第19話 たぬ吉の力
「というわけで、新しく仲間になった“たぬ吉”だ」
「ポン!」
たぬ吉をテイムした翌日、ダンジョン探索の仲間である凛々花にたぬ吉を紹介した。
「よろしくね、たぬ吉くん」
「ポン!」
凜々花はたぬ吉に目線を合わせるようにしゃがみ込んで、手を差し出す。
意図を理解したたぬ吉も小さな手を突き出し、二人は握手していた。頭良いんだなという感想を抱きつつ、二人の様子を観察していると、足元のゴン太が脹脛を突いてきた。
「どうした?」
「コン!」
「それもそうだな」
ゴン太に早く行こうと急かされてしまったため、二人の握手を止めてダンジョンへと入る。今回攻略を目指すダンジョンは、千葉県にある通称“幕張ダンジョン”。正式名称は巨大ショッピングモール“ジャスケ”が呑み込まれたことから【ジャスケダンジョン】だ。
【アニメックスダンジョン】が三階層だけの初心者向けダンジョンだとすれば、ここは十階層もある中級者向けのダンジョンだろう。
「行くぞ」
「はい」
「コン!」
「ポン!」
俺たちはダンジョンへと足を踏み入れた。
足を踏み入れた先に広がっているのは、【アニメックスダンジョン】のような洞窟ではなく森林。洞窟とは違い、死角が多くて凜々花のスキルがより役に立つ場所だ。
「凜々花、最初から警戒を頼む」
「はい」
凜々花がいなければ、ゴン太とたぬ吉の野生的勘を頼ることになるんだろうが、凜々花が同行している内は、凜々花のスキルに頼り続けるつもりだ。体力の消耗がほぼない以上、彼女のスキルは圧倒的な継戦能力を誇るからな。
「じゃあ進むぞ」
「コン」
「ポン」
俺は新調した剣を構え、後ろに凜々花、その横にゴン太とたぬ吉という陣形で進んで行く。事前情報によると、【ジャスケダンジョン】一階層で出て来る魔物は、狼のような見た目をした“ウルフ”という魔物らしい。
四足歩行の魔物と戦うのは初めてだから、今まで以上に警戒している。
「何か近付いて来ます!!」
「――分かった」
凜々花の報告に警戒心が一層強くなる。
未だに目視することはできないが、少し離れているところの草が揺れていることだけは分かる。あれが報告の魔物であれば、まだ接敵するまでの余裕はあるはずだ。
「ゴン太、火の玉の準備をしておいてくれ」
「コン!」
森林で火を使うなど自殺行為だと思われるかもしれないが、ここがダンジョンである以上、魔法による炎が延焼することはない。それがダンジョンの理だ。
「今だ!」
「コーン!」
魔物が草むらから飛び出た瞬間、ゴン太に合図を送った。
ゴン太は即座に火の玉を射出し、それは一瞬にして“ウルフ”へと迫る。
「――やっぱりゴブリンとかよりも俊敏だな」
ウルフは、ゴン太の火の玉を容易く避けていた。
まあ【アニメックスダンジョン】でも避けて来る魔物は居たから、それ以上に俊敏なウルフが避けて来るのは当然想定内だ。
「たぬ吉は何ができるんだ?」
「ポン!」
俺の意図を読み取ってくれたのだろう。
たぬ吉が背中に背負っている急須が沸く。出会ったばかりの時に見た時、水は入っていなかったから、これがたぬ吉の力なのだろう。
二つの意味で沸いた水が急須から飛び出て、蛇のようにウルフへと迫る。
「すごいな……」
蛇はうねるように走るウルフを完全に追尾し、段々と距離を詰めていった。そして数分の格闘の末、水はウルフに追いつく。水はウルフの後ろ脚に突き刺さり、健脚を失ったウルフは盛大に転んだ。
「……こんな状態で倒すのは可哀そうだが、テイムするのは無理だよな」
ゴン太やたぬ吉とは違い、目の前のウルフは殺気を放ち続けている。
こんな状態でテイムできるとは思えないし、心を鬼にして剣を振り下ろす。ウルフの身体は魔石へと変わってくれたため、心が楽になった。
「たぬ吉の力も見れたし、ここからは連携を練習していこう」
「コン!」
「ポン!」
「はい」
必要最低限とはいえ、凜々花も戦えるようになったってのは、だいぶ楽になるよな。ヘイトが分散すれば、ゴン太とたぬ吉の魔法が炸裂する可能性が高くなるだろうし、俺も前衛としての仕事がやりやすくなる。
まあ凜々花はスキルだけでも十分な役割を果たしてくれていたから、収益の割合は増やすべきだよな……はぁ、ただでさえ金欠だっていうのに……未来への投資って考えよう。てか、そう考えていないと、心が持たないからな。
「来ます! 今度は正面と左側、それぞれ一体ずつです!!」
「一階層から複数体を相手取るのか……」
だが、これは偶々だろう。
もし意図的に二方向から攻撃を仕掛けて来たとなると、今の俺たちでは危なすぎる。この戦闘方法が続くとなれば、撤退を視野に入れておかなければ。
「ゴン太とたぬ吉は凜々花に付いてくれ。正面のウルフは、俺が時間を稼ぐ」
死ぬ気で時間を稼ぐ。
そもそも時間を稼がないと、俺に待っているのは死のみだからな。
「来るぞ!」
たぬ吉くんはお湯を操ります。
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