第3話 ギルド
「そこの男性、魔物から離れなさい!」
「ち、違うんです!!」
剣先をこちらに向けている女性だ。
ゴン太が魔物と知ってしまった以上、どうにかしてこの場を切り抜けなければ、ゴン太が殺されてしまうと分かっているので、どうにか社会人の言い訳根性で頑張らなければ。
「こ、この子はお――私の従魔でして」
「従魔だと? そんなものは確認されていない!」
「じゃあ世界初なんですよ、きっと」
「世界初なんてものは、そう簡単に出てこないからこそ、世界初なのだ! つくならもっとマシな嘘をつけ!!」
こいつ頭が固すぎるだろ。
ウチの上司みたいに自分の価値観を押し付けて、知識にないことは全て否定する、カッチカチに固まった頭を持っているのかよ。
でもどうにかして切り抜けないと、俺とゴン太の平穏は潰えてしまう。
「嘘ではないんです! 本当にゴン太は私の従魔なのです!」
俺にとって土下座は軽い。
どんな時でも簡単に土下座をするから、会社の人からすれば誠意の見えない謝罪なのかもしれないが、初対面のこの女性からすれば、とても誠意の見える謝罪だろう。
「ど、土下座ではなくて、魔物から距離を……」
「従魔なんです!」
「だからそんなの……」
「従魔なんです!」
「ですから」
「従魔なんです!」
「――」
「従魔なんです!」
これもテクニックだな。
相手の反論を聞かず、ただ繰り返し持論を伝え続けることで、頭が固い人でも敗けさせる可能性が高い……嫌なテクニックだな。
「わ、分かりましたから、頭を上げてください」
よし!
思わずガッツポーズをしてしまいそうになったが、やっていたら努力が無駄になってしまうから、寸前で留まれた。
「で、ですが私の判断で無罪放免と言う訳にはいかないので、ギルドに行って確認を取りましょう」
「分かりました」
ギルドというのは、ダンジョン発生時に発足した元国営の対ダンジョン組織の名称だ。元々警察官や自衛官からダンジョンに潜る者を募って、対ダンジョン組織“ギルド”が誕生したが、利益化が済んでからは民間人からも手を集めるために、民営化したという歴史がある……らしい。
ダンジョンと関わることはないだろうと思って、殆ど調べたことがなかったから、昔友人から聞いたことしか知らない。
ここは切り抜けることができたが、ギルドという最難関が残っているのか……こいつを守るために頑張らないとな。
「こん?」
ゴン太の頭を撫でたら、こっちを見て首を傾げている。
やっぱり可愛いな。
「すいません、ここまで車で来たのですが……」
「私がギルドに送ります。確認が終わればこちらまで送るので、気にしないでください」
「は、はい」
そういう問題ではなくて、田舎で安いとはいえ、駐車場は有料だったんだよ。しかし年下の女性にたかる訳にはいかないし、ギルドが払ってくれたりしないかな……。
そんなことを思いつつ、冒険者の女性が所有する車に乗る。
「高そうな車ですね」
「一応冒険者として名は売れていますので、後進に夢を見させるという意味でも高級車に乗らせてもらってます」
「そ、そうですよね」
俺の安月給では、生涯を費やしても買うことができなさそうな高級車だ。
エンジンを掛けた時になる重低音。昔ならばカッコいいって感想を抱いていたのだろうが、社会人として擦り切れた今となっては、うるさいという感想しか抱けなかった。
「乗ってください。近くのギルドへと向かうので」
「は、はい」
高級車に傷をつけないように、ゆっくりと乗り、ゆっくりと扉を閉める。
車にとっては軽症でも、俺にとっては重症、詳しく言えば財布が死亡する。
「どうしたんですか? そんなにゆっくり閉めて?」
「精神を安定させるために……」
「??? まあいいか。ケージなんてものは積んでいないから、暴れないように抱きしめておいて」
「はい」
当然だろ。
言われなくてもやってるわ。
もし暴れて、少しでも車内に傷を付けられでもしたら困るからな。
「じゃあ発進するから、離さないようにね」
「は、はい?」
離さないようにって、ジェットコースターに乗るわけでもないんだから、離すわけないだ――
危なかった。
もう少し続いていたら、離していたかもしれない。
公道でやってはいけない運転テクと、そもそもスピード違反としか思えない速度で走っていたぞ!? 冒険者ってのは法律に対して優位に立てる権限でも持っているのか!?
「行きましょう」
「は、はい」
大きい。
そんな陳腐な感想しか出てこない。
ウチの会社よりも遥かに大きく、それでも地方にある一支店に過ぎないと考えると、社長たちが可哀そうに思える。
「どうしましたか?」
「い、行きます!」
――名前は分からないが、女性の冒険者の背中を追って、建物の中へと足を踏み入れた。
ギルド民営化に伴い、所属していた元警察官や元自衛隊員には元の職場に戻るか、ギルドに残るかの選択肢を与えられています。




