第32話 大浴場での気絶
気まずい空気の中、魔石の売却を済ませた俺たちは、ホテルへと帰って来ていた。向き合った椅子に座り、膝の上で震えるゴン太を優しく撫でている。対面に座る凜々花は震えるたぬ吉を撫でていた。
俺たち以上に怖かったのだろう。野生の本能が、あの明智という女性に恐怖を抱いていた。敵意が自分に向いていなかったとしても、あれはダメだ。
「大丈夫だ。あの人はもういない」
「そうですよ、たぬ吉くん。明智さんという方はいません」
優しく撫でる。
ゴン太たちの恐怖心が完全に消えるまで、撫で続けると凜々花と決めている。それが夜になろうと朝になろうと、恐怖が消えない限りずっとだ。
「凜々花は、あの人が誰なのか知っているか?」
「いえ、私が知っているAランク、Sランク冒険者に該当者は居ないと思います」
「だよな……俺も調べたけど、見つからなかった」
「誰なんでしょうか」
「分からないが、今後関わることもないだろうし、気にしなくてもいいだろう」
「それもそうですね」
どこかでフラグが建ったような音が聞こえて来た気がするが、きっと気のせいだろう。俺たちは関東の人間で、ここは愛知県……大丈夫なはずだ。
このホテルには大浴場があるらしく、ゴン太とたぬ吉と共に向かっている。一応ホテルの人に許可は取れたが、周りの人への迷惑も考えて、特別に深夜の利用を許可してくれた。
「ゴン太、たぬ吉、一応貸し切りになるが、あんまり暴れるなよ」
「コン!」
「ポン!」
ゴン太たちは頭がいいから、一回伝えるだけで大丈夫だろう。
それにしても、大きな風呂に入るのなんていつぶりだろうな。学生時代に行った旅行が最後か……これからはもう少し旅行とかに行こう。
「よし、身体を洗ってから入るぞ」
「コン!」
「ポン!」
ゴン太とたぬ吉用に持ってきたボディソープで洗っていく。
二人はかなりきれい好きなようで、毎日身体を洗ってあげているから、慣れたものだ。
「俺も洗うから、ちょっと待っててくれ」
「コン!」
「ポン!」
入念に洗っていく。
ダンジョンに挑んでいる以上、発汗は当然のこと、魔物から発せられた何かが付着している可能性もあるから、探索後はいつも入念に洗っている。
数分間洗い続け、ようやく湯舟へと向かう。
「よし、入ろう」
「コン!」
「ポン!」
「――」
一度掛け湯をしてから入ると、おっさんみたいな声が出た。
いや、おっさんだから“おっさんの声”と言うのが正しいのだろうが、俺はおっさんみたいな声と言い続ける。
「温泉なんて久しぶりに入ったが、やっぱり普通のお湯よりも気持ちいいな」
「くーん」
「くぅー」
ゴン太たちも気持ちよさそうだ。
温泉を存分に楽しんでいると、ガラガラと扉が開いた音が聞こえて来た。確かに深夜に使って良いとは聞いていたが、貸し切りとは言われなかったので、俺と同じように特別に許可を貰ったお客なのだろうと、特に気にしなかった。
それに湯気で見えないし、わざわざ気にする必要性もないだろう。
「……一応魔物が居ますが、ウチの子なので気にしないでください」
一応伝えておいた。
もし嫌ならば返答が来るか、勝手に帰るだろう。
「他の人が来たから、大人しくてくれよ」
「くーん」
「くぅー」
ゴン太たちも大丈夫そうだな。
それにしても、わざわざ深夜に入ってくるってことは、何かしら見られたくない理由があるんだろうけど、帰らないってことは相手への配慮から来るものか……。
「失礼するよ」
湯気に隠された小柄な人影から声が聞こえて来る。
男にしてはかなり高いソプラノボイスだったが、珍しいだけでそこまで気にすることはなかった。
「――!?」
しかし近付いて来るにつれて、湯気に隠された身体が露わになっていく。湯船に腰程度まで浸かっているその人、男にしては少し膨らんだ胸、可愛らしい顔立ち……女性かと思い声を上げそうになったが、視界に入ったとても立派なそれが否定する。
そしてその顔には見覚えがあった。
「あ、明智さん!?」
「君は確か……ギルドで絡まれていた子だな」
明智さん。
名前は知らないその人は、ギルドで輩に絡まれた際に助けてくれた冒険者であり、一方的に女性だと思っていた人だ
「お、男だったんですね」
「ん? それは少し違うぞ」
俺の隣で、肩までお湯に浸かっていた明智さんが立ち上がる。
そしてあれを見せつけて来た。
「私が手に入れたスキルはかなり特殊だったみたいだが、後天的にこれが生えて来ただけで、生来の性別は女性だ」
立派なそれの下、そこには女性のあれがあった。
目の前で見せつけて来るそれを、俺の脳みそでは処理し切れず、そこで俺の意識は暗転した――
何度も言いますが、イカれた悟の下にはイカれた人が集まります。
元が女性にも拘わらず、異性に身体を見せつけることを何とも思わない……十分変ですね。
特に関係はありませんが、天使は両性具有だと聞きますよね。
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