第16話 圧倒的格上
「ゴン太、大丈夫か?」
「コン!」
少し離れたところに吹き飛ばされたゴン太も大丈夫そうだ。
ゴン太が無事でいる限り、俺たちにも勝機は残っている。そんな考えが、俺に対して余裕をもたらしているのかもしれないな。
「挟みこもう!」
「コン!」
今の失敗を踏まえ、同時に吹き飛ばされることがないように、俺とゴン太で挟撃を行えるような立ち位置へと移る。
ゴブリンキングに邪魔されると思っていたが、邪魔をしてくることはなく、それどころか掌をこちらに向けて、「どうぞ」とでも言わんばかりの仕草を取ってきた。
やはり俺たちのことを格下と舐め腐っているんだろう。まあそれだけの実力差があるのだから、舐められるのは仕方のないことだ。
「ゴン太、火の玉だ!」
「コーン!」
ゴン太が浮かべた火の玉は四つ。
それが動き出すのに合わせて、ゴブリンキングの下へと駆ける。
ゴブリンキングがどちらを優先して防ぐかによって、俺は動きを変えなければならない。猶予は一瞬しかないだろうが、ここでやらなければ勝機はないだろう。
そんな一瞬の駆け引きなんて、社畜時代に経験済みだ。あの時は、直接的に命を賭けたことはないが、生活が懸かっていたという点を見れば、命を間接的に賭けていたといっても過言ではないはずだ。
「――まあ、そうなる可能性も考慮していたけど、実際にそうなるなんて、嫌になってくる」
俺たちの挟撃に対してゴブリンキングが取った対応は、火の玉を背中で受け止め、俺の方に身体を向ける。今まで一撃必殺を誇って来たゴン太の火の玉は、このダンジョンボスを以て一撃必殺ではないということが証明されてしまった。
「うぉぉぉ!!」
ゴン太の火の玉が効かなかった以上、俺からヘイトが離れることはない。つまりどんな判断を採ろうと、俺への攻撃を事前に防ぐことは、ほぼ不可能になってしまった。
そんな状況での最適解は、ゴン太の火の玉が少しでも効いていることを願っての突撃。それは一か八かの賭けに過ぎないが、格上相手に勝利するためには必要なギャンブルだ。
「グギャ」
横向きに剣を振り抜いて来る。
俺の能力では到底捉えきれない速度で振るわれた大剣だが、なぜか見えていた。見えるとは言っても速いのには変わりなく、地面に伏せて避けることしかできない。
伏せてしまえば、次の動作への遅れが生まれ、最終的には不利な選択となる。しかし伏せていなければ、一撃で葬られていた可能性を考慮すると、最適解だと願いたい。
「――ッ!!」
あんなに重たそうな大剣を振り抜いておいて、直ぐに縦に振り下ろしてくるなんて、どんな膂力をしているんだ。
横に転がることによって、何とか死は避けられたが、立ち上がれるまでは油断できない。
「ゴン太!」
俺の意図を分かってくれたゴン太が、四つの火の玉を浮かべる。
その全ての火の玉は、ゴブリンキングの手元へと進んで行く。相変わらずゴブリンキングはゴン太に目もくれず、俺のことだけを狙い続けてきている。魔物にモテるなんて、嫌だな……ゴン太みたいな可愛らしい魔物であれば、別だけどな。
「グギャ?」
やっぱり火の玉の威力では、大剣から手を離させることはできないか。それでも熱のお陰で、若干の握力の弛みが見えた。
「うぉぉぉ!!!」
急いで立ち上がり、己の剣をゴブリンキングの大剣へと叩きつける。
鋭く睨みつけて来る眼光に、本能的に身体が震え始めているが、ゴン太の顔を思い浮かべて無理矢理震えを抑え込む。
ゴン太の火の玉が筋肉の弛みをもたらしても、その握力は化け物域から落ちることはない。あとは俺の膂力と火事場の馬鹿力で落とさせるしかない。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
全身の筋肉が悲鳴を上げていた。ただ、それと同時に全身の筋肉が器以上の力を発揮しているのも分かる。
これが火事場の馬鹿力……死に際で発揮される100%の力……このまま押し切れなければ、身体の限界よりも先に心が折れる。そんな気がするな。
「――」
「グギャァ!!!」
かすれた雄叫びが自分の耳に入ってくる。
ふっ、ようやくゴブリンキングの雄叫びも耳に入れることができた。焦っているのか、怒っているのか……どちらにしても感情を揺さぶることができたのなら、おっさんにしては上出来だろう。
「後は頼んだぞ」
「コーン!」
一人だったら心が折れていた。
でも俺には仲間がいる。俺以上に強い、頼りになるゴン太って仲間がな。
次回、【第1章 焔が輝く狐火】編が終了になります。
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