第29話 風呂での会話
イカレ医者の祈りを背中に、俺たちは病院を後にした。
手に入れた魔石を売却するため、ギルドへと向かう。そしてその道中で、【岡崎城ダンジョン】についての話し合いを再開した。
「確かに【岡崎城ダンジョン】は難易度的には丁度いいんだが、距離的に泊りがけで行くことになると思うぞ?」
「――私は別に構わないです」
運転しているから、凜々花がどんな表情をしているのか分からないが、声色的に嫌々って感じではなさそうだ。
しかし泊りがけとなると、ゴン太とたぬ吉と一緒に止まれる宿を探さないといけないし、遠征の準備だってしないといけない……だいぶ時間が掛かりそうだ。
「凜々花が良いなら、【岡崎城ダンジョン】に行くか。でも準備とか宿探しとかで時間が掛かるだろうから、だいぶ先になっちまうな」
「私に任せて貰えませんか!」
「お、おう。頼むよ」
俺よりも凜々花の方が情報を持っているだろうし、ここは凜々花に任せるのが最適解だな。
しかし、凜々花がそこまで乗り気だとは思っても居なかった。初めて出会った時は、少し頑固なカッコいい先輩冒険者って印象だったが、一緒に冒険をする中で戦闘スキルを持たず、戦闘を怖がる弱々しい人って印象に変わり、今では自分からダンジョンを求めるようになった……人ってのは、ここまで変わるものなのか……。
「じゃあ、【岡崎城ダンジョン】の日程が決まるまでは、【アニメックスダンジョン】の一階層で、軽く身体を動かしつつ、お金を稼ぐか」
「はい、分かりました」
「コン!」
「ポン!」
そんな風にこれからの予定が決まってから数分後、俺たちはギルドに到着した。相変わらずギルドに居るのは、線の細いマッチョが多く、とても静かな場所だ。
「買取を頼む」
「畏まりました。ではこちらに売却される物を入れてください」
籠の中に魔石を入れる。
今回の探索で手に入れた魔石は、大体30個程度。その中にはゴブリンキングの物もあるが、【アニメックスダンジョン】のような三階層ダンジョン程度であれば、そこまでの値段にはならない。
「査定を行いますので、座ってお待ちください」
促された通り、査定が終わるのを椅子に座って待つ。
その間、俺たちの間には会話が生まれなかったが、特に気まずい思いは抱かなかった。まあ向こうがどう思っているかなんて分からないけどな。
そして数分が経ち、俺たちの受付番号が呼ばれた。
「お待たせしました。こちらゴブリンの魔石が28個で7980円、ゴブリンキングの魔石が3000円、合計しまして10,980円です」
「ありがとうございます」
見ての通り、安い。
これを二人で折半すると、5000円程度にしかならない。しかもウチにはゴン太とたぬ吉が居るから、その大半が食費で飛んでしまう。病院代だってバカにならないし、税金だって優遇されているとはいえ高い。
ここに遠征代も重なると……まあ未来への投資だと考えるしかないよな。それに冒険者の稼ぎは青天井だ。いつかは億万長者になれる……ってことを夢見ながら進むしかないんだ。
「よし、帰るか」
「帰りましょう」
凜々花を家まで送り、安アパートに帰って来た。
ちなみにここの大家さんとは長い付き合いなので、特別にゴン太たちのことを許可してもらっている。
「ふぅ……風呂に入るか」
「コン!」
「ポン!」
ゴン太もたぬ吉もきれい好きだ。
だから風呂に入る時には、必ず一緒に入っている。
「あああ」
「くーん!」
「きゅーん」
身体を一通り洗ってから、湯船の中に入ると、おっさんみたいな声が出た。
いや、俺はおっさんだから、出る声全ておっさんみたいな声なんだろうが……考えていて悲しくなるな。
「気持ちいいか?」
「くーん」
「きゅーん」
ゴン太とたぬ吉を交互に撫でていく。
二人の蕩けるような表情は、俺の心を癒してくれる。
「――」
脱衣所にある携帯が鳴った。
会社を辞めた今、俺に電話をかけて来るのは凜々花しかいない。
慌てて脱衣所からスマホを持ってきて、湯船に浸かりながら電話に出た。
「もしもし」
『あっもしもし。悟さんですか』
「そうだが、どうした?」
『予定が決まったので、お伝えしようかと』
「おっ、早いな。いつ頃にしたんだ?」
『一週間後です』
「ん?」
おっさんになって耳も遠くなったのか。
『聞こえませんでしたか? 一週間後です』
「一か月後?」
幻聴か? 一週間後にしか聞こえないぞ。
『ですから一週間後です!』
「今さっき【岡崎ダンジョン】に行こうって予定を立てたのに、行動が速すぎるだろ!!」
旅行は予約だの、計画だので、もっと時間が掛かるものだろう。
俺たちは遠征であって旅行ではないが、そこの過程に関してはそこまで違わないはずだ。これがギルド長のコネってやつなのか……。
「まあ決まったならいいや。じゃあ想定よりも近かったから、それまでのダンジョン探索は休むか」
「い、いえ! ダンジョンには行きましょう!!」
「凜々花が行きたいのであれば、俺も反対はしないが……」
なんか変わったな。
そして一週間の時が経ち、【岡崎城ダンジョン】へと向かう日を迎えた。
「では行きましょうか!」
「ああ、そうだな」
俺たちは新幹線に乗り込んだ。
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