第31話 テンプレ展開
それから一時間ほど一階層で過ごした。
その間、侍スケルトンを二十体ほど倒せたから、タイパはかなり良いんだろう。
「はぁはぁ、やっぱり一時間でこの密度……体力が厳しいな」
「はぁはぁ、そうですね」
しかし俺と凛々花は呼吸が乱れ、これ以上の継戦は不可能に近かった。休憩を挟めば、もう少しくらい戦うことはできるだろうが、それでもすぐに限界は来てしまうだろう。
だから俺たちは、一度ホテルへと撤退することを選択した。まあ魔石の買取金額次第で直ぐにダンジョンへと突入する可能性も捨てきれないけどな。
俺たちはダンジョンを後にし、近くにあるギルドへと向かった。
そこはいつも利用している東京のギルドよりも、一回りほど小さく、中からは喧騒が聞こえてくる。
「……なるほど、東京のギルドが静かだったのは、そういう地域性だったってことか」
「……そうですね」
中から聞こえてくる情報が、俺たちの第一歩を止めようとしてくるが、徒歩で行ける距離に他のギルドはないため、仕方なく扉を開いた。
壁越しに聞こえていた通り、中に入ると騒音。そう形容する他ないほど、混ざりあった冒険者たちの声がうるさい。
「早く魔石を売るぞ」
「は、はい」
凛々花は俺の背中に隠れ、服を摘んでいる。
慣れない人からすれば、恐怖を抱いてしまうのはしょうがないことだと思う。逆に俺は社畜時代のパワハラに慣れているため、特に恐怖を感じたりはしない。
「おい、見ねェ顔だなァ!」
「……」
物語でよく見るテンプレ展開だ。
初心者に先輩冒険者が突っかかってくるって奴を法治国家の日本でやってくるとは思ってもいなかった。
しかしこういう場合はどうするのが最適解なのだろうか。一応受付の方に視線を向けて、一度目が合ったが、直ぐに逸らされてしまった。
俺ができる対応と言えば、こちらからも喧嘩腰で正面から打ち勝つ、丁寧に行って受け流す、完全無視する……一番いい対応は二番目なんだろうが、舐められるだろうな。
「ビビっちゃったか?」
目の前の男は煽るように言った。
それに呼応するように、周囲から笑い声が聞こえてくる。
「……」
無視だな。
一人だけがこういう性格なのであれば、どうにでもなっただろうが、組織全体がそういう性格なのは個人ではどうにもできない。
笑われるのは癪に障るが、突っかかって平穏が失われる方が面倒だ。
「無視すんじゃねぇよ」
肩を掴んで、無理矢理引っ張ってきやがった。
引っ張られ、強制的に目線が男の方へと向く。そこには喧嘩を売ってきた大柄の男と、その背後に立つ小柄な女性の姿があった。
「止めなさい」
「――」
その女性は、俺の掴んでいる男の腕を掴んでいる。男の顔からは冷や汗が絶え間なく流れ続け、脱水症で死んでしまうのではと心配になるほど顔が真っ青になっていた。
その気持ちは俺でもわかる。
女性が発する覇気のような物は、肌を突き刺すような鋭さを持っていて、直接向けられていない俺でも若干の苦しさを感じていた。
「あ、明智さん……」
「君らが新人を威圧するのであれば、私が君らのことを威圧したとしても、文句は言えないよね」
場が冷えた。
否、彼女が発しているのは冷気ではない。人の生を否定する焔。
内に秘める殺気と焔を本能的に感じ取り、身体が震えを使って伝えている。その震えが、寒いという錯覚を齎しているのだろう。
「――す、すみません」
男は何とか謝罪の言葉を口にした。
俺らは見ていることしか出来ない。何か余計なことをしてしまえば、巻き込まれてしまうかもしれない。そんな考えが動きを停止させる。
「……」
明智と呼ばれた女性は無言を貫く。
彼女がこの空間を支配していると言っても過言ではないこの状況、喧騒溢れるギルドが静寂に包まれていた。
巨漢の冒険者も、傷だらけの歴戦の猛者も、魔法を使いこなしそうな魔法使いも、揃って女性が開口するのを待つ。
そして数秒か、数分か、数時間なのか、体感時間では測りきれない時間が経過した後、女性は口を開いた。
「では許そう。もう一度同じことが起きれば、私は裁きを下さなければならなくなる……心に留めておくように」
その言葉を残し、女性はギルドを後にした。
「――っはぁはぁ」
人々は呼吸を再開した。
当然俺らも例外ではなく、凛々花もゴン太もたぬ吉も必死に空気を取り入れている。
「……売りに行こう」
受付へと向かう俺たちに絡む者はいない。
沈黙だけがギルドには存在していた。
すごく強そうな人が登場しました。
・明智さん(仮)
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