第26話 再びの三階層
俺たちは三階層への階段を降りた。
ここは一度経験しているはずの場所だが、以前は余裕がなかったから新鮮味がある。
「ここのゴブリンは剣を使ってくるから、気を付けないとな」
「はい」
「コン」
「ポン」
いくら成長して、身体が強くなったからと言って、剣で大動脈でも斬られてしまえば、一撃で死んでしまう。
そんな致命傷を受けても死なない冒険者も居るんだろうが、今の俺はその域に至っていない。
「――居ます!」
曲がり角の先に居る魔物が、凜々花の【気配察知】に引っ掛かった。
凜々花が言うには、曲がり角から動く素振りを見せないらしい。このダンジョンで角待ちしてくる魔物が居るとは思わなかった。
「分かったのは良いが、どうする?」
「うーん……」
「コーン……」
「ポーン……」
相手は曲がり角から動かない。
必然的にこちらから曲がり角へ行くことになって、相手が先手を取ることになってしまう。
ゴブリンを倒すには、先手を避けるか受け止めるかしないといけないんだが、凜々花の【気配察知】は居ることしか分からないから、どんな攻撃が来るか分からないんだよな。
「……」
「……」
「……」
「……」
沈黙が流れる。
静か過ぎて、曲がり角の先に居るゴブリンの息遣いすら聞こえてきそうだ。てかゴブリンに息を潜めるだけの知能があるんだな。
「……」
「……」
「……」
「……」
静か過ぎる。
四人もいて、誰もいい案が思いつかないとは……これは俺たちの経験不足が原因だろう。
「あっ!」
凜々花が何か思いついたようだが、声を張り上げ過ぎだ。
まあ魔物が近付いてくれば、凜々花が分かるだろうし、指摘はしない。
「何か思いついたのか?」
「たぬ吉くんの“湧沸”で先手を仕掛ければいいのでは?」
「……あっ」
あっ。
ウチのたぬ吉の“湧沸”は遠距離攻撃。それも手を離れた後も操れる攻撃。相手が曲がり角の先に居ようと、関係なく攻撃が当てられるはずだ。
なんでそんな単純なことが思いつかなかったんだ?
……後悔するのは後だな。他の魔物が近付いて来ないとは言い切れない。
「たぬ吉、頼めるか?」
「ポン!」
急須からわいた水が注ぎ口から飛び出る。
熱湯は曲がり角まで進み、直角に曲がってゴブリンへと迫った。
「行くぞ!」
「コン!」
「はい!」
俺と凜々花、ゴン太が曲がり角へと走る。
先陣を切るのは俺。曲がり角を曲がった先には、落とした剣を拾おうとしているゴブリンが居た。
「ゴン太、持たせるな! “陽炎”だ」
「コーン!」
ゴブリンの視線が一か所に固定された。
今のゴブリンは幻影の蒼炎に魅入られて、俺たちなど眼中にないはずだ。ここが攻め時だろう。
「凜々花、トドメを刺すぞ!」
「は、はい!」
俺と凜々花で剣を振り抜く。
ゴブリンの上半身と下半身が一生の別れを迎えた。
「ふぅ、良い感じだな」
「はぁはぁ」
「コン!」
「ポン!」
相変わらず凜々花は体力がないな。
まあ剣は重たいから、振り抜くのは大変だし、仕方ないか。
「少し休んでから進むか?」
「だ、大丈夫です」
さっきのは疲労から来るものではなく、ただ呼吸を整えようとしていただけか。凜々花が大丈夫なら、進むか。
「ボス部屋まではまだまだあるし、疲れたらしっかり言えよ」
「はい!」
その後、ボス部屋までの道中、ゴブリンとの接敵は五回あった。前回に比べると少しだけ多いが、誤差の範疇だろう。
「よし、ボス部屋まで来たし、少しだけ休むぞ」
「休むんですか?」
「ああ。前回と違って、俺たちは急いで生還を目指しているのではなく、経験のためにボス部屋に挑むんだ。休むことも経験の一つだろ」
「確かに……」
俺たちはボス部屋の前で座り込んだ。
休もうと言ったはいいものの、全く緊張感が解けない。ダンジョンに居るってことが身体を強張らせて、全くもって疲労が抜けてくれないな。
「前回のボス戦はだいぶ苦戦したが、今回は楽に行けるといいな」
「前回と違って、ゴン太くんには陽炎があって、それにたぬ吉くんも居ますから、きっと大丈夫ですよ」
「そうだな……」
あの時とは違う。
俺もゴン太も、もちろん凜々花も成長しているし、新戦力のたぬ吉も居る。ゴブリンキングだろうと怪我なく倒せるはずだ。
「……じゃあ行くか」
「はい」
「コン」
「ポン」
俺が代表して扉を開ける。
開けた先には前回と同じようにゴブリンキングが立っており、濃密な殺気が俺たちを襲った。今なら分かる。あの時、殺気を浴びても何も感じなかったのは、圧倒的過ぎて頭が処理できていなかったんだ。
しかし今は違う。中途半端に成長してしまったせいで、ゴブリンキングの実力が十全に分かる。……身体の震えが止まらない。
「悟さん、大丈夫ですよ。私たちは強いんですから」
凜々花の小さな手が肩に触れた。
どうしてだろう。凜々花は俺より弱くて、安心感なんか得られるはずがないのに、身体の震えが一気に引いてくれた。
「……ありがとな」
「はい!」
そうだよな。
俺たちは一回勝利しているんだ。恐怖に震える必要なんていない。
ゴブリンキングとの再戦が始まります。
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