第27話 再戦・ゴブリンキング
凜々花のお陰で身体の震えは止まり、目の前に立つゴブリンキングに勝利するための方法を考えられるだけの余裕が生まれた。
「一先ず様子見だ。ゴン太、“狐火”だ」
「コン!」
“狐火”がゴブリンキングへと迫る。
以前よりも火力が強くなっている“狐火”は、ゴブリンキングの強靭な皮膚も焼くことができる。
前回と同じようにかき消されてしまった。ただ、大剣によってかき消されることは想定の範囲内だ。
「たぬ吉、“湧沸”を頼む」
「ポン!」
たぬ吉の急須から熱湯が飛び出す。蛇のようにうねりながら宙を進む熱湯は、ゴブリンキングの意識を集めていた。
「ゴン太、今のうちに“陽炎”を頼む」
「コン!」
ゴン太の周りに幻の蒼炎が浮かびあがる。
ゴブリンキングが気付かぬうちに幻影でハメることができれば、勝利は確実の物になるだろうが、そう簡単に行かないのがボスだよな。
「チッ、前回見なかった動きをしてくるか!」
「ポン!!」
たぬ吉の“湧沸”を無視して、こちらへと跳躍して来る。
俺らとゴブリンキングの間には、結構な距離があったため、余裕をもって避けることはできたが、着地の際に発生した突風が俺たちのことを分断しながら吹き飛ばした。
「マズイな……俺とゴン太、たぬ吉はゴブリンキング相手にも多少耐えることはできるだろうが、凜々花は無理だ。そしてそれはゴブリンキングも分かっている」
凜々花の下へと駆ける。
同時にゴブリンキングも動き出している。己の俊敏のなさが嫌になる。このままでは確実に、凜々花の下へと辿り着くのはゴブリンキングの方が先だ。
「ゴン太! “狐火”をゴブリンキングに当て続けろ!」
「コン!!」
遠くにいるゴン太に呼びかけた。
声はしっかり届いているようで、温かみのある炎が浮かぶのが見えた。
「グギャ!」
ゴブリンキングは横から飛んできた“狐火”を大剣でかき消した。
“狐火”の弾幕、それはゴブリンキングの脚を止めるのに足るだけの攻撃だ。その間も俺は走り続ける。
「……グギャ」
「チッ、凜々花を仕留めるのを優先するのか」
ゴブリンキングは、なりふり構わず凜々花を仕留めるつもりらしい。
ゴン太による“狐火”を己の防御力に任せ、大剣を振るうのを止め、凜々花の下へと一直線に走る。
「クソっ!!」
「――」
俺の努力空しく、ゴブリンキングは凜々花の下へと到着してしまった。憎たらしくニヤリと浮かべる笑みのまま、大剣を振り上げる。
「凜々花ッ!!」
「悟さん――」
何もできないことを分かっていながら、手を伸ばす。
たぬ吉の“湧沸”では威力不足、ゴン太の最大火力であれば倒せるだろうが、時間が足りない。
「ゴン太、“狐火”! たぬ吉、“湧沸”!」
無駄だと分かっていながら、縋るのを止めることはできない。
出会いこそ最悪かもしれないが、短いながらも濃密な時間を過ごした凜々花は大切な存在だ。長らく会っていない親戚や親友を超え、最も仲のいい人間、そんな凜々花を失いたくない。
ゴブリンキングは剣を振り下ろす。
見たくもない現実、だが俺だけは見ていないといけない。これは俺の責任。一度勝利した相手だからといって、心のどこかで慢心があったんだ。
その慢心が凜々花を死なせる。これは俺が向き合わないといけない現実なんだ。
「コーン!!!」
“狐火”を浮かべたゴン太が光り輝く。
それはボス部屋に居る全ての瞳を惹きつけ、全ての生物の動きを止める。静寂となったボス部屋には、呼吸音と狐火が散らす火花の音しか聞こえない。
やがてゴン太の輝きも落ち着いて来る。
光が完全に消えると、そこに居たのはゴン太であって、今までのゴン太ではない。
「グギャ!」
全てを惹きつける光が消えたことにより、ゴブリンキングが大剣を振り下ろすのを再開した。
でもどうしてだろう。変わらず凜々花は死の際に立たされたままだが、先刻まで感じていた絶望感はない。それどころか、どこか楽観視すらしている。
「コーン!!」
先刻までと違うゴン太が浮かべた“狐火”。
それが一瞬にして巨大化した。以前ゴブリンキングを倒した時の火の玉よりも大きく、確実にゴブリンキングを倒せる“狐火”だ。
それがゴブリンキングへと放たれた。進むスピードも格段に速く、凜々花に大剣が触れるよりも先に着弾するだろう。
「グギャァ!!?」
“狐火”が着弾した。
膨大な熱がゴブリンキングを包み込み、一瞬にして焼き消した。
「――凜々花!」
結果、凜々花は無事だった。
吹き飛ばされた際に、足を捻ったようで立ち上がることができず、ゴブリンキングが近付いて来るのを、怯えて待つことしかできなかったらしい。
「悟さん、ありがとうございました」
「お礼はゴン太に言ってくれ。俺じゃあ間に合わなかった」
ゴン太もたぬ吉も駆け寄ってくる。
地を駆けるゴン太の二本の尾が揺れていた。
前回は悟たちが格下で、格下なりの戦い方で勝利しました。
しかし今回は悟たちが成長したことでゴブリンキングと同格になり、逆に苦戦することとなりました。
仲間のピンチに覚醒するのが主人公ではなく、従魔。
それがこの【おっさんテイマー】です。
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