「はい」
その冒険者が友好的とは限らない。その証拠に、ギルドに行ったときに絡んできた奴みたいなのも居るからな。
「じゃあ警戒心を強めたまま、進んで行くぞ」
「はい!」
「コン!」
「ポン!」
魔物だけではなく、同業者のことも警戒しながら森林を進んで行く。
警戒心を強めてから十分近く経っただろうが、景色にも状況にも変化が起きていない。
「……やっとか」
三階層に降りて来てから三十分程度が経ち、ようやく魔物との初遭遇を果たした。凜々花の索敵範囲内に入ると同時に、その姿を視認することができた魔物、“侍スケルトン”の上位種である“足軽スケルトン”だ。
基本的に身体性能だったり背格好だったりに変化はないが、所有している武器が刀から槍へと変わっている。
「よくよく考えてみると、侍の方が位が高そうだよな」
「……ダンジョンを創り出した存在の戦国時代に対する知識が浅かったのでは?」
「まあ考えるだけ無駄か」
世界中にダンジョンを創り出せる存在のことを理解するなんて、常人には到底不可能だ。それは人類史で積み重ねられた知識なく、一人分の人生のみで宇宙へ行くくらい難しいだろう。
「ゴン太、“狐火”を頼む」
「コーン!」
“狐火”が足軽スケルトンへと射出された。
そう簡単に着弾してくれるとは思っていなかったが、突き出された槍に掻き消されるとは思っても居なかった。
「避けるのではなく、掻き消してくるのか」
「くーん」
「大丈夫だ、気にするな」
正面から掻き消されたことに対して元気を失っているゴン太。
何とか元気を取り戻してもらうために、優しく頭を撫でた。たぬ吉が羨ましそうな視線を送ってくるが、今は無理だ。
そして凜々花、お前は羨ましそうな目で見てくるな。撫でたくなるだろ。
「――俺が行く!」
撫でたい気持ちを振り払い、足軽スケルトンの下へと駆ける。
少し距離はあるが、確実に体力は持つ。これまでに積み重ねて来た経験とゴン太の魔力が、俺の身体を成長させている。
「――!!」
身体に力を籠めるため、叫びながら剣を振り抜く。
刹那、突き出された槍の先端が視界を埋める。死が頭をよぎる。だが攻撃を止め、防御に転じることが最適解とは思えない。そんな考えの下、そのまま剣を振り抜いた。
剣は足軽スケルトンの首を捉え、頭部を刎ね飛ばした。しかし一度突き出された槍が急に止まることはない。
「――」
世界がゆっくり動く。
先端恐怖症であれば震えが止まらなくなるであろう状況に置かれ続けながら、引き延ばされた時間で死を回避する方法を探るため、脳がフル稼働している。
しかし解決方法を見つけることができないまま、タイムリミットを迎えてしまった。
「はぁはぁ」
命が刈られることはなかった。
槍が突き刺さるよりも早く、足軽スケルトンが魔石へと変わった。
「大丈夫ですか――」
駆け寄ってくる凜々花の顔が青い。
彼女のみが感じ取れる情報――敵の接近を顔色から伝わって来た。
「人が接近しています!! それも六人!!」
「ゴン太、たぬ吉! 凜々花を守れ!!」
「コン!!」
「ポン!!」
「――っ!!」
刹那、視認することができないほど先から矢が飛んできた。
狙われたのは凜々花……ではなく俺。死角から飛来した矢は肩に突き刺さり、あまりの痛みに剣を手放してしまう。
「お前らのせいで恥をかいたんでな、死んで償ってくれ」
木陰から姿を見せたのは、ギルドで絡んできた冒険者とその仲間らしき男たち。数でも状況でも俺たちが劣勢に立たされている。
「ダンジョンの魔物を仲間にするなんて、俺たち【ダンジョン嫌悪派】からすれば死に値するから、殺して問題ないよな?」
「「「おー!!」」」
【ダンジョン嫌悪派】……ダンジョンを嫌った者が集まったテロ武装組織。ダンジョン黎明期は本当にダンジョンを嫌った者の手段だったが、今となっては反ギルド派が大半を占める武装組織の面が強いテロ集団……末端の人間だろうが、身分を明かしたってことは確実に殺しに来るはずだ。
「ゴン太!! “狐火”を放て!!」
相手が人間とかを考えていたら、自分らの命が危ない。
人間相手に攻撃を支持したことに対し、凜々花はオロオロとしているが、ゴン太は即座に行動へ移した。
「コーン!!」
ゴン太が創り出した“狐火”は、溜めなしで生成できる最大サイズ。
勝利だけを見据えた攻撃だ。
――あとがき――
だいぶ初期の方に出た【ダンジョン嫌悪世代】の派生である【ダンジョン嫌悪派】。その実態はテロ武装組織です。
第11話に出て来たテレビの内容も、ダンジョン嫌悪派によって引き起こされた事件です。
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