第2話 ゴン太
「コン」
「狐?」
林から出てきたのは、狐だ。
ここら辺に生息している動物ではないと思ったが、温暖化やペットの野生化問題などから、居てもおかしくはないか。
「……もしかして腹減ってるのか?」
「コン!」
落ちた肉に視線が集中しているからもしかしたらと思ったが、肉目当てで人前に出て来たとは、相当腹が減っているんだろうな。
既に地面に落ちているし、俺個人的にはあげてもいいんだが、野生動物相手に餌付けってのは……まあ一回だけだし、もしあげずに死なれたら目覚めが悪いしな。
「落ちた肉でよければ、食べてもいいぞ」
「コン!」
狐の体躯すれば大きいと形容できる肉へ必死にかぶり付いてる。
小さい動物が必死に食べている様子は、かなり可愛らしいな。
「撫でてもいいか?」
食事に夢中で返事がない……これだけ無防備なら撫でてもいいよな。
ご飯をあげた命の恩人と言っても過言ではないし、誰も文句は言えないだろ。
食事に勤しむ狐の頭に、ゆっくりと手を近付ける。そしてモフモフの頭に手が触れた。
「コン?」
「可愛いなぁ」
俺の手に頭を擦りつけているような素振りを見せているから、多分喜んでくれているんだろう。
それにしても可愛い動物を見ていると、時間が溶けるな。
周りは真っ暗で、狐も食べ終えて撫でられるのを楽しんでいるだけだし、そろそろ寝る準備をするか。
「俺は寝るけど、お前はどうする?」
「クーン」
狐は俺の脚に頭を擦りつけている。これは一緒にいるってことでいいのか?
たまに狐のことを可愛がりながら、一通り寝袋の準備を終えた。
「俺は寝るから、お前も適当に寝てくれ」
「コン!」
俺の寝袋に入って来やがった!?
こんなフサフサが目の前にあった眠れるわけ――
全然寝れたわ。
それどころか狐の程よい暖かさが、眠気を誘発して、いつもとは比べ物にならないほどの深い眠りに付けた。
「ありがとな。お前のお陰でよく眠れたよ」
「コン!」
俺が起きた時には、既に狐は目覚めていたが、俺を起こさないためか、一切の身じろぎをすることもなく、ただ抱かれてくれていた。
「今日はもう帰るけど、次来た時にまた会えたら、名前でも付けたいなぁ」
「コン!」
いつもは帰宅の準備はテキパキとやって、直ぐに帰っていたが、今日は狐と居たいがために、ゆっくりと適当にやってしまった。
太陽は頭上にあり、肌に刺さる熱が昼を迎えたことを伝えて来るが、狐のモフモフが熱を軽減してくれているような気がする。
「じゃあ、また来るから、それまで元気にしてろよ」
頭を存分に撫でまわし、別れを惜しみつつキャンプ場に背中を向けた。
ずっとここに居たい気持ちが強いが、仕事があるからな。狐だけでも連れて帰りたいが、野生動物をペットにするのは法令的にダメだと聞いたことがある。
こいつはキャンプ場に来た時の楽しみにしよう……ん? こいつ?
「なんで付いて来てるんだ!?」
「コン!」
やっぱり食べ物を与えるのはよくなかったか?
だがあそこで与えていなかったら、餓死していた可能性も否定できないし……俺にはそんな非情な選択は取れない。
だがこのまま連れて帰って、法令違反で罰せられたら……クビになっちまうのか……それだけは嫌だ。
「ごめんな狐。お前は連れて帰れないんだよ」
「コン!」
しゃがみこんで、狐の頭を撫でながら伝えるが、こちらの言葉は伝わっていないようで、嬉しそうに頭を掌に擦りつけて来る。
「名前だけ付けてやるから、今日は満足してくれ」
「こん?」
狐は首を傾げている。
本当は念入りに考えた名前を付けてやりたかったが、ちょうど浮かんだ名前があるし、自己満かもしれないが、今この時に名前を付けてやりたくなったからな。
「お前はゴン太だ」
「コン!!」
狐――改めゴン太は嬉しそうな鳴き声を上げていた。
名前ってことが伝わってくれていたら嬉しいな。
『魔物との繋がりを観測しました』
「は?」
「コン?」
魔物との繋がり?
そもそもこの声はなんだ?
『人類種、個体名【窪田悟】にスキル【テイム】を付与します』
スキルだ、と?
スキルと言えば、ダンジョンを探索している一部の人たちが持っている力のことじゃないのか?
もしかしてゴン太は魔物なのか?
そしてゴン太が魔物ってことは、ここはダンジョンなのか?
「コン!」
俺の心の声に返事をしたかのように、ゴン太は元気な鳴き声を上げた。
そうか、ダンジョンなのか……
「あっぶねぇぇ!!? ダンジョン内で無防備な寝姿を晒していたってことだろ!?」
焦る俺の脚にモフモフとした感触がある。
「ゴン太、慰めてくれるのか」
「コン!」
「そこの男性、魔物から離れなさい!!」
日常が崩れ落ちる音が聞こえて来た。
野生動物に対する餌付けも触れ合いもやめましょう。




